第53話:昨日の出来事
ピンポーン。
朝、家のチャイムが鳴り響く音で目が覚めた。目が覚めたと言ってもまだ、意識はぼんやりしており、ふかふかのベッドの中で私は寝返りを打った。なんだかいつもと違う寝心地に感じる。またいつもなら気にすることのない匂いも今日は何だか心地よい匂いがしたように感じた。
私は夢心地、意識半分で布団にうずくまっている。下の方から、玄関が開けられた音がした。
(ふぁ......おかしいな......下の階は誰も住んでなかった気がしたけど......,)
未だ目を閉じて、うとうととしている。この二度寝するかしないかの時間が一番幸せだったりする。
「......!」
「......!」
した方から誰かが言い争っているような声が聞こえる。別に激しい口調で罵り合っていると言った感じではない。
どこか長年連れ添った夫婦のようなそんな感じだ。
(......私も起きて......準備しなくちゃな......あ、今日は土曜日か......もうちょっとだけ......)
「......!」
「......!」
しかし、私のそんな安眠を妨げるような声がまだ下の方から聞こえてきている。
私はようやく、目を開ける。まだまだぼんやりしている。
(昨日どうやって家に帰ってきて寝たんだっけ?)
私はしばらくそのままぼーっと薄めの状態で考える。そして天井を見上げた時。
「あ!!え!?ここどこ!?あれ!?私なんで!?」
私は一瞬で意識が覚醒するとそのベッドから飛び起きた。そう私は昨日、正体不明の敵と抗戦した後、脇腹を負傷したのだ。それで気づいたら公園に来ていて......そこからの記憶が全く思い出せない。
私は怪我を負ったはずの脇腹を抑えるもそこに怪我をした痕跡は見当たらなかった。
「この傷の消え方は......魔術?」
そう魔術以外に怪我の痕跡をこんなに綺麗に消せるなんて言うのは思い付かなかった。それならば、誰が。協会の人が誰か偶然に通りかかって助けてくれたのだろうか。その可能性が高い。
さらには服も自分が着ていた学校の制服でなくなっている。Tシャツにハーフパンツ。その助けてくれた人物がきっと着替えさせてくれたのだろう。
「でも、これ......男物よね......?」
私は嫌な予感を感じつつも、助けてくれた人物にお礼を言わないわけにはいかなかった。どうやらここはその人物の家の2階のようだった。
とりあえず、下に降りてお礼を言いにいかなくちゃ。そう思った時、ドタドタとすごい勢いで誰かが2階へ上がってくるのがわかった。しかも二人。
「これ一体どういうこと!?なんで女の子のローファーなんて玄関に置いてあったの!?それに......この学生鞄誰の!?1階にいないってことは誰か2階にいるんでしょ!?」
「ちょちょちょ、待って待って!本当に待って!!誰もいないから!お願いそっちはダメ!!!」
「離して!!」
「あ、ちょ......」
その声はどちらも聞いたことのある声だった。私はあまりの突然のことにその場を動くことができない。
そして私が寝ている寝室であろうドアが開けられた。
「あ......」
「え......うそ......」
「......」
開かれたドアの向こうには私を見た瞬間に茫然自失になった雫と魂が抜け落ちた様子の三波君の姿があった。
◆
「説明してもらえる?二人は昨日一体、ナニをしてたのかな?」
現在、俺は1階のリビングのダイニングテーブルに座っている。隣には高崎さん、正面には雫である。
雫が恐い。何が恐いって分からんけど、今の雫からは根源的な恐怖を感じる。ここまで恐い雫は幼馴染み歴17年で一番かもしれない。
「あ、あの雫さん......っ!」
俺は恐る恐る雫に声を掛ける。しかし、雫はキッとこちらを強く睨むと有無を言わせない無言の圧力を与えてくる。どうやら俺に弁解をさせてくれるつもりはないようだ。それなら何で「二人は......」って聞いたし!?
それにしてもこれはまるで浮気現場がバレてしまったようである。いや、浮気なんてしてないんだけど。そもそも高崎さんとは何もしていないし、雫とも何もない。それなのになぜ......
「えっと、雫。ごめん、私も状況があんまり分かってないんだけど......」
高崎さんは訳が分からないと言った様子でそう答える。当然だろう。だって昨日俺が保護しただけだし。
「真白ちゃんも分かってるの!?二人とも、まだ未成年だよ!?それなのにそのお泊まりなんて......」
「ちょっと待って!雫!私、別にお泊まりだなんて!!」
「ううん、いいの......真白ちゃんは悪くないよ......二人がそんな関係なら言ってくれれば私だって......それにちゃ、ちゃんと......」
「?」
あーこれはあかんな。完全に雫の勘違い。暴走してしまっている。高崎さんの話も聞いちゃいない。高崎さんは巻き込まれてしまった形だ。申し訳ない。この誤解を解いた後でちゃんと謝ろう。
「ちゃんとひ、避妊はしたの!?」
「ブッ!?」
「ええ!?」
「ちょっと待て!!雫!お前は完全な誤解をしている!!」
雫が暴走した段階で半ば手をつけられなかったが、これ以上は本当にダメだ。高崎さん当の本人ですら訳が分かっていないはずだ。そんな状態でさらに第三者から誤解。もう手がつけられないぜ、畜生。
「ご、誤解って何がよぉ.......?」
「ひ、ひにん......」
はいはい。カオスカオス。もうこれどうしよう。色々収集付かんわ。雫は涙目。高崎さんは頬を真っ赤に染め、手で顔を覆っている。
「はあ......」
俺は諦念とともにゆっくりと事情を説明し始める。
「そのだな。雫言っておくが、高崎さん本人も訳が分かってないと思うぞ」
「......え?どういうこと?」
「まず、一つ。俺と高崎さんの間には何もないよ。本当だ。昨日、高崎さんが公園に倒れていたんだ。だから、その......保護した......」
なんというかかなり苦しい言い訳だ。普通、倒れていたら救急車呼ぶ。普通の人だったらそうしてたさ。
「本当......?」
雫は首を傾げながら相変わらず、目尻に水の玉を浮かべながら俺ではなく、高崎さんに聞いた。
「え?ええっと......そうです......」
「でも!でも普通倒れてたら救急車呼ぶよね!!?」
はい、来ました。今一番来て欲しくなかった質問です。どうしよう......俺がどう言い訳するか考えているとそれを察したかのように高崎さんは答え始めた。
「いや、その時、私意識あったの!実は貧血で......大事にしたくないから救急車は呼ばないでって三波君に頼んだの!!その後、意識失っちゃったから......」
「.......」
高崎さんは俺の嘘に乗ってくれた。しかし、これも中々苦し紛れ。これ以上、追求されてしまえば言い逃れはできないが......無言で考える雫を俺は真剣な眼差しで、そして確かな焦燥とともに見つめる。
「分かったよ!!真白ちゃん!!大変だったんだね!!分かるよ!私もよく貧血になるし......よく公園で休むこともあるからその気持ち分かる!」
「!!......ははは......」
雫は身を乗り出し、高崎さんの手を取る。高崎さんは何かを察したのか乾いた笑いをしている。
「ほっ......」
どうにか誤魔化し切れたようだ。確かに雫はよく貧血になりがち。病弱とまではいかないがどうやら体質らしい。女の子にはよくあることなのか......?
いやー、これでどうにか雫の誤解を解くことができた。それもこれも高崎さんの機転のおかげだろう。ふいー。助かった。
「あ、でもその服、新のだよね?真白ちゃん自分で着替えたの?」
「ああ、それは俺が着替えさせたよ。高崎さん気を失ってたし......っ!?」
俺は答えてから後悔する。何で俺はこんなことバカ正直に答えちゃうかな。俺の馬鹿!アホ!!
前に般若が降臨した。そして高崎さんは茹でダコのように真っ赤になってしまった。
「あ・ら・た、それはどういうこと......?」
「み・な・み・く・ん......?」
「あー、え?いやー?」
この後、めちゃくちゃ怒られた。
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