人殺し権

淋漓堂

試験開始日

第1話

「おめでとうございます!」

「……は?」

 玄関に出た俺は、この事態を今一つ理解できていなかった。

「ですから、あなたは日本国民の代表として選ばれたのです」

「国民の代表……えっと……新手の詐欺?」

 スーツを着て髪の毛を七三に分けた男は、額に手を当て天井を仰ぎ、なんとも大袈裟に嘆いてみせた。

「おおっ! なんということでしょう! こんな名誉なことを詐欺だとは……ああ、嘆かわしいっ!」

「……ってか、あんた誰?」

 眉を顰めて訝しがる俺の様子を見て、男は慌てて胸ポケットから名刺を取り出した。

「これはこれは、私としたことが! 大変失礼いたしました。興奮のあまり名乗るのを忘れておりました」

 両手で恭しく差し出された名刺を見つめる。そこには『大統領政策室第一秘書 渡邉久則』と書いてあった。

「大統領政策……大統領!?」

「ええっ!」

 男は両腕を広げ、わざとらしいほどに胸を張って言った。

「あなたもご存知でしょう! 日本が大統領制になって早一ヶ月。様々な新しい政策が次々と繰り広げられているのを!」

「はあ……まあ……」

「そして今回! 先ほども申しましたように、あなたが選ばれたのです!」

「えっと……何に?」

 俺の問いかけに対し、急に男は声をひそめ口に人差し指を立てた。

「ここからはご内密に……」

 思わずつられて小声になる。

「……分かりました」

「今回施行されます新たな政策の、試験をしていただく三人の中のお一人に選ばれたのです」

「はあ。なんだかよく分からないけど。で、政策って?」

「はい。それは『人殺し権』でございます」

「人……殺し?」

「ええ。それは、人は死ぬまでに誰か一人だけ殺せ、それが罪にならないという、素晴らしい権利のことでございます」

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