第90話 後方支援組の戦い

「ほらよっと!」


 そんな声と共に振るわれるムチ。その鞭は竜の鱗が編み込まれており、それがダメージを増している。そんな鞭を振るうのは小柄な少女。キラキラと白く光る羽衣に、蒼を基調としたサークレットが特徴的である。


「ハッ!」


「おお、炎魔法か?あっぶね~」


 少女は軽やかなステップでテツからの攻撃を回避する。テツが左手に持っているのは短剣。それも町で安く売られている安物である。しかし、テツはそれを元にして新たな魔道具を生み出した。


 それが、炎の短剣。といっても、短剣そのものが燃えているわけではない。


 見た目は安っぽい短剣だが、風切り音がなるほどの速度で振るうと魔法が発動するという仕組みだ。言うなれば、道具として使うと~のアイテムである。


 威力そのものは大したことはないが、炎魔法が使えないテツでも手のひらサイズの火球を発射できる。


「ルビア!オレが時間を稼ぐ。だから、君はみんなの回復を!」


「は、はいっ!」


 テツに促され、治癒魔法を発動させようとするルビア。


 彼女が発動させようとしているのは、発動時間は長いが一気にパーティ全員の体力ゲージを全回復させるというレベル10で覚えられる最上位の治癒魔法。


「チッ、回復なんてさせねぇよ!」


 そう言って、鞭が上から下へ振り下ろされる。それをテツは左手に持った短剣で受け止める。


 だが、しょせんは安物の短剣。受け止めた瞬間に粉々に砕け散った。そして、鞭はルビアの前に出たテツに命中する結果となった。


「うぐっ!?」


 ルビアの足下まで弾き飛ばされたテツの体力ゲージは8割強も削られていた。


 それほどまでに少女の攻撃が強力だったのか。いや、そうではない。


 純粋にテツの耐久のステータスが弱かったのだ。元より、魔道具師アイテムメーカーは戦闘職ではない。生産職だ。そんな生産職のテツが攻撃を受ければ、ハルたちよりも遥かに大きなダメージを受ける。


 しかし、テツの体力ゲージは次の瞬間には全回復していた。


「ル、ルビア……!」


「テツさん、大丈夫ですか!?」


 治癒魔法を使ったルビアは足元で仰向けに倒れるテツに片膝をついた状態で話しかける。


「治癒魔法は……そうか、オレの回復に回したのか」


「はい、皆さんの回復はこれだけの時間では到底間に合いませんから。なので、目の前のテツさんの回復だけでもと思ったんです」


 ルビアの判断は正しかった。あのまま魔法を切り替えなければ、テツがやられ、ルビアもやられていたことだろう。


 それを回避したという点で、ルビアの判断は正しかった。しかし、この判断により、カズたちが窮地に立たされていることもまた事実であった。


「そういや、アタシ、まだ名乗ってなかったか。アタシはアキってんだ。アンタらは?」


「オレはテツだ」


「私はルビアです」


 3人は武器を手放さない状態で、名乗り合った後、速やかに戦闘を再開したのだった。

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