試験三日目

第26話

『おはようございます。本日は、昨日お伝えしましたとおり、人殺し権を試験的に実行されました方のVTRの続きをご覧いただきます』



「始まったな」

 今朝はこのために早く起きて、朝食を済ませてからテレビを見ている。

 放送開始に合わせたように、康介からメッセージが届く。


≪見てるか!?≫


≪朝の挨拶くらいしろよ もちろん見てる≫


≪なんか興奮するな!≫


 こいつはいつも興奮している。


≪……布団汚すなよ またあと連絡する≫


≪ティッシュ常備! またな≫


「……あいつ、そのうち製紙会社から感謝状もらえるな」

 テレビでは、いよいよその時を迎えようとしていた。



『――以上が、昨日までの流れでした。それではKさんが殺害相手Aさんの部屋にあがったところからご覧いただきましょう』


<いよいよ三人は部屋に入る模様です。ここからはKさんの鞄に仕込んである超小型カメラの映像でお伝えします>


 隠し撮りカメラの横にいたリポーターの説明でカメラが切り替わった。


『狭いところですが……』

 案内されて座ったのだろうか、渡邉とAのちょうど胸元から下辺りが映し出されていた。

『ほんっと、狭いわね』

 小池のものと思われる声が聞こえた。

『すみません。今お茶をお持ちしますね』

 今度はAのものであろう声に続き、『いえ、お構いなく。あまり時間もございません。できましたら早速本題に入らせていただきとうございます』という渡邉の声。

『本題……ですか?』

『なによ。暑い中わざわざ来たんだから、お茶くらい――』

 小池の甲高い声を遮る渡邉の声。

『(ピーッ)様、少々発言をお控えくださいませ。ここからは、私(ピーッ)の申しますとおりに行動していただきますよう、お願いいたします』



「七三……なんか強気だな」

 俺と話す時とは違って、かなりきつい口調だ。

「こんな場面だからか? いや、でも俺の時も最初はあんな感じだったっけ」

 詳しく思い出す暇もなく、VTRは進んでいく。

「いよいよか。なんか緊張するな」



『……分かったわよ。黙ってりゃいいんでしょ?』

『はい。そうしていただけると大変助かります。さて――』

 マイクは、ブツブツと文句を言い続けている小池の声を拾っているが、カメラは小池からAに向き直った渡邉を捉えている。

『さて、このたび政府は新しい政策を打ち出すことと相成りました。その施行前試験ということで、何名かの一般国民の方にご協力いただいて、実際にこの制度を試験的に使用していただくことになりました。その中のお一人がこちらの(ピーッ)様でございます』

『……はい』

『そして、その試験権利を所持されましたこちらの(ピーッ)様に選ばれましたのが、(ピーッ)様――あなた様でございます』

 小池の笑い声が聞こえたような気がした。

『(ピーッ)ちゃんのお母さんが私を選んだ……あの、その試験って一体……』

 渡邉は、傍らのアタッシュケースから一枚の書類を取り出した。

『どうぞ』

 差し出された書類を覗き込むA。

『人殺……し通……? あの、これって……』

『はい。読んで字の如く、でございます』

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