第5日目

第31話 到着5日目・昼その1


 ついに、私たちがこの『或雪山山荘』に到着してから、第5日目の朝がやってきました。


 私はこの日の朝は、昨日の徹夜での見張りが祟って、そうとう眠りが深かったようでした。


 ゆえに、コンジ先生が私を起こしに来てくれるまで、まったく目をさますことはなかったのです。


 よって、ここからはコンジ先生から聞いたとおりに、述べていこうと思います。



 ****





 コンジ先生とジェニー警視、それにメッシュさんは三人一組になって、館内の見回りをしていました。


 ハンドガンをコンジ先生が、散弾銃をジェニー警視が、それぞれ持ち、メッシュさんは火かき棒を持って警戒に当たったということです。



 まずは館の1階の見回りを始めました。


 『或雪山山荘』の『右翼の塔』側の1階、メッシュさんの部屋や、亡くなったカンさんの部屋、それにキッチン、物置、カンさんの遺体が発見された警備室があります。



 「ジェニー警視……。あの先の『右翼の塔』だが、鍵はいったいどうなってるんです?」


 「ああ。あれはパパデスさんの部屋の中に置いたままになっているな。しかし、そのパパデスさんの部屋の扉は鍵を閉めて、ほら? 今はここに!」



 そう言ってジェニー警視はパパデスさんの部屋の鍵を見せた。




 「あっしはそういうのわからねぇんですが……、でも人狼のヤツがマスターキーを持ってるなら、パパデス様の部屋に入って『右翼の塔』に隠れていることもできるのじゃあないですかね?」


 メッシュさんもおずおずと歩きながら、疑問を言う。



 「うーん。メッシュさん。その心配は無用ですよ?」


 コンジ先生はそれをぴしゃりと否定する。



 「え? どうしてですかい? キノノウ様。」


 「なぜならば、マスターキーを持っているのならば、いちいちパパデスさんの部屋に行かなくても『右翼の塔』の扉は開けられますからね。」


 「あっ……! そうでしたわ。これはうっかりしてましたわ。」


 「まあ、地下の宝物殿に入るのならば、地下室の鍵が必要ですけどね?」


 「それもパパデスさんの部屋に置いてありますよ。キノノウくん。」


 ジェニー警視がここでも確認をする。




 そういうわけで、『右翼の塔』の扉の鍵がかかっているのを確認し、塔の中の見回りは特に行われなかったのです。


 そして、2階、3階と確認し、今度は廊下を通って、反対側の『左翼の塔』側の見回りを開始。


 そして、2階、1階へと降り、浴場の中も確認したそうです。


 『左翼の塔』は、外側から鍵がかかっているのを確認し、やはり塔の中は確認しなかった。



 夜の館内は雪の吹雪く音だけが、コォコォと響きわたり、不気味だった。


 そして、一度周回が終わると、いったん2階のダイニングルームで休憩を取る。


 そして、また1時間後に、見回りに出る。


 その繰り返し……。





 みんなが部屋に戻った夜23時以降、深夜0時、1時、2時、3時、4時、5時、6時、7時……、と計8回の見回りをしたが、特に何もなかったという……。


 物音もせず、ただひたすら時間が過ぎていった。


 そして、ようやく朝日が差し込みかかる手前、7時の見回りを終え、特別何も起きなかったことを確かめたコンジ先生たちは、次の8時で最後にし、解散することにした。


 まだ外は暗いが、もう間もなく明るくなってくるだろう。


 人狼の時間は終わり……ということだ。



 カナダのバンクーバーで、冬の日の出が8時、日の入り16時だ。


 ここはバンクーバーよりさらに緯度が高いので、日の出の時刻はもう少し後になる。


 最後の見回りが8時で、そろそろみんな起きてくる時刻だろう。




 コンジ先生たちはダイニングルームで8時まで過ごした後、最後の見回りに出かけた。


 『右翼の塔』側の1階から3階まで、その後『左翼の塔』側に移り、3階から1階へと見回っていった。


 しかし、ここまで何の異常も発見されなかったのでした。



 「ふぅ……。キノノウくん。今日は何も起きなかったようだな?」


 「ええ。そのようです。やはり我々の見回りを警戒して動きを潜めたのか、あるいは、すでに逃げ出していたのか……。」


 「それだといいですなぁ。まあ、なんにせよ、このまま吹雪が収まるのを期待したいですわ。」



 「では、解散にしますか?」


 「ですね。」


 「はぁ……。あっしはもう眠くて仕方ないですよ。朝食の準備があるんですけどねぇ……。」


 「いやぁ。メッシュさん。助かりましたよ。まあ、少しくらい朝食は遅くなってもいいのではないですかね?」


 「……なら、いいんですがね。」




 そして、コンジ先生とジェニー警視は、2階の自分たちの部屋に戻るため、『右翼の塔』側の階段から上に上がったのです。


 メッシュさんはそれを見送り、1階の自分の部屋に行こうと廊下を塔のほうへ歩いていったのです。


 この時の歩いていくメッシュさんの後ろ姿を、コンジ先生は階段を上がる途中で横目で捉えていたと言います。



 まさか、この後、あんな悲劇が起きるとは露とも知らず……。




 「ば……、化け物ぉーーっ!?」


 メッシュさんの声が大きく響きわたった。



 「ぐぅるるるるるる……!」



 何者か獣のうめき声が聞こえてきた。



 「ぎゃぁっ……あああああーーーぁっ!?」


 メッシュさんの叫び声が続いて聞こえてきた。




 「ジェニー警視っ!」


 「はいっ! キノノウさん! メッシュさんに何か!?」


 「行きましょう!」



 コンジ先生とジェニー警視は『右翼の塔』側の2階まで上がっていたところだったが、そのたった今上ってきた階段を急いで駆け下りた。


 すると……。


 塔の方から廊下を何かがものすごい勢いで迫ってきていた。


 それは……。





 人狼だった!


 人の大きさの狼の顔をした獣人……。


 その大きな獣が恐ろしい形相で、コンジ先生たちの元へ間を詰めて迫ってきていた。



 ジェニー警視とコンジ先生が持っていたハンドガンと散弾銃を構えて撃とうとする……。


 が、その化け物は瞬時に身を翻し、向きを変えた。



 ドンッ!!



 ジェニー警視がライフル銃を撃ったが、外れてしまった!


 さらに、銃の狙いの照準から消えたその人狼に再び照準を合わせようとしたが、その時には、すでに人狼は1階玄関前の大広間ホールの扉を開け、階段の間から駆け抜けていた。


 メッシュさんが廊下に血を流して倒れている。




 「待てっ!!」


 ジェニー警視はその後を追った。


 人狼の姿は玄関ホールを通り、『左翼の塔』側の扉の近くまで逃げている。


 コンジ先生はメッシュさんの傍に駆け寄る。



 「大丈夫ですか!?」


 「う……、うぅ……。」




 ジェニー警視が、必死で追いかけるが、さすがは人狼、その速度は人間以上だ。



 バンッ!!



 『左翼の塔』玄関ホールの扉を開けて、向こう側へ身を躍らせて逃げていく。


 そしてその勢いで扉が閉まる。



 「逃さんぞ! 人狼め!」


 「追い詰めましょう!」


 ジェニー警視もそのすぐ後に続き、玄関ホールの扉を開けて『左翼の塔』側へ出た!




 人狼の姿が見えない!


 廊下の向こうに塔へ続く扉が閉まっているのが見える。


 だが、そこへ続く廊下には何の姿も見えなかった。



 すると、そこへ『左翼の塔』側の階段の間の上から、ビジューさんが下りてきた。



 「何事だ!?」



 「ビジューさん! 人狼が現れました! 気をつけてください!」


 「どうしました!? 銃声が聞こえましたが!?」



 ビジューさんに続いて、スエノさん、そしてジニアスさんも下りてきた。


 「人狼が現れました。こちら側に逃げてきましたが、見ませんでしたか!?」


 「いいえ。僕たちの前にビジューさんが階段を下りていくところでしたので、僕たちも急いで下りてきたのです。」


 「ああ。ワタクシも銃声が聞こえたのでな。びっくりして下りてきたんじゃよ。」




 玄関ホールのほうからも、シュジイ医師の声が聞こえてくる。


 「いったい、どうしたんですか!? メッシュ! 怪我をしているのか!?」



 『左翼の塔』側の1階は廊下の向こうに『左翼の塔』があり、そこの扉は閉まっている。


 奥にはママハッハさんとアネノさんの服を仕舞っているクローゼットの部屋が2つ、男性用と女性用の浴場があり、物置、エレベータールーム……、それにトイレがあるのみだ。


 このうちの何処かへ人狼は姿を隠したと思われる。




 




 いよいよ、人狼を追い詰めたのでしょうか……。



 コンジ先生もメッシュさんをシュジイ医師に任せ、みなさんに合流しました。



 ひと部屋ひと部屋確認していけば、必ずや人狼は見つかるでしょう。


 なぜなら、人狼は誰かに化けることは出来ても、その姿を消し去ることは出来ないのですから……。





 ~続く~




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る