わたしのなかにはいないのです

私情を綴るだけで至情はなくて

詩情が見えたと嘯くばかり

わたしは藻抜けの腑抜けですので

架空の空を事細かには語れません

詩人が存在しないのです


どこかの誰かのレゾンデートル

叙情のかけらすらもない押売り

自ら曝して枯らした庭木

アンビションという悪夢が笑う

走れど走れど逃げきれないと

皮膚の隅々で感じます


童謡の金糸雀は救われますが

わたしにその手はあるのでしょうか

思い出せる歌はあるのでしょうかと

詠えぬままに見あげる月は雪穴

永劫に続く氷点下の深みが沁みます

竦まず進む強さがほしい


空へと羽ばたく補色の鳥は

仲間の許へ帰れるでしょうか

ノスタルジアをあしらいながら

虚に吹き込む風で音を織ります

ただの藻抜けの腑抜けであっても

詠いたいのは本当なのです





20210110

第102回 詩コン『吹』

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