第65話 暫時休憩

 はーちゃんの話のキリがよくなったので、ぼくは、「暫時休憩」を宣言し、対談をしばし休めることにした。

 実際、時計の針は15時を幾分回っている。ここで20分ほど、休憩をとる。

ことのついでに、ラウンジから人数分の飲み物を取寄せた。今回は不思議なことに、ほとんどの人が、アイスコーヒーだ。はーちゃんだけが、ストレートのアイスティーを頼んだ。それにしても、今回は話が全く荒れることなく、和やかそのものに進んでいる。年齢差というか、世代差があるかと思ったが、それもあまり感じない。

 はーちゃんと上本君は、会議室の端にいて、電話番号とSNSのアドレス交換に始まって、いろいろ話し込んでいる。


 「健太君、今度、どこか一緒に行こうよ!」

 「今度と言わず、明日でもいいよ」

 「明日なら、一日大丈夫」

「はーちゃん、岡電の電車乗った?」

 「まだ乗ってないよ、乗りに行く?」

 「予定を変更して、もう何日か滞在して、神戸に戻ろうと思てる。明日は、岡電の電車に乗って、写真と動画を撮って、動画を笑顔動画にあげようかな、と。親にはさっきメールで連絡しておいたから、もうしばらくO市にいるよ」

 「でも、今日はいいとして、明日は、どこに泊まるの?」

 「それは、あとで考える」

 「じゃあ、明日、どこで待ち合わせ、しよっか?」

 「O駅前の電停のホームで11時ぐらいどうかな?」

 「いいよ、着いたら、はーから連絡入れるね」

 「1日乗り放題の400円のフリーきっぷ、買っとくからね。それがあれば、電車の走る近辺はたいてい動けるでしょ」

 「そうね」


 Gホテルの会議室の片隅で、ごくごく普通の、今時の若い男女の会話が続いている。でも、今から35年ほど前は、ぼくとたまきちゃん、今の彼らと同じような感じだったかな。もちろん、土井氏、大学生たちの会話を録音や録画をしたりはしない。


 彼とたまきちゃんとぼくで、この後の打ち合わせをする。氏の案では、もうこの際、ざっくばらんに雑談会で行きましょうよ、何か皆さんに話してほしいテーマがあるときだけ、こちらから注文を出せばいいでしょう、とのこと。たまきちゃんも、その案に賛成した。それにしても、今日はあの「論争」のときのようなストレスがまったくないですねぇ、と、土井氏がぽつりと漏らす。ぼくらも同感だ。


 マニア氏とカメラマンの沖原氏と鉄道紀行作家の上田氏の3人は、ごくごく普通に、鉄道の話をしている。最近どこに行ったとか、どんな本を企画中とか、どんな写真を撮ったとか、最近の鉄道ピクトリアルがどうこうとか、そういう話ばかりだが、いつぞやのような「緊張感」や、まして、相手に対する「威圧感」などとは無縁だ。

 はたから見ていると、旅先で出会った鉄道ファンが仲良くなって話し込んでいるような感じ。そういえば、ぼくが大学生の頃の夜行列車には、そんな集団が、あちこちにできていたなぁ。何だか、懐かしい光景を見ているような気がする。

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