JKと魔王のどこまでも適当な異世界生活
ありきた
1話 適当な脅し文句で魔王に挑む
前略、私こと
「ふははっ、大成功なのですっ。神のみに許された召喚魔法を使えちゃうなんて、さすがは我なのですっ」
純白のシフォンワンピースを身にまとうかわいい女の子が、鈴の音のような澄んだ声を響かせる。
精緻にして端整な容姿、白銀の長髪、黄金の瞳、瑞々しい色白の肌、贅肉のない幼い体躯。一言で表すなら、絶世の美少女。
辺りには雑草一つない荒野が広がり、目線を上げると翼を生やしたクジラのような巨大生物が空を悠々と飛んでいる。
学校帰りの私がいきなりこんな場所に来るなんて、ラノベなんかでよく見る異世界転生――いや、死んだわけじゃないから転移かな? とにかく、ここは異世界と呼ばれるような場所だ。
短絡的な思考かもしれないけど、他には考えられない。
不幸中の幸いなのは、言葉が理解できるということだ。
「えっと、あなたはいったい……?」
こちらの言葉が通じない可能性を憂慮しつつも、意思疎通を図るべく問いを投げる。
「我は魔王パアルなのです。貴様はこれから一生、我の奴隷としてこき使ってやるのです!」
よかった、会話ができる。
なんて呑気に喜んでる場合じゃない。
「へ、へぇ、果たしてこの私を制御できるかな?」
考えなんてない。
ノリと勢いで、それっぽいセリフを言ってみた。
『この私』の部分を強く発音して、只者じゃない感じを演出する。
相手がよほどのバカじゃなかったら通じないだろうけど、わけも分からないまま見知らぬ世界で奴隷生活を送るぐらいなら、幼稚なハッタリでも使わない手はない。
「なっ……そ、それはいったい、どういうことなのです?」
あ、よほどのバカかもしれない。
「私は美澄玲奈。元の世界では破滅神として名を馳せていたんだけど、その様子じゃ知らないみたいだね」
自信たっぷりに、さも当然の事実であるかのように嘘をつく。
すると、パアルちゃんは険しい表情で一歩後ずさった。
窮地を脱するためとはいえ、罪悪感すら覚えるほど見事に引っかかってくれている。
「うぐぐっ。ちょっとした遊び感覚で神話級魔法を使ってみただけなのに、まさかこんなとんでもない化け物を召喚してしまうなんて、完全に誤算なのですっ」
「ところで、私って小さな女の子が大好物なんだよねー」
ペロッと舌なめずりをしつつ、獲物を狙うように目を細める。
「ひぃっ! こ、好物って、ま、まさか、我をた、食べるのです? き、きっとおいしくないのです! やめた方がいいのです!」
パアルちゃんは恐怖で腰が抜けたのか、その場でペタンと尻餅をつく。
大きな瞳に涙をにじませ、顔面蒼白になってこちらを見上げる。
すっかりこちらが悪役というか、子どもをいじめてるみたいで心が痛い。
「大丈夫、私って好き嫌いないから。髪の毛一本残さず、おいしく食べてあげるよ」
「あわわわわわわっ、み、みみみ、見逃してほしいのですっ。そっ、そうだっ、我の力を全部やるのですっ。神にも匹敵する魔王の能力を、丸ごとくれてやるのですっ。だから、ど、どうか許してほしいのです!」
まさに棚からぼたもち。
平凡な女子高生の私が、異世界に来て魔王の力をもらう。
ラノベとしてはありきたりな流れかもしれないけど、実体験としてこれほどまでに心躍る展開は他にない。
ここまで来たら、口先だけでやれるところまでやってみよう。
「ふむふむ、なるほどね。まぁ悪くはない提案かな。破壊神である私にとっては微々たる力だけど」
「は、破壊神? 破滅神じゃなかったのです?」
しまった。大して違わないと思うんだけど、もしかすると重要なポイントだったのかもしれない。
「……あーあ、細かいことをグチグチ言ってくるなら問答無用で食べちゃおっかなー」
「ひゃわぁあぁあああっっ! ごっ、ごめんなさいなのです! 考え直してほしいのです!」
指を鳴らしつつジリジリと詰め寄ると、パアルちゃんは悲鳴を上げて涙を溢れさせた。しかも、尋常じゃない恐怖を与えてしまったらしく、下腹部から勢いよく漏れ出た液体が地面を濡らす。
泣かせるだけでなくおもらしまでさせてしまい、いよいよ良心の呵責に耐え切れなくなってきた。
「うん、いいよ。魔王の力をくれたら、それで勘弁してあげる」
「ほんとなのですっ!? ありがとうなのです! 恩に着るのです! それじゃあ、いますぐ始めるのです!」
パアルちゃんはスッと立ち上がり、希望に満ち溢れた表情を私に向ける。
なんというか、本当にごめん。奴隷になりたくない一心で適当なこと言って脅しちゃったけど、ここまで追い詰めなくてもよかったよね。
心の中で謝罪と反省をしている間に、パアルちゃんはなにやら小声でつぶやき始めた。
声は確かに聞き取れるのに、内容が少しも理解できない。いわゆる呪文みたいなものなのだろうか。
「レーナ、ちょっと屈むのです」
イントネーションが気になるけど、些細なことは置いておこう。
言われた通り、少し身を屈める。
「ちゅっ」
唇に、柔らかくて温かいなにかが触れる。
それが背伸びをしたパアルちゃんの唇だと認識するのと同時に、私の意識はプツンと途絶えた。
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