不破 the Desperado VS 山田 the Killer

素浪汰 狩人 slaughtercult

第1話:不破定

――01――


「いいか。手巻きタバコってヤツぁ、分量が大事だ」

無精髭の黒スーツ男は、そう言って薄茶色の紙巻きを咥えた。

「適量がある。闇雲に詰めればいいってモンじゃねぇ」

男の名は不破定(フワ・サダム)……職業・殺し屋。


手狭のオフィスには、死体と空薬莢が散乱していた。

カーテンの隙間から差す日光が、吐き出される紫煙を白く映し出す。

荒らされた部屋の中央には、椅子に縛られたジャージ男。

股座は失禁し、顔は恐怖に凍りついていた。


「詰め過ぎれば燃え難いし、味がしなくなる。わかるだろ?」

不破が一歩踏み出し、サンダースの黒革靴で空薬莢を踏みしだいた。

「……い、一体何の話だ?」

ジャージ男は、疲れ顔の中年男と視線を合わし、冷や汗を流した。


「これからお前が喋ることになる話さ」

不破が紫煙を吐きかけると、ジャージ男は激しく噎せ返った。

「ゲホッ、ゲホッ! は、話すことなんか何もねぇ! さっさと殺せ!」

不破は懐からスイス・アーミーナイフを取り出す。


「ハハハ……よし、よし。男ってのはそうでなくっちゃな!」

カチリ。五徳ナイフの白刃が閃く。

「な、何を……」

次の瞬間、ジャージ男の右太腿に、白刃の2/3ほどがめり込んだ!

「ンアアア゛――ッ!?」

男は激痛に悶絶!


「さぁ、大腿動脈が切れたぞ。抜いたら1分で失血死だ。分かったか?」

不破が面倒臭そうに言うと、ナイフを僅かばかり引っ張った!

「ザッケンナテメッ……ア゛――ッ!」

ジャージ男は天を仰ぎ、脂汗を垂らして全身痙攣!


――02――


「て……手前、何モンだ! 何だって俺たちを狙いやがる!」

不破は気怠げに紫煙を吐いた。唇に巻紙が貼りついて裂け、舌打ちする。

「俺が聞きたいのは、お前らが攫ったアバズレ女の行方だ……」

ジャージ男が身震いした。


彼の脳裏に、数日前に現れた二人組の姿が蘇る!

『俺たちのことは詮索するな。命が惜しければな……ククク』

体長2メートル近い、アロハシャツの筋肉ハゲ男!

隣には、血のように赤いスーツを着た、冷酷なインテリ眼鏡男!


「何か思い出したって面だな。違うか?」

不破は、背負った緑灰色のカービン銃……SAN SG553Rに手を伸ばす。

銃にはサイレンサーと、グレネードランチャーが装着済みであった。

不破は咥えタバコで、おもむろに銃を構える!


銃口の先に転がる死体!

シュボンッ! サイレンサーが硝煙を噴き、死体の茶髪頭が爆散!

「お……俺たちは、ただ連れて来いって言われただけだ!」

ジャージ男が再失禁し、懇願めいて叫ぶ!

「よし、よし。雇い主は誰だ」


ジャージ男は視線を彷徨わせ、口を噤んだ。

「引き伸ばし作戦か? その手は食わねぇ」

不破は紫煙を吐くと、レビュートーメンの懐中時計を取り出す。

「時間切れだ……」

わざとらしく文字盤を眺め、ジャージ男に屈み込む!


「か、かかカレイドケミカル! 確かそんな名前だった!」

ナイフが引き抜かれ、噴血!

「ナンデ――ッ!?」

不破はジャージ男の襟元で、淡々と血を拭った。

「ウワ――ッ!」

絶叫する男を背に、不破は踵を返して歩き出す!


――03――


帝都に輝く摩天楼! 威容を放つ、製薬会社『カレイドケミカル』本社ビル!

地下駐車場のゲート前に、1台のプロボックス!

「ムグーッ、ムグーッ!?」

荷台に縛られた黒ドレスの女・百目鬼聖羅(ドウメキ・セイラ)! 猿轡を噛んで暴れ、豊満な胸が揺れる!


『社員証ヲ提示シテ下サイ』

「エッ、社員証!?」

運転席から飛び出さんばかりのアロハ筋肉ハゲ男・佐熊(サクマ)が狼狽!

「忘れたのか、馬鹿野郎!」

助手席のインテリ眼鏡・輿水(コシミズ)が叱責!

「クソ!」

筋肉男・佐熊が瞬間的に激怒し、ゲート端末を殴打!


ガガーピピピ! 画面に走る砂嵐と、端末から吐き出される駐車券!

『ガガピー……オ疲レ様デス!』

「この手に限る!」

佐熊が駐車券をむしり取ってキメ顔! 白い歯がキラリと輝く!

インテリ眼鏡・輿水は呆れ顔で頭を振った!


ブロロロンッ! ターボ音を轟かせ、プロボックスは駐車場構内を疾走!

ギャリギャリギャリッ! エレベーター前でドリフト停車!

輿水と佐熊は、即座に降車!

荷台を開くと、佐熊がドレス女・聖羅を肩に担ぎ上げる!

「ムグーッ、ムグーッ!」

聖羅が暴れ、豊満な胸も暴れる!

「大人しくしろ、このアバズレがッ!」

スパンッ! 輿水が、豊満な尻を平手打ち!

ポーン! エレベーターが開くと、白詰襟の警護社員が無数に歩み出た!


白詰襟の群れが左右に割れ、長身で杖を突いた眼帯男・閏間(ウルマ)が登場!

傍らには背の低い、白衣の老研究者!

「お疲れ様です、専務! 回収した『素体』をお届けに参りました!」

「よくやった。これで、計画の完成まであと一歩だ!」


――04――


ドルルルッ! 深緑の矢めいて、路上を疾走する旧式クーペ!

ボルボ P1800E……不破の愛車だ!

エンジン全開で水溜りに飛び込み、派手に水飛沫を散らす!

ワイパーが泥水をかき分け、冴えない無精髭の中年顔を映し出す!


不破は片手でブラックベリーを操作した。

ズド―――――ンッ!

ルームミラーの向こうで、雑居ビルの3階オフィスが爆発炎上!

制圧したチンピラたちの拠点だ!

不破はミラー越しに黒煙を一瞥し、咥えた紙巻きに火を点ける。


ポタッ、ポタッポタッ……ザザ――ッ!

鏖殺された犠牲者の魂が天に上り、メガロポリスの黒雲が涙雨を降らす!

不破はサンバイザーに挟まれた写真を取り、女・百目鬼聖羅の横顔を一瞥した。

「殺人ウィルスの保菌者(キャリア)……か」


『カレイドケミカル』本社ビル!

不破は荒っぽいハンドル捌きで、車を歩道に乗り上げて急ブレーキ!

噴水めいた水飛沫が、通行人のビジネスマンをずぶ濡れに!

「バカヤローッ!」

ビジネスマンが傘を投げ捨て、車を睨んで激怒!


不破は助手席のSG553Rカービン銃を掴むと、残弾を確認して降車。

すかさず詰め寄るビジネスマン!

「30万のスーツがパァじゃねえか! 弁償できんのかコラァ!」

「何か言ったか?」

ビジネスマンは、不破の銃を見るや否や走り去る!


激しい雨が、不破の黒スーツを一瞬で水浸しに変える。

不破は感情の窺えぬ無表情で、正面玄関へと続く石段を昇った。

カレイドケミカルの野望などどうでも良い。

彼はただ、依頼に従って敵を殺戮し、女を奪還するのみだ。


――05――


エントランスホール。

芝居がかった回転ドアが、濡れそぼつ不破を迎え入れた。

豪奢な総大理石の床に、滴った水が足跡を残す。

「何だあいつ!?」

「銃、銃持ってるぞ!」

「警備員――ッ!?」

突然の闖入者にホールは騒然!


ただならぬ雰囲気に、駆け寄る警備員たち!

腰のホルスターから、ストライク・ワン拳銃を抜き放つ!

「貴様、止まれ! 動くと撃つぞ!」

「止まれと言ってるんだ!」

ドン、ドドンッ! 容赦の無い発砲! だが威嚇射撃だ!


「「「ギャーッ!?」」」

飛び交う絶叫! 逃げ惑う人々!

不破は赤子をあやすように、顔の横で両掌をひらひらさせた。

三人の警備員が拳銃を構え、注意深く歩み寄る!

次の瞬間、不破は懐から緑灰色の二挺拳銃を抜き放つ!


警備員たちは銃を構え直すが、遅い!

不破が片目を窄め、獰猛に笑った!

シュボンッ、シュボンッ、シュボンッ!

両手のスフィンクス・SDPが、サイレンサーの銃口から硝煙を噴く!

警備員たちの手から、拳銃が弾け飛んだ!


「三下はすっこんでな! 命は大事だぜ!」

警備員たちは冷や汗を流してホールドアップし、壁際まで後退した。

スーツ男は欠伸をこぼし、床の拳銃を蹴ってカウンターに歩み寄る。

「どうもー。危険物の回収に伺いました」


薄桃色の制服を着た受付嬢たちが、視線を交わした。

ビガービガービガービガー! 鳴り響く警報音!

「ま、そうなるか」

シュボンッ! 受付嬢のイヤリングが爆散!

「次は頭撃つぞ。余計なことすんな」

受付嬢は無言で失禁!


――06――


総ガラス張りエレベーターの外には、雨打つメガロポリスの幻想的風景。

ビガービガービガービガー! 警報音と赤色点灯!

「何の騒ぎだ?」

「ムガーッ、ムガーッ!」

インテリ眼鏡・輿水の呟きと、筋肉男・佐熊の肩で暴れるドレス女・聖羅!


「ヤツら、取り返しに来たか。三下を雇ったようだな、輿水」

眼帯男・閏間は床を杖で突き、冷笑めかして低く告げた。

「ハッ! 面目次第もございません!」

輿水は素早く45度敬礼で謝罪!


ピピピ、ピピピ! 緊急連絡の電子音だ。

輿水は血のように赤いスーツの袖をまくり、スマートウォッチを確認。

「相手は一人か。安く見られたもんだな」

「俺たちが出張るまでもねぇ!」

佐熊がつまらなそうに吐き捨てた。


そして、エントランスホール。

ポーン、ポーン、ポーン! 数基のエレベーターが立て続けに到着!

武装した白詰襟たちが、続々と吐き出されてホールに集結!

彼らの手にはPP2000短機関銃! 警備員の拳銃より遥かに強力だ!


指揮官の女がA-91ブルパップ銃を携え、ブーツの音を響かせ颯爽と現る!

白詰襟の豊満な胸元に、社員バッジが輝く!

「フルオートの使用を許可する! 客人を丁重に”おもてなし”しろ!」

ガシャッ! 女は銃に弾を装填した!


「「「「「イラッシャイマセ! ゴユックリドウゾ――ッ!」」」」」

バラバラバラバラ――ッ! 白詰襟たちが前進しながら短機関銃を乱射!

吹き抜けの2階からも援護射撃だ!

受付嬢たちは慌ててカウンター下に潜り込む!


――07――


「ヤツら、本気みてぇだな! 手加減なしかよ!」

不破は素早く身を翻し、大理石柱の影に滑り込む!

大量の9mm徹甲弾が大理石で跳弾!

「ア゛――ッ!?」

逃げ遅れた警備員が流れ弾でハチの巣に! 全身から噴血して即死!


「ホラホラ――ッ、撃って来いよ――ッ! どうしたどうした――ッ!」

指揮官の女は2階で腕組みし、数人の盾兵に守られながら哄笑!

バボッ、ギ―――――ンッ!

次の瞬間、耳を聾する轟音と共に、視界が閃光に包まれる!


バラバラバラバラ――ッ! ガチンガチンガチン、ガチンッ!

目潰しを食らった白詰襟たちは、短機関銃を撃ち尽くして棒立ちに!

「マズイッ!? 伏せろ――ッ!」

指揮官の叫びも届かず!

ガポンッ! ズド―――――ンッ!


轟音がエントランスホールを揺らし、2階の手摺が炸裂!

人間の手足や頭部と共に、大理石の破片が剥落する!

「クソッ、こいつは高いんだぞ!」

不破は毒づき、走りながらSG553RのGL5140ランチャーを再装填!

40mmグレネードだ!


ガポンッ! ズド―――――ンッ! 再び2階で榴弾が炸裂!

「「「グワアアア――ッ!?」」」

手足を失い、白詰襟たちが床を転がり泣き叫ぶ!

シュボボボボボ――ッ!

不破は1階の棒立ちした白詰襟たち目がけて水平射撃!


今度は7.62mmAK弾の連射が、白詰襟たちを襲う番だ!

貫通、流血、脳漿炸裂! 指が弾け、骨が砕け、腸が引きずり出される!

「「「ウガアアア゛――ッ!」」」

不破は再び、手近な石柱の影に身を隠し、SG553Rを再装填!


――08――


ガシャッ! 不破は銃に初弾を装填すると、石柱の影から半身を乗り出す。

白詰襟の生き残りたちが、銃を再装填! 閃光弾の影響から脱しつつある!

シュボボッ、シュボボッ、シュボボッ!

石柱で身を庇いつつバースト射撃!


「ングウ……ハッ!?」

女指揮官は全身に鈍い痛みを感じ、石床の上で意識を取り戻す。

盾兵たちは盾を構えたまま、彼女を下敷きに引っ繰り返っていた。

「ゲホッ、ゲホッ……おい、起きろ!」

女指揮官が盾兵を叩き起こす!


人間の一部を蹴飛ばし、血溜まりを踏み締め、亀裂の入った手摺に近づく。

「危険です、梧桐(アオギリ)課長!」

女指揮官・梧桐は制止を振り切り、手摺からA-91の銃口を突き出した!

眼下のホールは死屍累々の地獄絵図!


バララバララッ! シュボボッ、シュボボッ! 交錯する大量の銃弾!

不破は一ヶ所に留まることを避け、移動と短い連射を繰り返す!

「クソッ、ちょこまかとッ!」

「死ね――ッ!」

バララララッ! 徹甲弾が大理石を抉る!


「おのれッ! たった一人相手に、不甲斐ないッ!」

梧桐は2階から見下ろして激怒!

「お前らも銃を持て!」

盾兵たちが手近な負傷者からPP2000を奪い取り、盾の横に構える!

「私が仕留める! 援護射撃で釘付けにしろ!」


シュボボッ!

「ア゛――ッ!?」

不破のカバー射撃が、白詰襟の一人の脳天を粉砕したその時!

バラバラバラッ、ズドドドド――ッ! 2階から殺到する銃弾!

「何だッ!?」

不意打ちの連射! 間一髪で退き、石柱に隠れる!


――09――


シュボボボボボ――ッ!

不破は石柱の隙間から銃口だけ突き出し、ブラインドファイア!

「クソッたれ! 油売ってる暇ァ無ェんだ!」

ガチンッ! 弾切れ! 不破は冷静に退いて弾倉交換!

……その時、彼の背後に近づく影!


「死ねェ――ッ!」

血みどろの白詰襟が、PP2000をランボーめいて腰だめに構える!

「なッ……ヤッベェ!」

不破は白詰襟を尻目に見ると、SG553Rを放り捨て、懐の拳銃を抜いた!

バラララララ――ッ! シュボン、シュボン!


白詰襟のばら撒いた徹甲弾は、不破の手足を掠め、胴体に5発着弾!

高性能の防弾ベストが貫通を食い止める!

不破はSDP拳銃を左手で抜き、振り向き様にダブルタップ!

「ア゛――ッ!?」

白詰襟の喉首と額に着弾し貫通!


2階で盾兵と並び、梧桐が制圧射撃を敢行!

「今度は貴様が味わう番だ!」

A-91の前方トリガーから指を離し、後方トリガーに指をかけ替えた!

「くたばれッ!」

ガポンッ! 下銃身から40mmロケット・グレネード発射!


白詰襟が崩れ落ち、不破が拳銃を片手に尻餅をついた!

「クソッ! 危なかったぜ……」

ズド―――――ンッ! 榴弾の直撃で、石柱に亀裂が走る!

「グワ――ッ!?」

不破はSG553Rに手を伸ばしかけ、衝撃波で吹き飛んだ!


不破は石畳に転がり、数秒間の失神から目覚める!

「ゲッホ、ゴッホ!」

吐血! 爆音が耳の奥で何重にも反響し、身体が鉛のように重い!

「畜ッ生……!」

全身を苛む疼痛に顔を歪め、不破は這いずってSG553Rに手を伸ばす!


――10――


60階。研究フロアに繋がる一本道を、眼帯男・閏間ら一行が悠然と歩く!

彼らの周囲を、A-91ブルパップ銃で武装した白詰襟たちが厳重警護!

防弾ガラスのセキュリティドアで歩みを止め、眼帯男が端末で指紋認証!

ピー、ガチャン!


隔壁が開くと、電子機器が並べられた広大な研究エリア!

「お前たちはここで結構」

眼帯男は随伴の白詰襟たちに告げ、側近を引き連れてフロアに歩み入る!

「「「お疲れ様です、専務!」」」

白衣の研究者たちが続々と敬礼!


研究エリアの最奥。

バイオハザードマークの実験室前で、防護服姿の研究員たちが待機!

「よいしょっと!」

ドサリ。筋肉男・佐熊が、担架にドレス女・聖羅を下ろした。

聖羅は己の末路を悟ってか、絶望の表情で呻き声一つ上げない。


「おい! 生物災害クラスの『危険物』じゃぞ、もっと慎重に扱わんか!」

「悪ィ。レディのエスコートは不慣れなもんでな」

老研究者の怒声に、筋肉男が嘲笑で肩を竦めた。

「じゃ、専務……ワシはこれで」

「うむ。宜しく頼むぞ、教授」


ズン……。ビルを揺るがす微かな振動!

「何だッ!?」

インテリ眼鏡・輿水が苛立たし気にスマホを確認!

監視カメラ直結のリアルタイム映像……その惨状ぶりに輿水が息を呑む。

「無茶苦茶な、市街戦でもやってンのか!?」


ヒュウ! 佐熊が口笛を吹き、瞳を胡乱に輝かせた。

コン……。閏間が杖を鳴らした。

「輿水、佐熊。鎮圧隊に合流しろ」

「捨て身の一匹狼(ローン・ウルフ)……楽しめそうだ!」

佐熊が獰猛に笑い、輿水の眼鏡が冷徹に光った!


――11――


バラバラバラ――ッ!

白詰襟たちの一転攻勢に、ひび割れた石柱が破片を散らす!

「クソッ、クソッ、クソッ!」

不破は口元から血を垂らしながら、顔を苦痛に歪めて匍匐前進!

右手を伸ばし、愛銃のSG553Rを……掴み取る!


ガポンッ! ズド―――――ンッ! 石柱に榴弾炸裂!

亀裂が深まり、大きな破片が剥落! あと一発で崩落の危険!

「チッ……悠長にリロードしてる時間は無ェなッ!」

不破は舌打ち、SG553Rを肩に担いで手榴弾を抜いた!


「撃ち続けろ! そいつを絶対に逃がすな!」

銃声に劣らぬ大声を張り、女指揮官・梧桐が盾兵に守られながら登場!

カランコロンッ! その時、物陰から投げ込まれる銀色の物体!

「手榴弾――ッ!」

バボッ! ブシュウ―――――ッ!


「馬鹿なッ……催涙ガスッ!?」

呆気に取られる梧桐! 警護隊の眼前で、手榴弾から噴き出る白煙!

見る見る内に、CSガスが視界を白く染める!

「「「ゲボッ、ゲボ――ッ!?」」」

白詰襟たちが銃を投げ出して悶絶!

シュボンッ、シュボンッ、シュボンッ、シュボンッ!


不破はガスマスク姿で石柱から飛び出し、二挺拳銃を撃ちながら迂回!

「オゴ――ッ!?」

白煙の中で、白詰襟が喉を抑えて苦しむ!

シュボンッ! ヘッドショットで即死!


「ゲボッ……この、ガハッ……卑怯者……、オゴッ……がぁ――ッ!」

ズドドドドド――ッ!

梧桐は号泣しながら白煙を見渡し、A-91を全方位無差別フルオート掃射!「「「ア゛――ッ!?」」」

無数の白詰襟が被弾して倒れる!


――12――


ガポンッ! ズド―――――ンッ! 榴弾がひび割れた石柱を直撃!

大理石が完全に砕け、巨大な石礫が降り注ぐ!

「「「ア゛――ッ!?」」」

数人の白詰襟が崩落の巻き添えに!

バララバララッ! 銃を乱射しながら倒れる!


「ゴボォッ! ゲホッ、ゴホッ……逃がさん、逃がさん、ぞぉ……ッ!」

ホールに漂う白煙の中から、躍り出る一人の人影あり! 梧桐だ!

彼女は中央階段を駆け上がる不破の背中に、A-91の銃口を構えた!

「死に損ないめッ!」


カチリ……カチ、カチ。ランチャーの引き金が空撃ち!

「クソッ、何故だッ! 大事な時に、このポンコツめッ!」

否! 彼女は激昂して乱射する最中、既にグレネードを撃っていた!

だが自分でそのことに気づいていない!


ポーン! 不破は息も絶え絶え、到着したエレベーターに転がり込む!

「グハッ、ハァ……ハァ。何とか凌いだぜ」

ガスマスクを外し、放り捨てた!

「いやちょっと待て。あの女は何階だ?」

ボタンに手を伸ばしかけ、躊躇う!


選べるボタンは30階まで。ビルの大きさに比べると明らかに少ない!

「セキュリティ保全か。上層階と下層階で分かれてやがるな……」

不破は直感で30階のボタンを叩いた。

「その後どうするかは……上がってから考えるさ!」


凄まじい速度でエレベーター上昇!

「やれやれ。長い一日になりそうな予感だぜ」

総ガラス張りのエレベータの向こうには、雨打つメガロポリス。

不破は溜め息と共に、SG553Rの弾倉を交換した。

ガシャッ! 戦闘準備完了!



【前半終了:お疲れ様です:後半再開】



――13――


摩天楼の頂上、社長室。全面防弾ガラス張りの豪奢な空間。

窓際に禿げ猫を抱いて佇む、スーツ姿で肩幅の広い巨漢。

藍色のスーツは最高級のチェーザレ・アットリーニ。

男の名は、カレイドケミカル社長・萬藤(マンドウ)。


窓の外は、雨打つメガロポリス。

ガラガラドーン! 黒雲に稲妻が閃く!

「フシャアオオウ……」

灰色の禿げ猫(ドンスコイ)が怯えるように鳴いた。

萬藤は鼻歌を口ずさみながら、赤子をあやすように腕の中の猫を揺らす。


ドアの外から、規則的な三回ノック。

「失礼します、社長!」

「入りたまえ」

スーツ姿の中肉中背中年男、副社長・隠田(オンダ)が入室。

彼は脂ぎった顔にニヤケ笑いを浮かべ、足早に歩み寄る!

「報告です、社長!」


「聞こう」

萬藤と猫が隠田に向き直る。

「『素体』を確保しました。現在、血液を採取しウィルスを抽出中!」

「フシャアオン……」

萬藤は禿げ猫を撫で、満足げに頷いた。

「これで、世界の命運は我が社が握ったも当然!」


隠田の脂ぎった額が輝く!

「『貴方』のではない、『私』の会社だ!」

彼の袖口から滑り出す、金象眼を施されたPSM小型拳銃!

「ヌゥッ!? 隠田……貴様!?」

「貴方も社内クーデターの成り上がり! 同じ方法で死になさい!」


萬藤は猫を放り出し、懐の拳銃に手を伸ばす!

パンパンパンパン! 5.45mm徹甲弾が、萬藤の胸を貫通!

「フギャアア!?」

禿げ猫が逃げ惑う!

崩れ落ちる安藤、歩み寄る隠田!

パンパンパンパン! 顔面へ止めの4連発!


――14――


ポーン! 本社ビル30階に、エレベーターが到達!

それを待ち構えるは、A-91ブルパップ銃で武装した白詰襟たち!

「撃てーッ!」

ズドズドズドドドド――ッ!

エレベーターの扉に銃弾が殺到! 内部にまで弾が突き抜ける!


蜂の巣となった扉がゆっくりと開き……中は、無人!?

「何だとッ!?」

白詰襟たちは銃を構えたまま棒立ちで動揺!

カランコロンッ! 彼らの足元に転がり落ちる、銀色のガス手榴弾!

バボンッ! ブシュウ―――――ッ!


「「「ゲボッ、ゲボッ――ッ!?」」」

バラ撒かれるCSガスの白煙! もんどりうつ白詰襟たち!

見よ、エレベーターの上部シャフトが開かれている!

ガスマスク姿の黒スーツ・不破が、SG553Rカービン銃を携え猫めいて着地!


「オゴッ……き、貴様……ッ!」

涙、鼻水、涎を垂らして苦悶する白詰襟!

ガシャッ! 手を伸ばした先の銃が、蹴り飛ばされる!

シュボンッ! サイレンサーから硝煙! 白詰襟は脳天炸裂!

シュボン、シュボン、シュボンッ!


「コーッ……シュコー……」

床の夥しい流血を踏みしだき、白煙の中から不破が姿を現す。

壁の無い広大なオフィス空間に、パーティションと机が立ち並ぶ。

社員の姿は無い。物音一つしない。不破は銃を構えて慎重に前進した。


その時、数十メートル前方のパーティション上方から、不破を狙う銃口!

OTs-03ブルパップ狙撃銃を構えるは……インテリ眼鏡・輿水!

スコープがキラリと光る!

「シュコーッ!?」

不破が一瞬早く気づき、飛び込み前転で回避!


――15――


ズドーンッ! 7.62mm×54マッチ弾が空を切り、パーティションを5枚貫通!

「フンッ!」

輿水が深紅のスーツを翻し、素早く身を隠す!

選手交代! PKP軽機関銃を抱え、筋肉男・佐熊が登場!

アロハの肩に大量の弾薬ベルトを携行!


ズガガガガガ―――――ッ! 弾薬ベルトが回転し、壮絶な機銃掃射!

「ガーッハハハ! ここから先は……通さんッ!」

パーティションが、机が、観葉植物が弾ける!

弾幕があらゆる物を薙ぎ倒し、嵐のような着弾が接近!


ジャラジャラジャラ――ッ! 荒れ狂う空薬莢!

「ガーッハハハ!」

佐熊はPKPを掃除機めいて軽々構え、ウォーキングファイア!

不破は姿勢を低め、オフィスを逃げ惑う!

輿水はOTs-03を携え、逃走経路を先読みして迂回!


ズドーンッ! 不破のガスマスクに掠める銃弾!

床を転がって避ければ、頭上でコーヒータンブラーが炸裂!

不破は頭からコーヒーを被り、舌打ちして駆け出す!

横目に迫るガラス窓! 徐々にフロアの端に追い込まれていく!


ズガガガ――ガチンッ!

弾切れのPKPが、赤熱した銃身から白煙を棚引かす!

「ガーッハハハ! しぶとい奴め!」

佐熊は仁王立ちのまま悠々と、肩に巻いた弾薬ベルトを手に取る!

不破が身を乗り出し、SG553Rを構えた!


「させるかよ!」

ズドーン、ズドーン、ズドーンッ! 狙い澄ました援護射撃!

輿水のOTs-03がスコープを輝かせる!

「野郎ッ!」

ガポンッ! ズド―――――ンッ!

グレネードが直撃コースを逸れ、佐熊の遥か背後で炸裂!


――16――


60階、研究フロアの隔離実験室。黄色の防護服を着た3人の研究員。

部屋の中央には寝台。

黒ドレスの女・百目鬼聖羅が横たわり、拘束されている。

「教授、採血を開始します」

研究員の一人が注射器を取った。


一際背の低い防護服、『教授』と呼ばれる老研究者が頷いた。

「ウム! 作業前確認を怠るな。ウィルス感染に要注意じゃ!」

教授が見守る中、研究員が指差し三方確認!

「素体ヨシ! 周囲ヨシ! 針先ヨシ! 穿刺開始!」


聖羅は腕から伸びるチューブを一瞥し、教授を睨んだ。

「私の血で何をするつもり?」

点滴スタンドの血液バッグに、聖羅の血が吸い出されていく。

「ヒッヒヒ……世界平和のためじゃ!」

教授は聖羅を見下ろして嘯く。


それらの様子を少し離れて眺める、一人の研究員。

「山極(ヤマギワ)くん! 解析機を急ぎ用意してくれ!」

「フッハハハ! その必要はありませんよ、教授!」

山極はおもむろに、懐から銀色のOTs-21小型拳銃を抜いた!


「なッ、何を血迷っとるんじゃチミィ! まさかカブキ製薬のスパイ――」

ドンッ! 銃声と共に、教授の透明なフェイスシールドが血に染まる!

「なッ!? 山極きさ――」

ドンッ! 狼狽えた研究員も射殺! 容赦なし!


山極が寝台に歩み寄り、銃口でドレスの上から聖羅の脚をなぞる!

カチリ、カチリ、カチリ。拘束ベルトを解放!

「本当は血液サンプルだけでもいいが、素体もセットでボーナス倍増!」

嫌らしい手で豊満な胸を揉みしだく!


――17――


「ついて来てもらうぜ……俺の約束された転職と昇進のためにな!」

山極が銃口を突きつける!

聖羅は顔を顰め、片手で無造作に注射器を引き抜いた!

「さぁ、さっさと立てグワーッ!?」

山極の身体に突き刺さる注射器!


「何ィ――ッ!? このアバズレッ! ウ、ウィルスが俺の身体に!」

注射器の針先が防護服を貫通! 山極は拳銃を取り落として狼狽!

「ヒエッそんな俺の昇進! タスケテ……ゴボ――ッ!」

フェイスシールドに夥しい吐血!


聖羅は豊満な胸元を正すと、侮蔑めいた眼差しで山極を一瞥!

床に降り立ち小型拳銃を拾い上げる!

「そんなッ!? 死にたくないゴボ――ッ!」

山極、全身痙攣!

殺人ウィルスが全身を巡り、激しく吐血して速やかなる死!


「どいつもこいつも……私を物みたいに扱いやがってクソッタレども!」

聖羅の片手が、スタンドにぶら下がる血液バッグをむしり取った!

隔離研究室を脱走!

長い黒髪と豊満な胸と黒ドレスを揺らし、聖羅が大股で歩く!


研究フロアは、闊歩する聖羅の姿を見て騒然!

「お前ら――ッ! こいつが見えるか――ッ!」

聖羅が血液バッグを掲げ、銃口を押しつける!

「ヤ、ヤメロ――ッ!」

ドンッ! 銃弾がパックを破り、血液を撒き散らした!


「「「「「ギャ――ッ!?」」」」」

白衣の研究員たちが逃げ惑い、一人また一人と吐血して倒れる!

バイオハザードだ!

殺人ウィルスが空気中に飛散し、フロア中の人間に無差別感染・即時発症!

阿鼻叫喚の無軌道大量殺戮!


――18――


ズド―――――ンッ! 榴弾の爆発が、筋肉男・佐熊の遥か後方で炸裂!

パーティションや椅子が空中に舞い上がる!

「ンッンー、惜しかったなァ!」

ガシャッ! 佐熊の大きな手が、PKPに弾薬ベルトを再装填!

物陰で不破が舌打ち!


「さぁて、そろそろケリをつけるぜッ!」

ガシャッ! インテリ眼鏡・輿水も物陰に隠れ、OTs-03のマガジンを再装填!

不破は床に転がり、ガスマスクを脱ぎ捨てた! 左耳が裂けて血が滲む!

しかし不破は狼狽えず、グレネード弾を再装填!


ビガービガービガービガー! フロアに轟く警告音と、赤色灯の点滅!

「何だッ! このクソ忙しい時に!」

輿水は習性めいて、スマートウォッチを確認!

『警告! 警告! 研究フロアでバイオハザード発生!』

緊急放送だ!


「「ナ、ナンダッテ――ッ!?」」

輿水と佐熊、一瞬我を忘れて狼狽し絶叫!

その僅かな隙に、覚悟を決めた不破が突貫!

「なッ、手前!」

佐熊が慌てて銃を構え直すが、対処が一瞬遅れた!

ガポンッ! ズド―――――ンッ!


佐熊のアロハをはだけた胸板に、グレネード弾が直撃し炸裂!

五体バラバラに吹き飛び、PKPが宙を舞って地を転がる!

「佐熊――ッ! 貴様よくもッ!」

ズドーン、ズドーン、ズドーンッ! 怒りの連射が不破を追いかける!


シュボボッ、シュボボッ、シュボボッ!

不破は断続的にバースト射撃しつつ、素早く後退!

「死ねぇ――ッ!」

ズドーン、ズドーン、ズドーンッ!

輿水は怒り心頭だが、その狙撃は正確無比!

不破の身体に何度も銃弾が掠める!


――19――


ポーン! そして、30階フロアに今一人……いや、今三人の闖入者!

「ハーッ、ハーッ……お前たち、ついて来い!」

「「ウッス!」」

怒れる女指揮官・梧桐と、僅かに生き残った2人の盾兵!

ファランクスめいた陣形で素早く前進!


不破が駆けるは……爆死した佐熊の亡骸!

シュボボボボ――ッ!

背後に銃弾を撒き散らし、輿水を牽制してパーティションに滑り込む!

「あったぜ!」

傍らには、再装填されたばかりのPKP軽機関銃!

不破は迷わず掴み取った!


「俺の相棒を――ッ! よくも殺りやがったなァ――ッ!」

輿水は鬼神めいた表情で、銃を再装填して猛追!

ズドズドズドズドズドズドズドズドズドズドーンッ!

不破の居所目がけ、ウォーキングファイアで徹甲弾を叩き込む!


梧桐が盾兵の後ろからA-91を構え、輿水の下に駆けつけた!

「輿水さーんッ! 梧桐、只今参りました――ッ!」

ズガガガガガ――ッ! 不破は立ち上がって機銃掃射!

梧桐らの目の前で、輿水は弾幕に全身を切断され惨殺!


「なッ、軽機関銃(LMG)ッ!? 退避――ッ!」

狼狽する盾兵! 梧桐は一瞬の驚愕の後、額に青筋を浮かべて激怒!

「この……この……このクソッタレエエエ――ッ!」

梧桐の指が、グレネードランチャーの引き金を弾いた!


ガポンッ! ズド―――――ンッ! 榴弾が不破の顔を掠め、背後で炸裂!

ズガガガガガ――ッ! PKPが激しく脈動し、嵐のような弾幕が放たれる!

「「「ウガア――ッ!?」」」

徹甲弾が盾を貫通し、梧桐らに襲い掛かる!


――20――


ズガガガガガ――ッ! 黒塗りの銃身が白煙を噴き、徹甲弾を掃射!

ズシャアッ! 盾兵たちは梧桐を下敷きに、折り重なって倒れた!

「ハァッ……ハァッ……」

ガチャリ! 不破は肩を上下させ、息を荒げてPKPを投げ捨てた。


「ふっぐ……ゴボッ」

梧桐は痛みに顔を顰め、咳き込んで吐血! 無数の貫通銃創と流血!

盾兵の死体に押さえつけられ、身体が動かない!

「わざわざ追いかけて、死にに来たか」


そこに、黒い影を揺らして不破が歩み寄る!

「ゴボオッ! こ、殺してやる……ッ!」

もがく梧桐! SG553Rのサイレンサーが、彼女の頭部を狙う!

シュボンッ! 梧桐の顔面が吹き飛び、脳漿が飛散!

床に血溜まりが広がり、不破は空薬莢を蹴り転がして歩き出した。


設置物が薙ぎ払われ、広くなったオフィス空間。

不破は手がかりを探し、四肢切断された輿水の死体に歩み寄る。

千切れた左手から、アラート表示のスマートウォッチを奪い取る。

不破は肩を竦め、手首を無造作に投げ捨てた。


机の残骸に半ば埋もれた、自分のガスマスクを拾い上げる。

そうして上層階へのエレベーターに乗り込むと、60階のボタンを叩いた。

「やれやれ、今日は特段ハードだぜ」

手巻きタバコを咥えて火を点し、紫煙を燻らせる。


総ガラス張りのエレベーターの向こうには、稲妻迸る雨のメガロポリス。

冴えない無精髭の中年顔が、ガラスの向こうから不破を睨み返した。

「バイオハザードか……やれやれ」

彼の懐で、スマートウォッチが点滅を繰り返す。


――21――


「ヌウッ!? バ、バイオハザードだってッ!? 一体何がッ!?」

ガチャ、ギイイ……。

狼狽する副社長・隠田の背後で、社長室のドアが押し開かれた。

「フギャアア!」

禿げ猫(ドンスコイ)が、戸口で佇む眼帯男・閏間の足元に逃げ込む!


「おやおや、副社長どの。これは一体何の騒ぎですかな?」

カツ、コツ……。

眼帯男は口角を歪ませ、社長・萬藤の射殺体と隠田を交互に見遣って歩み寄る。

「閏間!? 違う、これは……クソッ!」

隠田がPSMを構える!


小型拳銃の引き金が……引けない! PSMはホールドオープン。弾切れだ!

「万事休す、ですな。後はこの閏間にお任せを」

「何だと貴様、専務の分際で偉そうに!」

閏間は数メートルの距離に近づくと、手にした杖を銃めいて構えた!


隠田が周囲を見渡し、萬藤が落としたOTs-23機関拳銃を拾い上げる!

「死ねェ――ッ!」

バシュウッ! 閏間の仕込み杖が石突から火を噴く!

「カハッ……」

隠田は9×39mm低速徹甲弾に胸を貫かれ、硬直し直後に崩れ落ちる!


ガシャッ、シャーッ! 足元に滑ってきた機関拳銃を、閏間が踏み止めた。

「社長を解雇する手間が省けました。感謝しますよ、副社長」

「グフッ……閏間、貴様ァッ!」

閏間は銃を拾い上げ、うつ伏せに倒れる隠田を狙った。


「貴方は既に用済みです。今までご苦労様でした」

パパパンッ! 5.45mm弾の3連射で、隠田は脳幹を貫かれ即死!

「やれやれ。忠実な僕を装うのも意外と疲れますな」

閏間は杖を手放すと、拳銃を奥ゆかしく懐に仕舞った。


――22――


上昇するエレベーターの中で、不破はSG553Rの予備マガジンを取り出した。

「こいつは使い物にならねぇな……」

強化ポリマー製の外殻に、9mm弾の貫通銃創。

内部では薬莢が裂け、粒上の無煙火薬がサラサラとこぼれ落ちる。


不破は穴あきマガジンをパウチに戻し、無傷の物を銃に装填した。

ガシャッ! 初弾を薬室に送り込み、億劫そうにガスマスクを被り直す。

53……54……55……頭上の階数表示が流れる。

不破は気合を入れ直して銃を構えた。


ポーン! 60階の扉が開かれると、静寂の空間が彼を出迎えた。

「コーッ、シュコー……」

銃を構えて歩く不破の頭上では、赤色灯が不穏な明滅を繰り返す。

研究室に続く廊下は、研究員たちの死体がそこら中に転がっていた。


廊下と研究フロアを隔てる自動ドア。

「クソッ、ロックされてやがるな……」

不破はセキュリティ端末に、輿水のスマートウォッチをかざす。

ビービーッ!

『バイオハザード発生につき、研究フロアの入室は禁じられています』


不破は正攻法での入室を諦め、中の様子が窺える大窓を見遣った。

「桑原桑原……このフロアは全滅だな」

室内は死屍累々の様相に、不破は頭を振った。

アクリル窓をノックして厚みを確かめると、距離を取って銃を構える。


シュボボボボボ――ッ! SG553Rのフルオート掃射!

弾痕が蜂の巣めいて刻まれるが、割れ砕けるほどではない!

「チッ、頑丈な窓だぜ! 仕方ねぇ……吹っ飛ばすか!」

ガポンッ! ズド―――――ンッ! グレネードが炸裂!


――23――


無惨に損壊した大窓を乗り越え、不破は研究フロアに侵入。

「皆殺しか。おっかないねぇ……殺人ウィルスってヤツぁ」

無数に転がる屍。血に染まった白衣。

不破は顔を顰めてそれらを見渡し、フロアの中枢部に歩みを進める。


不意に聞こえた啜り泣くような声に、不破は足を止めた。

足元を見ると、血の足跡が点々と続く。

不破は無言で銃を構え直し、神経を尖らせて慎重に足を進めた。

足跡の向かう先……研究フロアのホールの真ん中に、女が一人。


長い黒髪、血塗れの黒ドレス……聖羅だ。

銀色の拳銃を握りしめ、部屋の中央で膝を抱えて座り込んでいた。

「お宅、百目鬼聖羅(ドウメキ・セイラ)だな。全く、御大層な名前だ」

不破が警戒しつつ歩み寄ると、聖羅が顔を上げた。


「誰?」

「お迎えだ。こんな陰気臭ェとこ、さっさとオサラバしようぜ」

「誰って聞いてるのよ!」

聖羅は泣きはらした顔で不破を睨み、拳銃を振り回す!

「来るな! 私に近寄るな!」

ドンッ! 聖羅は錯乱状態で発砲!


「撃つなって、落ち着け。お前を連れて帰るのが俺の仕事だ!」

不破は銃撃を恐れず、なおも歩み寄る。

「帰る? 隔離された閉鎖病棟に? 私に帰る場所なんてない!」

聖羅はゆらりと立ち上がり、両手で拳銃を突き出す!


ドンッ! 重いトリガーと強い反動で、銃弾が逸れて天井に着弾!

「私の身体は私だけの物……誰にも、渡さないッ!」

聖羅は決然とした眼差しで、喉元に銃口を食い込ませた!

「よせッ!」

不破が手を伸ばして駆け出す!


――24――


カチリ。カチ、カチ。

「弾切れ……ッ!」

聖羅は驚きに目を見開き、そのまま不破に押し倒された。

「百目鬼ッ!」

不破の手が拳銃を弾き飛ばす!

「うるさい、気安く名を呼ぶなッ!」

2人は床を転げ、激しく揉み合う!


「私に触るなーッ!」

聖羅がもがき、豊満な胸が暴れる!

不破はガスマスクの下で息を荒げ、力づくで押さえつける!

「クソッ、いい加減にしろこの馬鹿……」

次の瞬間、聖羅の両手が……不破のガスマスクを引き剥がした!


「ハーッハハハ! お前も死ね!」

聖羅は仰向けに横たわり、豊満な胸を揺らし嘲う!

「ハァ、ハァ、ハァ……無駄だぜ」

無精髭の疲れた中年顔が、聖羅の顔を見返した。

「抗体を投与済みだ。試す気は無かったが……どうやら効いてるらしいな」


聖羅は両手を押さえつけられ、驚愕の眼差しで不破を見返した。

「即効性の殺人ウィルスだってな。だが俺は生きてる……今のところはな」

不破は聖羅の双眸を見据えた。

「帰れば、あんたの身体のウィルスも駆除できる」


「ほ、本当に?」

「ああ……」

不破は冷や汗を垂らして頷き、聖羅から手を放して立ち上がる。

「お宅も日の当たる場所を歩けるってワケさ。だから大人しく帰るんだ」

聖羅は呆然と天井を見上げ、目から涙を溢れさせた。


「でも、私……帰ったらどうなるの? 一杯、人を殺したのに……」

「事故だ、事故! 因果応報だろ……俺も騒ぎのおかげで助かった」

不破の手が聖羅を引き起こす。

彼女は不破に身をもたれ、ふらつきながら歩き出した。


――25――


「おい、子供じゃねえんだ……自分の力でしっかり歩け!」

不破は片腕で聖羅を支え、鬱陶しそうに叱咤した。

「うるさい……安心したら、力が抜けたんだ」

「ここを出るまでは、油断は禁物だぜ」

行く手にはエレベーター。


ポーン! のろのろと歩く不破たちの眼前で、エレベーターの扉が開く。

「『素体』を返してもらおう!」

OTs-23機関拳銃を構えて進み出るは、防護服に身を包んだ長身の眼帯男……閏間!

「お断りだね!」

不破は状況判断で、懐のSDP拳銃を引き抜いた!


「『素体』は値千金ッ! 黙って行かせはせんよッ!」

パパパンッ! パパパンッ! パパパンッ!

閏間は聖羅の射殺も辞さず、OTs-23を乱射!

シュボン、シュボンッ! シュボン、シュボンッ!

不破は舌打ち、SDPを撃ち返す!


パツパツパツッ! 軽量弾頭が乱れ飛び、不破の胴体に立て続けに着弾!

しかし、5.45mm徹甲弾はボディアーマーを抜けない!

「痛ッ!?」

流れ弾の1発が、聖羅の脚を貫通!

不破は聖羅に引きずられるように座り込む!


「防弾服だ! 君の拳銃ごときでは撃ち抜けまいッ!」

パパパンッ! パパパンッ! 閏間は哄笑して連射!

シュボンッ! 不破の立膝で構えた一撃が、閏間のフェイスシールドを貫通!

「そいつはどうかな。こっちは年季が違うぜ」


パパパンッ! 最後の連射は空を切り、閏間は眼帯から噴血しながら倒れた。

「生きてるか?」

「い、痛ッ……あ、脚がッ!」

不破は拳銃を仕舞うと、蹲る聖羅のドレスを無造作にめくった。

「なッ、どこ触ってんのよ馬鹿ッ!?」


――26――


降下するエレベーター。

「小口径の弱装弾で良かったな。きちんと手当すれば、傷も殆ど残らねぇ」

不破は聖羅をお姫様抱っこで抱え、口角を歪めて嘯く。

「他人事みたいに!」

聖羅は冷や汗を浮かべ、顔を逸らしている。


ポーン! エレベーターの扉が開き、死と破壊の玄関ホールに降り立つ。

「百目鬼さんよ。お宅、重いぜ」

「大体、あんたの腕が悪いから、私が流れ弾に当たったんじゃない」

「違ェねぇ」

不破は聖羅を抱え直して歩き出す。


ホールに足跡が響く。

カウンターから恐る恐る顔を出した受付嬢たちに、不破が微笑んで一瞥。

「どうもー。『危険物』、確かに引き受けましたんで。あざっしたー!」

「危険物ってどういうことよ!」

不破の軽口に聖羅が憤慨!


回転扉を抜けると、雨打つメガロポリス。

ビルの周囲には大勢の野次馬!

「どいてくれーッ! 怪我人だーッ!」

不破は人の海をかき分け、愛車・ボルボ P1800Eの前に辿り着く。

聖羅を立たせると、車の後部ドアを開いた。


その時、彼らの足元を小さい何かが駆け抜けた!

「「……猫ッ!?」」

不破と聖羅が、驚愕に目を見張って同時に口走る。

「お前、一体どこから!」

一匹の禿げ猫(ドンスコイ)が、ボルボの後部座席にひらりと飛び乗った!


禿げ猫は身体を震わせ、車内に水飛沫を撒き散らす!

不破は顔を顰め、聖羅を尻から押し込み、車のドアを閉ざす!

「ちょっと、お尻触らないで!」

聖羅の憤慨を他所に、不破は運転席に乗り込むと、車を走り出させた。




不破 the Desperado VS 山田 the Killer


【第1話:不破定】終わり

【第2話:山田一人と椛谷ソーシャルコミュニケーションズ】に続く


――――――――――――――――――――


Written by 素浪汰 狩人 ~slaughtercult~


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