6話 始まりの町にやって来た

 パアルちゃんとのおしゃべりを楽しみながら荒野を進み続け、とうとう目的地に到着した。


「ここが始まりの町なのです。存在は以前から知っていたけど、実際に来るのは我も初めてなのです」


「始まりの町かぁ。正式名称はなんて言うの?」


 町の入口で立ち止まり、古びた宿や小ぢんまりとした商店が散見される町並みを眺めながら問いかける。


「だから、始まりの町なのです。他に呼び方なんてないのです」


「そうなんだ」


 通称ではなかったらしい。

 現代日本での生活に慣れている私が見ると、町というよりは村という印象が強い。

 荒れ果てた大地に申し訳程度の自然が残る場所に、ポツンと存在する小規模な集落。子どもの頃に遊んだRPGを思い出す。


「それじゃあ、さっそく宿に向かうのです」


「うん、賛成っ」


 道中における会話の中で、町に到着したら最初に宿へ行こうとパアルちゃんに提案された。魔王の力というご都合主義なチート能力のおかげで疲れはないけど、腰を落ち着けて休みたいという欲求は拭えない。

 善は急げとばかりに、町へ入るなり早足で宿へ向かう。

 幅二メートルほどの道を歩いていると、両脇に並ぶ料理やアクセサリーなどを扱う露店が目に付く。どれも興味をそそられるので、一休みしたらパアルちゃんと一緒に見て回るのも楽しそう。

 パアルちゃんに召喚された影響から、私は異世界の言葉を話したり読み書きしたりできるらしい。正確には、パアルちゃんと言語能力を共有しているとのこと。

 他にも、この世界にも朝と夜があること、雨が降ったり雷が落ちたり、季節の移り変わりがあることなど、道中にいろいろと教えてもらった。大まかな説明を受けただけだから、当然ながらまだまだ知らないことだらけだ。


「ところで、お金は大丈夫なの? 私は一文無しだし、しばらく滞在するならそれなりの金額が必要だと思うんだけど」


 工面してもらう必要があるから強気なことは言えないけど、支払いの段階になってお金が足りないと分かっても遅いので、いまのうちに確認しておく。


「ふふんっ、問題ないのですっ」


 ちょうど宿の前に到着。シンプルなデザインの木造二階建てを値踏みするように眺めつつ、パアルちゃんは腰に手を当て、その慎ましやかな胸を張った。

 よかった。ワンピースみたいな服のどこに仕舞っているのかは分からないけど、持ち合わせはあるらしい。

 いつまでも頼りっぱなしというわけにはいかないし、私も共同生活のためにお金を稼がないと。


「いまどれぐらい持ってるの?」


 この世界では国単位ではなく世界全土でコルという通貨が使われている。露店に張り出されていた価格帯を見た限り、日本円とだいたい同じ感覚で考えてよさそう。

 目の前にある宿は、入り口の料金表に一泊1000コルと記されている。アパート規模の建物とはいえ、一人千円で泊まれるのは実にリーズナブル。

 ただ、二人で連泊すれば出費もかさむ。

 パアルちゃんの手持ち如何によっては、一晩だけ泊まって明日から本格的にお金を稼ぐ必要もある。


「1コルも持ってないのです。お金なんてなくても、宿屋の主人を脅して無理やり居座ればいいのです。完璧な計画なのです。どうなのです? 我のことを見直したのです?」


「いや、どちらかと言えば見損なったよ……」


 私は呆れ果てて溜息を漏らし、どうしたものかと天を仰いだ。

 空はどこまでも澄み渡っていて、手足が六本ぐらいある鳥みたいな生き物が群れで飛んでいる。

 開幕で魔王の奴隷にされるという非現実的な危機を乗り越えた私は、金欠という極めて身近な問題にぶち当たった。

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