第8話

「おい青野、ホントに来ないのかよ。笠原がお前が来ないと遊んでくれないって言ってるんだ、頼むから来てくれよ。こんなこと武藤に言えないんだ! 早く了承してくれ……!」


 次の日、学校の教室に着くや否や廊下に連れ出され、武藤の友人である園中が俺に言った。

 どうやら俺が今度遊ぶという約束を断ったことによって、笠原がどうかしたらしい。


 余計なことすんなよ、と思った。なぜこんなことになったのか、ちっとも理解できない。


「園中、それどういうこと? なんで俺が行かなかったら、笠原が遊ばないってことになるんだよ」


「そんなの知らない。……まぁ、分かってると思うけど、武藤は笠原のことが好きなんだ」


 知ってる。


「それで今度告るつもりらしいんだが、それを一緒に遊んだタイミングにしようってことにしたらしい」


「は? なら園中も遠慮して二人だけで遊ばせとけばいいじゃないか。武藤と笠原、美男美女のビッグカップルじゃん」


 何も考えず、思ったことをそのまま口にする。園中との会話とか、考えるだけ無駄だと思った。

 

「武藤を怒らせたらマズいんだって、頼むよ、青野!」


 お前がなんとかすればいいだろ。


「こっちだって予定がある。武藤には『残念だったな、だが武藤の恋はずっと応援してる』、こう話しておいてくれ」


「応援してるなら来てくれよッ! このままだと、武藤が発狂するぞ」


「そんなんで諦めるなら、初めから笠原なんて狙うなよ。知らぬが仏って言うし、ずっと内緒にしとけば?」


「アホか! 絶対バレるだろ!」


「なら園中がなんとかしろよ」


「———青野?」


 あ゛?

 突然のことだった。園中とは違う、高い女の子の声が聞こえたのだ。


 心の中で、変な声が出た。人気のない廊下に、ポツンと人の気配。

 俺はゆっくりと振り向く。


「笠原か」


 笠原が立っていた。

 そこから笠原は笑顔で、


「なんで、ウソ吐いたの?」


 やっぱりか。……っていうか、ウソバレるの早すぎるだろ。避妊具のことも含めて、完全に変なヤツだと思われてるよ。


「……な、なんのこ———」


「バイトあるって、言ってたよね? 本当は無いんじゃない?」


 なんで、知ってるんだろう。


「最近新しいバイトを始めたんだよ」


「お母さんも知らないバイト?」


 母親に訊いたのか。


「うん、最近マジックミラー号製作会社の受付をしてるんだ」


「……ん? 何それ」


「知らなくていいよ。テキトーなこと言っただけだから」


「やっぱり……ウソ吐き」


 笠原が口を尖らせる。武藤に見せたら、大喜びしそうな表情だった。


「実はバイトじゃなくて、早川と遊ぶ予定なんだ。ゴメンね」


 ……あ、まずった。






 

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