第54話 水着の感想

「来たよ~ん! ププププププール!」


「プ言いすぎだろ」


俺は杉山に向かってそんなツッコミを入れる。


「気にしちゃダメ子ちゃん!」


意味不明な言葉を俺に向かって発した杉山。


「来ましたね!」


中西は視線を色んな所に泳がせながらそう言った。


まあ、楽しそうで何よりだ。それに思ったより女子たちは仲が良いようだ。


元々中西は潮田や林と関わりがあったし心配はしていなかった。


けどここに来て一つ不審に思うことがある。


それはと言うと......。


俺はゆっくりと林の方に視線を移す。


中西、潮田、杉山は楽しそうにしている中、林だけはやけにテンションが低い。


また前みたいな事件に巻き込まれているのかだろうか。けどそんな感じではない。


一体何が林をあそこまで。


俺はゆっくりと林に近づき声をかける。


「どうしたお前。元気ないぞ」


俺がそう声をかけるも林は全く気づいていない様子だった。


「お、おーい」


俺が何度も林を呼んでやっと気が付いた。


「ぼっち先輩⁉ ど、どうしたの?」


明らかに動揺している。絶対に何かがある。そう確信した瞬間だった。


「お前の元気がないからな。気持ち悪いんだよ」


「き、気持ち悪いって、そんな言い方しなくても!」


「事実を言っただけだ。お前は明るい方がしっくりくるんだよ」


俺がそう言うと林は頬を赤く染めてそっぽを向いた。何で赤くなる必要があるのか疑問に思ったが、気にするだけ無駄だと思いスルーしておいた。


他のみんなは更衣室に向かい始めていた。俺らも早く行った方が良い。


「おい林。行くぞ」


「うん......」


どこか弱弱しい声でそう返事をする林。


何で林がこんな状態になっているのかは分からないが、今詮索をするのは非常に勿体ない。今俺はプールに来ているのだ。楽しまなければ。


俺がみんなの後を追うべく歩き始めると林も同時に足を動かした。


「おいおい龍ちゃん! 林ちゃん! 何やってんのよ」


杉山がちょっと離れた場所からそう叫んだ。


「今そっち行く」


俺と林は足早に杉山たちの所に向かった。






「ふふふふふふふふふふふ」


「何だよその気持ち悪い笑い方」


俺の隣に立っている杉山が気持ち悪い笑いを何度も起こした。


俺と杉山は更衣室で水着に着替え集合場所に女子よりも早く着いた。


だから今は女子を待っているというわけだ。


「龍ちゃんは誰の水着が楽しみぃ~?」


こいつはさっき笑っていたのではなくニヤついていたのだろう。


俺は全身に鳥肌が立った。


「お前キモすぎだろ」


「いやいや、男子なら女子の水着見たいでしょ」


ニヤつきながら変なことを口にする。


次はこいつが何か事件を起こしそうだな。もしそうなった場合俺は助けられねえな。助けようとしたら返り討ちに遭うしな。


そんな変なことを考えているといきなり杉山が顔を近づけてきた。俺はその行動に驚き思わず一歩後退してしまう。


「そんなキモがらないでぇ~」


「それは無理だ」


「何でだよん。まあ、そんなことより誰の水着が楽しみ?」


再び同じ質問をしてきた杉山。


答えないと逃がしてくれなさそうだ。


しかし誰の水着が楽しみと言われてもな。


俺は顎に手をやり考える。


「おお~真剣に考えちゃってるじゃん!」


俺は杉山の言葉を聞き我に返る。


「か、考えてねえよ! じゃあ逆に訊くがお前は誰なんだよ」


「いい質問サンサンキュー! けど俺も決まってないんだよね」


満面の笑みを浮かべながら杉山はそう言った。


どこに笑う要素があるのか謎なんだが......。


「だって中西ちゃんも潮田ちゃんも林ちゃんもみんないいもん持ってるじゃん!」


グッドポーズとウインクを同時にしてみせた杉山。


「おえぇぇぇぇ」


「なんで吐きそうなんだよ!」


「だってお前がキモいんだよ」


「悲しい」


そんなくだらない会話を交わしていると女子たちが姿を見せた。


「おぉー!」


——おいおい杉山、声漏れてるぞ。


俺は心中でそう呟く。


しかし杉山の言った通りみんないいもんを持っている。


「みんな似合っちゃてるね!」


「そうでしょうか」


中西が恥ずかしそうにそう言った。


「さっきからずっと言ってるのよ。桃花ちゃんおっぱいでかいって」


更衣室で着替える前とは比べ物にならないくらい林は元の林に戻っていた。


一体何があったらあそこまで落ち込んでいた奴がこんなに騒がしくなるのだろうか。


「ちょ、やめてよねねちゃん」


中西は林の言葉を恥ずかしそうに受け取った。


「それにしてもここにいる女子ってみんな巨乳だねぇ~」


林がニヤニヤしながらそう言った。


「そう思うでしょ? ぼっち先輩!」


「だ、黙れ! そんなこと俺に訊くな!」


「またまた照れちゃって~」


林はクスクス笑いながら俺をからかってきた。


全くこいつはさっきと変わりすぎだ。明るい方がいいと言ったが訂正したい気分だ。落ち込んでいる林の方がいいかもしれん。


「龍ちゃん龍ちゃん」


「何だよ」


「中西ちゃんの水着褒めてあげなよ」


「何でだよ!」


俺がそう言うと杉山は「はあ」と溜め息を吐いて俺の顔をじっと見た。


そしてニヤッと笑う。


「龍ちゃんが中西ちゃんの水着に見惚れてた~。そんなに見惚れてたってやっぱ可愛かったからでしょ~。どこがそんに可愛かったのか感想聞きたーい」


杉山はみんなに聞こえるようにわざと大声を出した。


俺らの中だけじゃなく、周りにいた全く知らん奴らまでこちらを見ていた。


「てめええええええええ!」


「そんな怒らないでよ~」


俺と杉山が言い合っていると中西が俺のもとまでやって来た。


「ど、どうでしょう。私の水着......」


中西は目を泳がせながら俺のそう訊いて来る。


頬を真っ赤に染めているってことは中西も恥ずかしがっているということだ。


しかし「どうでしょう」と訊かれても何て答えればいいのか分からん。


それにこの状況、滅茶苦茶恥ずかしい。


俺は頭をポリポリ掻いて口を開く。


「い、いいんじゃねえの」


「いいじゃんじゃん!」


「きゃー師匠ったら」


横から部外者の声が聞こえてきたが無視しておこう。


「あ、ありがとうございます」


中西は体をむずむずさせながら俺を見てきた。


全く何でこうも中西と話すと緊張してしまうんだ。


てか何でこいつは俺に水着に感想を言って欲しかったんだよ。


とりあえずこうなったのは全部こいつのせいだ。


俺は杉山を睨みつける。


しかし杉山は俺の視線には気づかづに女子一人一人に水着の感想を伝えていた。


「全くこいつは」


俺は誰にも聞こえない声でそう言った。


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