第189話 帰路につきましょう

 私たちは一日水族館を満喫した後、帰路につきました。なにぶん、水族館を出た時点で夕方の4時半なのです。今から電車を乗り継いで家に帰る頃には、5時半になっているはず。


 ……ですので、私たちは速やかに水族館から地下鉄の駅へと移動を開始するのでした。


「カズさん、ワカナちゃん。帰りの電車賃などは大丈夫ですか?」


「ああ、俺もワカナも大丈夫だ。だって、ほら」


 カズさんが見せてくださったのはICカードでした。確かに、今見せてくださったICカードでしたら、電車賃の方は問題なさそうです。


 ワカナちゃんもカズさんの隣から同じICカードを見せてくださったのですが、口の前の高さでICカードを見せてくださるワカナちゃんが可愛すぎて、意識が飛びかけたのはまた別問題なのですよ。


 ともかく、私たちは電車を乗り換えながら無事に和幸さんの待つ池谷家へと到着。道中におふたりとした話も、とても楽しく、1時間などあっという間でした!


「千晴、わざわざ一也と若菜を送って来てくれてありがとう」


「いえいえ、私が責任をもって送り届けると約束したのですから、これくらい当然です!」


「いや、それでも感謝しかないよ。だって、わざわざ途中下車しないといけないんだからさ」


「それを言われてはそうなのですが……」


 和幸さんの言う通りですが、高校生2人だけで帰らせるのも気が引けますし、そのあたりは年上としては当然のこと。そんなことをありのまま和幸さんに伝えたのですが、笑って聞き流されるだけなのでした。


「ああ、そうだ。千晴、服も無事に乾燥したから渡しておくよ」


「あ、ありがとうございます!」


 私は紙袋に入った服を受け取り、何度もお辞儀をしました。紙袋の中で畳まれた服はそれはもう丁寧に畳まれていて嬉しかったのです。


「ワカナちゃん、借りていた服は洗って明日にでも返しに来ますね」


「……その服、ハルお姉ちゃんにあげる」


「ほ、本当によろしいのですか?」


「……うん。サイズとか合わないし、持っていても仕方ない」


「ですが、ワカナちゃんだってまだまだ背丈も伸びるでしょうから、ご自分で着てください。ですので、キチンと洗って返します!」


 そこまで言ったところで気づきました。ワカナちゃんが困り顔だということに。ですが、そんなワカナちゃんにカズさんが何か伝えたかと思うと、態度が変わり、急がなくてもイイから返してくれればということで話がまとまったのです!


 どうして急にワカナちゃんが折れてくれたのか、その事を考えながら私は再び家路につきました。


 後日、ワカナちゃんに折れてくれた理由を尋ねてみたところ、『私が言い出したらきかないからあきらめろ』とカズさんに言われたと教えて頂いたのでした。

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