解錠の空

長月瓦礫

第1話 果たしてそこに


今朝のニュースで梅雨明けが発表され、天気予報は晴れマークが並んでいた。

その割には今日も雨が降るみたいで、空は雲に覆われていた。


同時に外出自粛期間も解除され、ようやく学校も始まった。

完全に再開するのはまだ難しいかもしれないけど、友達に会えたのは嬉しかった。


屋根を打ち始めた雨の音が心地いい。

外出するなら今のうちだろうか。

なんだか誰かに呼ばれているような予感がした。


傘をさして私は玄関を飛び出した。外の空気が心地いい。


「ひさしぶりだな」


神社の階段を上りきると、番傘をさした鬼が立っていた。

季節の花を植えているようで、今はアサガオが色とりどりに咲いている。


「やっぱり、いると思いました」


「この時期くらいしか、のんびり外に出られないからな」


私が声をかけると梅雨さんは嬉しそうに振り向いた。

コスプレイヤーではなく、本物の鬼だった。

それを知ったのが今年の二月、節分のときだった。


「学校もようやく始まったって聞いたしさ。

元気そうでよかったよ」


「梅雨さんもお元気そうでよかったです」


雨の季節は彼にとって都合のいい時期でもある。

外に出るだけで雨が降り始めるらしく、冬の場合は雪になるとのことだ。

いつ見ても和傘が本当に似合う。


「そうだ、アマビエって知ってるかい?

正直、あいつのことはすっかり忘れてたんだけどさ……」


おお、これは衝撃事実を聞いてしまった。鬼ですら存在を覚えていなかったのか。

地域の違いはあるかもしれないが、かなりマイナーな妖怪ではあるらしい。


「絵に描けばご利益があるから、じゃないですかね?

みんな気軽に描いて見せ合ってましたから」


私もよく分からないうちに、かなり広がっていたというのが正直な印象だ。

ネットの間で「アマビエチャレンジ」なるものが流行っていた。

とにかくアマビエを描いて、コロナを乗り切ろうという動きだったように思う。


「俺の知り合いに絵描きがいてさ、そいつの絵を見てようやく思い出したんだ。

そいつ曰く、『インターネットがうまいこと広めてくれた』ってことみたいだけど。

本当、情報の波は速いよなあ」


まさにその通りかもしれない。

流行って広まるのも早いし、過ぎ去るのも本当に早い。


「集会が禁止されてる手前、俺たちも気軽に集まれなかったのさ。

それでも、感染症対策はしないといけないっていうんで、役所と相談してセットしてもらったんだ。まあ、後半はただの画像の見せ合いになっていたんだけど」


これはまた、なんとも楽しそうな会議である。

鬼の間でもネットの普及は進んでいるらしい。

どんなことを話したんだろう。全然想像がつかない。


「それで効果あったかって言われると、何とも言えんが……。

まあ、いつぞやの恵方巻よりよっぽど信憑性はあるんじゃないかな」


よりにもよって、それと比べてしまうのか。

妖怪とお寿司ではかなりの差があるのではないだろうか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る