第14話 ツアー、遭難、サバイバル。
ひとまず海辺から、二手に分かれて歩いてみることにした。
太陽の隠れているうちに済ませないと。はっきりさせておきたいのは、ここは本当に島なのか、他に人がいるのかどうかだ。
トウコちゃんがY字の枝を二本、砂浜に刺して具合を見ている。
……? 何してる?
「ハルもシャツとか乾かす?」
そういってトウコちゃんは
ポシェットを手銛にかけて吊るす。物干し竿かわりってことか。それはわかる、けど。
あれは久万倉さんの持っていた銛だ。
どこにあった? 波打ち際辺りに転がってから、俺が見えなかっただけか。
あの時。トウコちゃんの身体から、たまたま狙いが外れたから良かったものの、突き刺さっていてもおかしくなかった。結局トウコちゃんは船の外に突き飛ばされたワケだけど。
……どうやって久万倉さんから奪い、ここまで持ってきたんだ?
片手でも塞がったら泳げない。そもそも俺と言うお荷物をかかえた状態でそんな余裕があったのか? あのポシェットに引っかけて来た……ならまあ出来る。ただ何のためだ? まさか、いまこうやって乾かすためじゃあないだろ。
考えていると、もうトウコちゃんはワンピースを脱いでいた。じろじろ見なくて済んで良かった。濡れた長丈インナーが張り付いて、白い肌が透けていたが、波打った髪がちょうどよく前を隠している。
何度かワンピースを振り、
そして、次にインナーの裾に手を……
「待って! それ脱いだら裸じゃないか!?」
「え? そうだけど」
インナーをめくり、へそまで見えたところでトウコちゃんは止まった。
「こっち向かなくていいッ! 早くしまって! 女の子がそんなことしちゃダメだ。もっと周りの目に気を付けないと」
「でもハル以外、誰も人いませんよ?」
「その理屈でも俺がいるからね!? それに……いまこの周りはってだけで、調べてみないと分からない。無人島だとしても、裸はダメ。お願いだから!」
「むむむ……濡れたままだと気持ち悪いし、トウコはすぐ服を乾かした方がいいと思いますが」
眼が合ってしばらく意地の張り合いをしていたけど、トウコちゃんの視線が先に外れた。そのまま吊るしてあるポシェットからタオルを取り出し、ぎゅっと絞ってから差し出された。
「いまは時間がない。ハルに従います。これ使って。頭に巻いたり首に下げるだけで涼しくなるから」
「ああ、ラムネを巻いてたタオル持ってたのか……いいの?」
「トウコには帽子があります。ハルに使って欲しいです」
暑くなりますから、と手渡ししてトウコちゃんは浜辺を歩き出した。自分も逆側へ探索を始める。ひとまず左右に歩いていけば、島ならぐるりと周ってトウコちゃんと合流するはずだ。太陽が雲から出てくるまでに済むかどうかは天と風任せになるが……
* *
移動しながら改めて自分の持ち物をチェックする。
防水カバーに包まれた携帯は問題なく使えるようだ。バッテリーは70%を切っている。圏外だが、ライト機能や方位磁石アプリが役に立つ時が来るかもしれない。とりあえず電源は切っておこう。
あとは財布……に大きな飴玉一つ。
道具も食料も無いに等しい状態だ。
「トウコちゃんじゃないが、シャツは脱いどくか」
Tシャツを半ズボン後ろのベルトに沿って噛ませた。濡れたタオルはバンダナのようにして額に結ぶ……そういや買ったペットボトルも置いてきたな。こんなことになるなら飲み切っとけばよかった。
このタオル。トウコちゃんが身体に巻けば……いや、さすがに小さすぎるか。胸くらいは隠せるかもだけど……考えないとな。ワンピースが乾けば、インナーと交互に洗うにようにして……俺は半ズボンとパンツ……洗濯のローテーションを練るのは後でいいや。まずは人探せ。杞憂で終わらせろ。
トウコちゃんには《人がいたらすぐ引き返す》、こっちに合流するよう言ってある。どんな人がいるか分からない。いきなり襲い掛かって来る、なんて考えすぎかもしれないが、木地の件もある。用心した方が身のためだ。
砂浜には誰もいない。
落ちてるものも海から流れ着いたものばかり。流木や枝が目立つ。人由来のゴミもほとんど見られない。きれいな琴吹のビーチでも、ペットボトルやプラ容器辺りは探せたモンだが……
お、船のウキがある。網付きだ。
網の穴は大きく、魚を獲るには向いて無さそう。バラせばロープ代わりになるか。あ、切るナイフがないや。魚を獲るのは難しいが、貝や海藻は探せば手掴みで出来そうな感じはする。
浜からしばらく歩いていくと岩場が目立ってきた。
風や波に浸食されて、尖った部分が多い。手足を切らないようにしないと。それに満潮時だとここは浸かるな。しおだまりがあちこちにある。ちょっと高い場所だからか、取り残された魚はいなかった。探索できるうちに済ませよう。
「と言っても浜より落ちてるものは限定されてるか」
サンダルの足で岩場を渡りながら確かめても、枝や木のくずが散見されて、カニとかが動く程度。見上げれば切りたった岩肌の間に知らない草花やクロマツが群生している。あそこまで登っても何もなさそうだ。
段差も少しずつきつくなる。
波が打ち上げられ、潮の匂いをより濃くしていた。ひと息ついて、タオルで汗をぬぐう。もうすぐ太陽が出て、さらに暑い真夏の陽気に晒される……この辺が引き際か?
見晴らしはいい。ムカつくほどだ。
すごいきれいな景色。観光で来られればどれだけ良かったか……
ぐるりと海は眺められるのに、船は通る気配さえない。漁師の船はほぼ早朝に集中して、まき網漁なら夜18時くらいから。おやつ時のいま見えないのは仕方ない。ただ他の観光船。ホエールウォッチングとかで回ってる船くらい横切れよ……! 見つけてもらうとしたら、目印、旗とか要るか。狼煙は火を作る用意がないと無理だし。
浜辺より奥側は……ほぼ崖になっている。
岩の凸凹をつたって行けないこともない、か? ただ迂回は出来ても十メートルほど先の海へ落下したら、また服を乾かすリスタート。ところどころ突き出した岩に激突すれば良くて骨折。そして医療機関のないここでは死を意味する。メリットはマジで何もない。ここまでだな。引き返そう。
「ハル?」
来た道をぼんやり振り返っていると、崖側からトウコちゃんの声がした。
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