8話 魔王の正体はあまり知られていない

 一晩明けて、私たちは集会所で冒険者登録を済ませ、証明となるカードを受け取る。

 もっと複雑な手続きや試験があると思っていたけど、手数料を支払って記名するだけの簡単な作業だった。

 聞けば、冒険者として有名になるのは難しいものの、肩書きを得るだけなら最低限依頼をこなせる能力があれば問題ないらしい。

 手に汗握るような展開を待ち望んでいるわけではないので、手軽に登録できて助かる。

 あと、冒険者カードにはクレジットカードのような機能もある。専門的な魔法が使われているらしいから詳しいことはよく分からないけど、集会所で現金をカードの残高に変換してもらい、支払いをする際にはカードから自動的に引かれるということ。


「今日はどうする?」


 宿を出て町を歩きながら、パアルちゃんに訊ねる。


「町中の食糧を食い荒らすのです」


「パアルちゃん、そんなに食べれないでしょ」


 昨日もフランクフルト――正確には見た目と味が似ているだけの別物――を食べた後、満腹で動けないと言ってベッドに横たわっていた。


「軽い冗談なのです。ちょっと魔王っぽいことを言ってみただけなのです」


「魔王と言えば、こんなに堂々と歩いてるのに全然気付かれないね。もしかして、魔法でカモフラージュしてるの?」


「ふふんっ。ほとんど城にこもりっきりだったから、我が魔王だと知る者は世界にも数えるほどしかいないのです。あと、魔法は貴様のせいでなにも使えないのですっ」


 なるほど、要は引きこもりだったと。

 下手なことを言うと機嫌を損ねそうだから、とりあえずうなずいておく。


「それじゃあ、安心して動き回れるね」


「その通りなのです。まぁ、仮に騒ぎになっても貴様が魔法で町ごと滅ぼせばいいのです」


「冗談はこのぐらいにして、とりあえずご飯でも食べようか」


「賛成なのですっ」


「昨日はお肉だったから、今日はお魚がいいなぁ」


「だったら、あっちによさそうな露店があるのです。急ぐのですっ」


 見かけのわりに食い意地の張っているパアルちゃんは、お店がある方へと一目散に走り出した。

 屋台風のお店にて、鮎よりも二回りほど大きな魚に串を刺して焼いた物を購入。冒険者カードを見せると、お店の人が手のひらサイズの水晶を取り出してカードに近付ける。これだけで会計が済んだらしい。

 魔法が当たり前のように存在する世界だからこその支払い方法だけど、電子決済を髣髴とさせる。

 想像していた異世界生活とは大きく異なるけど、この様子なら快適に暮らしていけそうだ。

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