7.
30枚以上撮ったかというところで、俺たちは並んでベンチに座った。
ふと思い当たって女性に待っててと告げ、俺は立ち上がって自動販売機へと向かった。
自分の分のホットの缶コーヒーのボタンを押す。
下の方でガタンという音が鳴る。
そして悩んだ末にもう1つボタンを押す。
また、無機質な音が聞こえた。
「お待たせしました」
そう言うと女性はカメラをじっと見つめていた視線をこちらに移し微笑む。
俺は手に持っていたものを渡す。
「今日のお礼です、ミルクティーどうですか」
「私が教えてくれって頼んだのにわざわざありがとうございます。好きなんです、ミルクティー」
「それなら良かった」
温かいミルクティーを飲み、ふうっと一息つく彼女は、飲み方すらも上品だった。
それからはお互い、自分の話をした。
そういえば名前さえ知らなかったので、自己紹介から俺たちの話は始まった。
俺が名刺を渡すと、それをよく眺め、
「
と真剣な顔で名前を褒めてくれた。
彼女の澄んだ声で名前を呼ばれ、自分の名前と思えないほど綺麗なささやきに聞こえた。
「実は障害のある子供たちが通う高校なんです。父が足が不自由で、そのせいで高校に通うのを諦めて後悔しているのを見て、私はそういう人たちを助けられる先生になろうって思って」
「立派ですね、ただのサラリーマンの俺とは大違いだ」
「いえそんなことないですよ。清也さんも普段のお仕事と写真家の両立、すごいと思います」
瑞希さんは褒め上手で、俺も彼女を心から素晴らしいと感じているのに、彼女と比べるとありきたりな言葉でしかその気持ちを伝えられない。
もどかしかった。
えへへ、いやあそんな……と俺が照れ続けているうちに話題はころころと変わっていった。
「そういえば清也さんはいつから写真撮られてるんですか?」
そう言われ、祖父のことや中学時代のこと、そしてまた写真を撮るきっかけとなった祖父の死について順を追って話した。
初めの方は「おじいさますごいですね」など一言ずつ言葉を挟んでいたが、決して明るくはない話になると静かに相槌を打ちながらただ俺の話を聞いていてくれて、俺はそのときの感情も思い出しつつゆったりと話せた。
ざざあ、と風が木を揺らす音がやけに心に響く。
この女性は聞き上手でもあるのだなあと話し終えてから気が付いた。
「だから、清也さんは写真を撮るときどこか懐かしそうで淋しそうな顔をしているんですね」
そんなことを言われたのは初めてだった。
「きっと写真を撮るたびにおじいさまを思い出されているのでしょうね、無意識かもしれませんけど」
そう言って彼女はこちらを見て優しく微笑み、風になびく髪を細い指で捉えて耳にかけた。
「そうかもしれません」
俺はそれだけ言って前に向き直り、久しぶりに祖父のしわしわの笑顔を思い出した。
いつか一緒に良い写真が撮れそうな場所に出かけませんか。
瑞希さんはそう誘ってくれた。
俺はすっかりこのまま帰ろうとしていたので、彼女がそう言ってくれて助かった。
そして俺たちは連絡先を交換して別れた。
また彼女に会えることが嬉しくて、なんだか心が温かかった。
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