20.
清也のことが好きなんだ、そう自覚してからここにいるのが気恥ずかしく感じるようになった。
作曲の話題の後も少し続いた会話の内容はまったく頭に入ってこなかった。
私が混乱している間に清也はまた眠りについていた。
料理や掃除をしたいところだが、私にはそれはできない。
きっと理人はそういうことをしてあげたんだろうな。そう思うと何もできない自分が不甲斐なかった。
だいぶ時間が経ったであろうか。
外から聞こえる風の音が、夜の冷たい風のそれに変わっている。
そろそろ帰らないとな、と思ったとき、スマホが震えた。
『清也さんの家の前にいる。帰るときは連絡して』
それは理人からのメッセージだった。
なんてタイミングだと思いながら、もう帰ると返信する。
ソファから立ち上がり、もう1度清也のベッドの方に顔を向けてから玄関のほうに行こうとした。
そのとき、私の右腕が大きな手に掴まれた。
先程私を撫でてくれたその手に。
「ありがとう」
私は胸がどくんと跳ねたのを感じた。
彼の感謝の言葉が体に染み渡っていく感覚だ。
「ではまた連絡します、お大事に」
私は緊張していつもよりぶっきらぼうに、そして簡潔にそう言って部屋を出た。
頬が熱いまま理人に会った。
帰ろう、とだけ言われたが、理人は私の清也への感情に気が付いているような予感がしてたまらなかった。
家に着いてから、今日の感情を曲として記録しておこうといつも使っているボイスレコーダーをバッグから取り出そうとした。
「ない……」
そのとき思い出した。
清也の部屋で歌っているときにボイスレコーダーを出して、そのまま置いてきてしまったことを。
中にはコンクール用に考えている曲の断片たちが入っている。
今すぐ連絡をしようと思ったが、彼はきっと寝ているだろう。
明日の朝にでも連絡をしようと思った。
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