第27話-むじな-

 有名な怪談に、ムジナってのがある。

 よく分からないけど、アナグマやタヌキのことらしい。


 それが化けて人を驚かせるってやつなんだけど、どうやら現代にも出て来るみたいなんだよ。


 ある男の話だ。

 その男は通勤にバイクを使っていて、その日も夜遅くに職場からバイクで帰っていた。

 街灯が無いせいで暗くて、狭い道に差し掛かったその時。


 普段は人通りが全くない道なんだけど、その日は違った。

 道の横からフラフラと出てきたやつがいる。

 慌てて避けようとしたが間に合わない。

 そのままパーン!と、はねちまった……


 急いで相手の無事を確認したんだが、どうやらピクリとも動かない。

 いくら声を掛けても反応が無いんだよ。

 とりあえず様子を確認しようと思って、携帯のライトで顔を確認したら……。


 無いんだよ、顔が。

 いや、顔はあるんだ。

 でもその中にあるはずの目や鼻や口が無い。

 のっぺらぼうみたいにツルツルなんだ。


 もう何が何だかわからなくて、バイクも置いて叫びながらその場を離れた。

 人通りの無い道を、わめきながら五分ほど走った頃。

 ふと冷静になった。


 そうだ、さっきはパニックになってて何かを勘違いしただけかもしれない。

 すぐにでも救急車を呼ばないといけない。


 もしも相手がこのまま死んでしまったら、と思うとゾッとする。

 それに、バイクをあのまま置いておくわけにはいかない。


 とりあえず来た道を戻りながら、119番にかけることにした。

 場所や状況を手早く説明したところで、電話の相手がこんなことを言い出した。


『ところで、相手の方の顔色はどうですか』

「顔……顔は……」

「もしかして、こんな顔ではなかったですか?」


 電話の向こうにいたはずの相手の声が、後ろから聞こえてきた。

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