第21話:過去へのリベンジ
その日、俺は会長に手帳を返すことができ達成感に満ち溢れていた。
偶然会長の秘密を知ってしまったとはいえ、慌てふためく会長を思い出すと自然と笑みが溢れた。
会長も人間らしいところあるんだな。
今日は、本屋に寄って漫画を買うため雫には先に帰ってもらった。雫も一緒に付いていくと言ったが断った。
俺は割と一人で宛てもなくブラブラするのが好きだったりする。
もちろん、誰かと出かけるのも好きだが、たまにはそういう気分になることもある。
「お?新刊出てる!」
本屋で目的の本を探し出した後、他にも色んな本を見て回った。漫画だけでなく、時折こうして、適当に手に取った本をパラパラと見て面白そうであれば買う。
前評判を知らない本だからこそ、新しい発見や楽しみを得ることができる。
こうして本屋をウロウロしていると本を手にする一人の少女が目に入った。
「あれは...高崎さん!?」
お昼ぶりではあるが、高崎さんを発見したことにより胸が高鳴る。
どどどどうしよう。声をかけようかな?
いや、でもやめとこうかな。うーん。
彼女を陰から見つめながらぶつぶつと考える新は完全に不審者である。
「あっ!行ってしまった...」
ついに声はかけられず彼女は本屋を出て行ってしまった。
やっぱり、俺ってチキンだよなぁ。よく告白できたと過去の自分を褒めながら本屋から出た。
しばらく、先ほど買った新刊のことを楽しみにしながら歩いていると、路地裏の方から言い争いが聞こえる。
なんだ?ケンカか?
「やめてって言ってるでしょ!」
「いいじゃん?遊びに行こうよ?」
「俺らなら楽しませれるぜ?」
「へへっ!」
この声は...。やっぱりそうだ。高崎さんだ。ヤンキーっぽい三人組に絡まれている。
そういえば、以前もこんなことがあった気がするな。あの時は、確か俺も顔を殴られて怪我した記憶がある。
格好良く、彼女を救うつもりが非常にダサい。助けに来たと思ったら役に立たないのである。女子からしたら何しにきたんだよってなると思う。
その時はどうにか、高崎さんを連れて逃げ出すことができたが。
っと!考え事してる場合じゃない。高崎さんを助けなければ。前の二の舞にはなるまい。
「ごめんー!高崎さん、待った?」
「え?三波君?」
「さあ、行こうか!」
我ながらベタである。ベッタベタで使い古された助け方だ。しかも路地裏で待ち合わせってなんだよ。自分でツッコミながら、高崎さんを連れ出す。
「おい、誰だよお前?」
「何格好つけてんの?」
「へへっ!」
当然こうなるよな。前もこうなったもん。俺は現在、高崎さんとともに三人に囲まれている。
あれ?俺今何気に高崎さんの手握ってるよね?やだ!うれしい。そして恥ずかしい。
「おい!聞いてんのか?てめえ!」
うっさいな!こっちはちゃっかり握ってしまった高崎さんの手の感触を楽しんでるんだ!邪魔するなよ!やっぱり女の子の手って柔らかい。
「調子乗ってんじゃねえよ!」
金髪の男が握りしめた手をこちらに向かって放ってくる。
「三波君!」
高崎さんの心配する声が聞こえる。
そして拳は俺の顔に直撃する。
めしゃっ
何かが砕けた音が聞こえた。
「ぎゃあああああ」
「え!?」
倒れたのは金髪の男だった。金髪の男は手を抑えてそこにうずくまっている。
高崎さんは何が起きたかわからない様子だった。
「てめえ!何しやがった!」
「やべえよ!やべえよ!」
もう一人の目つきの悪い男も金髪の男がやられて焦ったのか、殴りかかってくる。
俺は冷静に男の動きに合わせ、最小限の動きで攻撃を避ける。続けて避けて隙ができた男の胸ぐらを片手で掴み、上に引き上げる。首のしまった男は苦しそうな声を出すが、俺は構わずに投げ飛ばした。
「ひいいいいいい」
もう一人の男は完全に戦意を喪失したようだ。
「高崎さん、今のうちに!」
「え!?あ、はい!」
俺はまた高崎さんの手を掴み、今度こそ路地裏から連れ出すことに成功した。
よし!前の二の舞にはならなかったぞ!今日は頼れる男だったのではないだろうか。それにしても高崎さんいい匂い。
「ここまでくれば大丈夫かな。」
「えっと、ありがとう。」
俺は名残惜しく思いながらも掴んでいた手を離した。ああ、本当に名残惜しい。
「それにしても、高崎さんあんな路地裏で何してたの?」
「へ!?いや、そのちょっとね...。」
なんだか歯切れが悪いな。高崎さんみたいな人があんな薄暗い怪しい場所に何か用があるとは思えないけど。
まあ、言いたくないならこれ以上は聞くのは野暮ってものか。これを察せるのはいい男の条件だ。多分。
「ま、まあ何か用があるにしてもしばらくはあそこ近づかない方がいいと思うよ!」
「そ、そうだね!気をつけるよ...。それにしても三波君ってそんなに強かったの?前は、そうでもなかった気がするけど...」
「え!?いやー。色々ありまして...」
今度は俺の歯切れが悪くなる。いやあ、本当に色々ありました。あの出来事を思い出し、遠い目になる。
「そ、そうなの。まあでも本当に助かったよ。ありがとね?」
花が咲くような笑顔でお礼を言う。
か、かわいい...。天使なのか?いいや、天使だ。
俺が追求したのと同じように高崎さんもこれ以上は聞かないでいてくれた。
「そ、それじゃあ、また学校で!気をつけて帰って!」
「う、うん。ありがとう。また学校でね?」
そうして高崎さんと別れ、ようやく家に帰った。
きっと最後まで俺の顔は赤かっただろう。
家にご飯を作りに来た雫に顔にやけてるけどどうしたのって聞かれたけど、必死にごまかした。
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