第5話

「おかえりなさい、遅かったわね」


 家に戻ると、母親が帰っていて、俺をテキトーに出迎えた。

 リビングに行くと、母親が晩ご飯の肉じゃがを食べているところだった。


「和人どこ行ってたの? あんまり遅くなったら、警察に職務質問されるよ?」


「今はまだ、九時にもなってないんだけど?」


「あんた見た目怪しいし、真っ先に捕まると思うけど」


「そっか、その予言が当たること、楽しみにしといてよ」


 俺はすぐに母親との会話を終わらせて、自室へ移動する。部屋のドアを開けると、まず最初にグレーのウッドブラインドが目に入る。その近くには、窮屈そうに並んだベッド。


 俺はその上に座って、やがて寝転がる。

 意味もなく、またスマホを触った。

 ほとんど反射的にLINEを開く。一件の着信。


早川 詩音>九時に電話して、話したいことがあります。


 ……? なんで、電話? 

 LINEでいいじゃん。わざわざ通話する必要性が感じられない。


和人>分かった。そっちから電話してくれ


 俺はそうLINEで送り、クラスLINEのトーク画面へ。多くのクラスメートがたわいもない話をしている。

 

『俺今日下痢した』『え、マジ? 俺も!』『下痢流行ってんの?』『課題とかあるっけ?』『英語がある』『課題とかやる気ないからAV見てる。マジックミラー号』『それは草』『賢者タイムで更にやる気失せた』


 俺の通っている高校は共学だったと思うが、男子しか話していなかった。マジでどうでもいいような会話しかしていない。羨ましいともなんとも思わない。


『AVって、全部演技だって知ってた?』『え、そうなの? マジックミラー号?』『それだけじゃなくて時間停止とかも』『それはさすがに分かる』『素人ナンパ企画は?』『透明人間は絶対ニセモノ』


 こいつら何話してんだ。さっきからこんな話ばっかりじゃないか。

 童貞の会話、クラスLINEでするなよ。




「和人ー、ご飯食べる?」


 リビングダイニングの方向から、母親の声がした。どうやら俺を呼んでいるみたいだ。

 その時、またLINEの着信音。今度はクラスLINEじゃない。


 ———笠原からだった。


 そういえば今日笠原と会った気がする。コンビニから帰る途中だったか。膝に手をついた俺に、上から傘をさすというドラマのワンシーンみたいなことをしたのを覚えている。


美月>今日の避妊具、誰に渡したの?


 やっぱりか。


自分>友達だよ


美月>使ってくれたって?


自分>とっても気持ちよかったってさ。


美月>私、明日カラオケ行くんだけど、青野も来ない?


自分>行かない。


 俺はそれだけ送って、スマホの電源を切った。


【あとがき】

 こんにちは、鶺鴒 優雨凛です。

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