§ そにょ4 ☆心の闇に勝ってパワーアップは定番なんでしょ、分かってますって☆

※次回作にほんのりリンクしてます。



*****



 私は闇の中を歩いていた。

 いつからかは覚えていない。

 気がついたら歩いていた。


 やがて前方に光が見えて周囲が洞窟なのが分かってきた。

 更に進むと、洞窟の出口に滝が落ちている。どうやらここは、滝の裏の洞窟だったらしい。


 滝を潜って通り抜ける。

 どうやら滝も大した大きさではなかったらしい。二、三メートルぐらいかな。

 だから滝壺も大した深さでは無かった。

 深いところでも膝まであるかどうか。


 抜け出た先は、だだっ広い空間。滝壺以外は芝生のような草が延々と生えている。

 周囲には霧のようなものが立ち込め、ここが野外なのか洞窟の中なのか建物の中なのか分からなくなっている。


 私は滝壺から上がると、服に付いた汚れを探しながらほこりを払う。

 不思議と服は濡れていなかったが、何故か私は気にもしなかった。


 その時、この空間に人がたたずんでいるのに気がつく。

 誰だろう? 見覚えが無いけど、見覚えがある気がする。

 更にその人物に近寄る。その人は少しいぶかしげな顔で私を見た。何なの?

 その人は驚くような事を私に告げた。


「貴女が……私の意識の闇の部分?」


「はぁ!?」


 驚き桃の木気になる木だわ。

 一体全体、この人は何を言っているの、と改めて相手の顔をじっくりと見る。

 何だか見覚えがある顔。

 どこかでいつもよく見る顔。

 そう、例えば私が鏡で化粧をする時なんかに……。


「あああ!? 貴女はもしかして、もしかしなくてもショウの言ってた別世界の私!?」


「別世界? 何を言ってるの貴女。ここは精神を鍛える為に、自分の闇の心と対峙する場所よ。初めましてかしら、私の闇の心」


「あああ! なんて厨二なセリフ!! クラムさんが以前言ってた事の意味がめっちゃ理解できた!!」


 そんな私を訝しげに見つめる別世界の私。

 すぐに身構えると私に向かって宣戦布告。


「戦わないの? でも私は遠慮なくやらせてもらいます!」


 ふっ……。でも甘いわね別世界の私。

 攻撃の意志をわざわざ口に出して言うなんて。隙を突いてくれ、と言っているようなものよ。

 私は素早く別世界の私の後ろに回ると、ペシンと頭を叩く。


「なっ、この動き……。貴女、魔法師じゃなかったの!?」


「ん〜? 魔法師『だった』わよ? いま住んでる世界では魔法が使えないから、最近は体術を磨いてるけど」


「……魔法が使えない?」


「そ、魔素が無いからね。みーんな魔法が使えないのが当たり前。そもそも魔法なんて、絵空事の夢物語あつかいね」


「なるほど、これは格別に私と相性の悪い試練だわ。魔法が使えなくても戦力になれるようになれ、と」


「試練って……。だからぁ、私は別に貴女と戦う意志なんて無いってば」


「貴女に戦う意志が無くとも、こちらにはあります! 覚悟しにゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……!?」


 今度は脇をコチョコチョしてあげた。

 そして手を離すと、向こうはガックリと膝から地面に崩れ落ちた。

 四つ這いになり荒い息を吐きながら、向こうの私は独り言ちる。


「はぁはぁはぁ……。な、なんて強敵なの」


「攻撃の前に言葉を発するなんて、まだ若いわねえ。昔は私もそうだったから、気持ちは良く分かるけど」


「…………オバさん臭い」


 別世界のフェットチーネの口撃がクリティカルヒット!

 ガハッ。

 私は血を吐いて倒れた!!

 こうかは ばつぐんだ!!

 私は地面に倒れて口から血を吐いたまま、別世界の私に敗北宣言。


「ふふふ……。セリフ一つだけでこの私を倒すとは、やりますね別世界の私。……フェットチーネ、恐ろしい子……」


 地面に血を吐き倒れる私。

 荒い息を吐きながら、四つ這いでうずくまる別世界の私。

 激闘の果ての光景を、この空間は静かに包み込むだけ──。



*****



「いや、なに凄まじい死闘の果てのモノローグみたいに締めようとしてるんですか。こんなアホな決着ある訳ないでしょう」


 向こうの私が冷静に私にツッコむ。


「……チッ!」


「はぁ。闇の心の私とはいえ、故郷の弟妹がそんな姿を見たら情け無く思いますよ」


 それを聞いた瞬間、私はガバと起きあがり彼女に詰め寄る。


「そう、そうよ! あの子たちは元気にしてるの!? 久し振りにあの子たちの頬っぺをスリスリしたいわぁ」


「ああ〜、やっぱり同じ私なだけあって、だったかあ。残念ながら私も村を出てから、一度も帰れてないわ」


「……チッ!」


「感じ悪ぅ〜い。いややわぁ」


「クラムさんですか」


「誰それ?」


「……いえ、何でもありません」


 私は周囲を見渡しながら、別世界の私に訊ねる。


「こっから出て、久し振りに弟妹に会いに行こうかしら。ねえ、出口はどこ?」


「いや、貴女はこの場所でしか具現化出来ないでしょ。無理よ」


「……チッ!」


「お下品」


「もう私には旦那がいるから、気にしなくても良いもの。多少は下品でもへーきw」


「旦那!? えっえっ。貴女、結婚してるの!? 私の未来の事が分かるの!!!?」


「ううーん、貴女と私の世界は微妙に違うみたいだから、貴女の正確な未来かどうかは分からないわよ?」


「それでも聞きたい!!」


 向こうの私は地面に正座して、キラキラした目でこちらを見つめる。

 ああ素敵。私にもこんな純粋な時期があったのね。

 私はクラリと目眩めまいを起こしたように、顔を上に向けて手を目の上に乗せ、あふれて流れる涙を隠した。

 そして私は、地面に胡座あぐらをかいて腕組みをし、向こうの私に語りかける。


「そこまで言うのなら、お教えしようではないか。貴女の……私の運命の男は、エルフのショウです! パンパカパーン!!」


「ええ……あの魔法の使えないエルフが?」


「第一印象で貴女がそう思ってしまうのも、無理はない。だがしかし! 彼は私を一途に想ってくれる最高に素敵な性格に加えて、魔法以外のスペックが青天井に高いスーパーダーリンなのです!」


 意外にも予想外だったのか、向こうの私がフリーズした。

 しばらくしてから、ようやく言葉を吐き出す。


「……私が騙されて作ったあの隷属の首輪で、勇者様の奴隷にさせられた、ショウが? 可哀想だから、解放してあげたいとは思っているけれど……」


 そこで今度は私が全ての動きをフリーズ。

 ギギギと首を動かして、向こうの私に問い掛ける。


「……何ですって?」


「いや、あのショウでしょ? 私達の勇者パーティーの下準備とか斥候偵察とか後始末とかで、縁の下の力持ちで勇者パーティーを実質的に支えてくれてる……」


「違う! その前!!」


「え? 私が勇者に騙されて作った、隷属の首輪で奴隷にさせられた……」


「奴隷ってアンタ、いったいショウに何やってんのおおおおおおおおおおおお!!!?」


ボコーッ!


「あいたッ! 何を、とか知らないわよ! 私は最近加入したばかりなんだから、彼が私の運命の男だなんて知るわけ無いじゃない!」


バチーン!


「あ痛ッ! くっ……。修行不足とはいえ、なかなか腰の入った良いビンタじゃないの!

 良いわ、アンタのその根性を叩き直してあげるわ!!」


ボカボカボカスカボカスカ!


「痛い痛い痛い痛い! こっちは最初から戦うつもりだったのよ、やってやるわよ!!」


ベチポカバシバシポコポン!


「はん、全然効かないわ! よし、乱取り百本スパルタでいくわよ覚悟しなさいここの世界のフェットチーネ!!」


「うるさい! オバさんフェットチーネ!」


「「……ぐふっ」」


 この言葉に二人とも胸を押さえて蹲った。

 自爆して何やってんのかしら私達……。



*****



「よう、戻ったかフェットチーネ。随分と苦戦したみたいだな」


「え、ええ……」


 私はショウを見た。

 相変わらず無表情に、周囲を警戒しながら私達から距離を少し取って立っている。

 それを見ながら、もう一人の私に言われたセリフを思い出す。



──貴女の……私の運命の男は、エルフのショウです! パンパカパーン!



 少しうつむき額に手を当ててしばし考えた後、勇者に助言を申し出た。


「勇者様、私から提案があります。ショウの事なんですが……」



*****



「……で、足腰が立たんようになってヘロヘロになった向こうの私の胸倉をつかんで、私は言ったんよ。『良い? ここから出たら速攻でショウについていく事。分かったわね』って」


「えげつねえ……」


 ショウがつぶやく。

 同じテーブルで一緒に食事をとってるブランさんも顔色が青くなっていますね。


「世の中をめてる若いモンに厳しさを教えてあげただけやんか」


 ショウは顔に手を当てて「大人げねえ」とボソリとこぼす。

 ブランさんは揉み手をして愛想笑いで私に話しかけてきました。


「あ……姐御あねご、良かったら肩でもお揉みしましょうか?」


「……? 大丈夫ですよブランさん。どないしたんですか、急に?」


「い、いえ……」


「…………???」


 訝しむ私をよそに、テーブルの上は微妙な空気のまま時間が過ぎていったのでした。

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