乙女の帰還(3)

3人は屋上へ上がり、管長はホーネットに言った。

「お前はそこで見ていろ」

「はい」

 ホーネットは戦いを見守るために2人のかたわらに立ち、にゅうめんマンと管長は適当な間を空けて対峙した。管長がファイティングポーズをとると、多麻林のものと似た黒く禍々しいオーラが体からにじみ出た。にゅうめんマンも着て来たジャケットを脱いで身構えた。


「こちらからいくぞ」

 にゅうめんマンは様子見のパンチをガツンと打ち込んだが、管長は腕でこれを防いだ。普通の人間には受けらないはずだから、霊力で肉体を強化しているのかもしれない。


「きかんな。次はこちらの番だ」

 管長はお返しのジャブを繰り出し、にゅうめんマンも同じように腕で受けた。相当な威力ではあるが受けられないほどではない。


それから2人はしばしにらみ合い、やがて管長が攻撃を仕掛けた。がっちりした体格に似合わぬ軽やかな動きで宙に飛び上がり、にゅうめんマンに高速の飛び蹴りを放った。

「管長キック!」

「ぐっ」

 自分の名前(厳密にいうと肩書)を技名に冠するだけのことはあって、さすがの威力だった。にゅうめんマンはこれも腕でブロックしたが、受け切れずに後ろへ倒れて尻もちをついた。だが、すぐに立ち上がり、続けて攻撃するすきを与えなかった。


にゅうめんマンは素早く反撃に転じ、管長に得意のドロップキックをお見舞いした。管長もこれを両腕でブロックしたが、にゅうめんマンの得意技はだてではなく、衝撃を受け切れずに後ろへ転んだ。ドロップキック後床に落下したにゅうめんマンは瞬時に立ち上がり、倒れた敵を一気にやっつけようと襲いかかった。だが、管長は驚くべき身のこなしで、倒れた体制から直接飛び上がって宙返りをすると同時に空中で蹴りを放った。このような高度な反撃を予測できなかったにゅうめんマンは、胴体に蹴りをくらってよろめいた。しかし、幸い威力はそれほどでもなかったので、どうにか持ちこたえた。


「とんでもない運動神経だな。お前のサマーソルトキックを見たら『ストリートファイター』のガイルも驚くだろう」

 ガイルのサマーソルトキックといえば、格闘ゲームシリーズ『ストリートファイター』を代表する必殺技の1つであり、実用性の高い優れた攻撃だ。

「まさか君にほめられるとは思わなかった。光栄だよ。しかし、間違えないでもらいたいのだが、今のはサマーソルトキックではなく『キャプテン翼』にヒントを得たオーバーヘッドキックだ」

「違いが分からんぞ」

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