10章 乙女の帰還
乙女の帰還(1)
多麻林との激闘から数日がたち、体力を回復したにゅうめんマンは、管長に抗議をするため、改めて宗教法人六地蔵の本部を訪ねた。正門から入ろうとすると、例によって警備員に呼び止められた。
「ちょっと、ちょっと!勝手に入ってもらっちゃ困るよ。あんた、ここへ来るたびに騒ぎを起こすんだから。さあ、帰った帰った」
「そんな冷たいこと言うなよ。俺と君の仲じゃないか」
「どういう仲だ」
「侵入者と警備員という仲だ」
「それがなんでお前を通す理由になるのか、できるもんなら説明してみろ」
「つれないなあ……」
超人的な強さを持つにゅうめんマンも、むりやり押し入ってこの施設全体を敵に回すことはできれば避けたかった。しばらく前に、そうしたせいで厄介な目にあったばかりだ。かといって、門以外の場所は高い塀で囲われている上に、センサーを設置して侵入者を見張っているようでもあり、他の場所からこっそり忍び込むのも難しそうだ。
「――1つ頼みがあるんだけど」
にゅうめんマンは警備人にたずねた。
「ダメ」
取り付く島もない。
「話くらいきいてくれたっていいじゃないか。訪問者に対応するのが、正門の受付を担当する警備員の仕事だろ。それをしないということは職場放棄じゃないか。ああ、なげかわしい。自分の職務をまっとうする気もないこんな不良警備員は、組織の上層部に言いつけなくては」
「分かったよ。うるさいな。答えてやるからきいてみろ」
警備員は言った。本気でうっとうしそうだった。
「管長と直接話をさせてもらえないか。」
「ダメダメ。管長は忙しいんだ。お前みたいな変な恰好をしたやつと話している時間はない」
「それじゃあ、やっぱり力ずくで押し入ることになるけどいいのか。こないだみたいなとんでもない騒ぎになるよりは、管長に話を通してもらった方が平和的だし、お互いのためになるんじゃないか」
「むむむ……。仕方がない。お前と話す気があるか、内線で管長にたずねるだけはたずねてみよう。ただし、うまくいかなくても俺のせいにするなよ」
「話が分かる警備員で助かるよ」
警備員は、正門に併設された受付事務室に入って内線をかけ、すぐににゅうめんマンを手招きした。
「要件を話せと管長が内線で言っている」
にゅうめんマンは受付事務室に入り、警備員から受話器を受け取った。
「もしもし。にゅうめんマンだ」
にゅうめんマンがそう言うと、管長が応答した。
「私と話がしたいということだが、どういう要件だ」
「重要な事だから、できれば2人でじっくり話したい。それで、直接管長室を訪問しようと思ったんだけど、正門の警備員が中へ入れてくれないんだ」
「それが警備の仕事だからな。ともかく、私が話をすることを拒否したらどうするつもりだ」
「その場合は、また力ずくで乗り込むことになるけど、そちらにとってもありがたいことではあるまい。きっと目も当てられない大変な騒ぎになるだろう。弱小球団が25年ぶりに優勝したときのような」
「広島東洋カープの悪口はやめてもらいたい」
「オリックス・バファローズの話だが?」
「オリックスか……そんなことを言って、あまり大阪人を怒らせない方がいいぞ(オリックスの本拠地は大阪にある)。大阪人の恨みを買った私の知り合いは、ハリセンでどつかれて瀕死の重傷を負った」
「恐ろしいな大阪人。この小説の著者も大阪人だけど」
「それにしては、この小説はギャグがつまらんな」
「大阪人がみんなおもしろいと思ったら大間違いだぞ。勘違いするな!」
思いがけず話がそれてしまったので、にゅうめんマンは話題を戻した。
「それはさておき、多麻林が敗れた今、六地蔵の坊主たちや警備員では多分俺を止められない。俺の侵入をはばもうとして無駄な騒ぎを起こすよりは、話し合いに応じてくれた方が賢明だと思うよ」
「強引なやつだ。まあいい。管長室で待っているから入って来い」
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