学園の金髪縦ロールお嬢様(美少女)は無愛想だけど、実はツンデレで優しい女の子でした。

惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】

第1話 金髪縦ロールお嬢様との邂逅



(うぅ、緊張するぜ……っ)



 俺の名前は御子柴渉みこしばわたる。ある事情でバイト三昧な生活を送っているなんの変哲もない平凡な高校生だ。



 ―――カッ、カッと黒板にチョークで文字を書く音が鳴り響く。


 窓から見える天気は快晴。心地良い陽気が漂いながらも、開いている窓からは涼やかな風が教室に入る。微かに残る春の匂いが、黒板の前に立つ俺の鼻をくすぐった。


 現在は朝のホームルームの時間。やがて名前を書き終え、チョークを黒板の溝に置くと若い女性の教師が柔らかい口調で口を開いた。



「はい、それではみなさん。大変急ですが、ここにいる彼が二年生の編入試験を経て、この私立霊峰院学園へ見事編入することが出来た御子柴みこしば わたる君です。それじゃあ御子柴みこしば君、クラスのみんなに簡単に自己紹介して下さい」

「はい」



 内側の教室の扉の近くにいた俺は先生に呼ばれて黒板下の壇上に立つと教室を見渡す。


 当たり前だが、知らない顔ばかりだ。訝しんだり関心が見え隠れする様々な感情の籠もった視線が俺に突き刺さるが、それも仕方ないだろう。これが編入生への洗礼ともいうべきか。


 新しく編入したことによる新しい校舎の慣れない雰囲気や五月という時期外れな編入といった緊張が心の内を錯綜さくそうするが、まずは一旦落ち着かせようと深呼吸した。


 すぅー、はぁー。―――よし。



「俺の名前は御子柴みこしばわたると言います。ついこのあいだ親の転勤の関係でこの街に引っ越してきて、偏差値が高いと評判の私立しりつ霊峰院れいほういん学園がくえんの編入試験を受けたらなんと合格することが出来たのでこのたび編入する事になりました。出来れば仲良くしてくれると嬉しいです。よろしくお願いします」

「はーい、大変模範的で素敵な自己紹介でしたね。それでは……あの窓側の後ろの席が空いているので、そこに座って下さい」

「分かりました」



 そのまま俺は先生から指示された席へと向かうために歩みを進める。が、その途中で視界に入ったある女子の髪型が特徴的で思わず驚きで目を見張り足を止めてしまった。


 同時に、小さな声が洩れる。



「うっわ、バネみたいなすっげぇ髪型してる……! 金髪縦ロールって初めて見た……ッ!」

「――――――」

「…………ッ!」



 思わず喉奥から出てしまったと云えど超至近距離。彼女はキッ、と切れ長な瞳で鋭く俺を射抜くがそれも一瞬。何事も無かったかのように視線を前に戻した。


 咄嗟とっさに出てしまった言葉とはいえ俺は申し訳なさを感じる。唇をぎゅっと引き締めると、少しだけ足早に席に向かって座った。



(へー、良い席空いてんじゃん)



 一番後ろの席に座ると、教室内のクラスメイトの後ろ姿が良く見える。この席は絶景の人間観察ポイントと言っても良いだろう。



「ふぅ……」



 俺は誰にも気付かれないように小さく溜息を吐く。これから上手くやっているのかという微かな不安と緊張感に包まれながら、今後の高校生活に期待を馳せた。



(それにしても……)



 俺はちらりと先程の女子へ視線を向ける。


 顔を見たのは一瞬だけだったが、勝ち気な雰囲気を纏うとてつもない美少女だった。まるで悪役令嬢のようだ。射抜かれたら震えあがりそうな切れ目な眼差し、鼻が高くぷっくりとした瑞瑞しい唇。美しく顔のパーツが整っている中でも、特に印象的なのはその髪型。


 ツヤツヤと綺麗に輝く金色の長髪を螺旋状に巻いた髪。漫画やアニメ、ギャルゲーとかでよく出てくる"金髪縦ロール"という特徴的な髪形をしている女の子は現実で初めて見たから特に衝撃的だ。



(……うん、いきなり初対面であれは失礼だったな。あとで謝っておこう)



 窓から覗く青空をぼんやりと見つめる。今日の予定を壇上で話す先生の声を適当に訊き流しながら俺はそう思うのだった。



 ―――今はまだ知らない。この出会いこそが一般市民である俺、御子柴みこしばわたると金髪縦ロールが特徴的なリアルお嬢さまである霊峰院れいほういん明日香あすかが深い関係となるきっかけの第一歩であった。












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