#失敗世界のやり直し (穂波じんの場合)
穂波じん
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「へえ、無料で配布するなんて。これはまた思い切ったことをしたものだなぁ」
とあるゲーム系情報サイトを見ていた俺は、とある記事に目が吸い寄せられた。
それは、ある筋では実に有名なタイトルの記事。このゲームは文明の隆盛を競い合うターン性
「まあ、夜を溶かすにはもってこいのゲームだし、ステイホームには確かに丁度良いのかもなぁ」
ついでに言えば、最新作の無料配布と言いつつも、そこに拡張パックは着いていない。この無料版によって沼へ沈められた哀れな犠牲者達は、きっとワラを掴む思いで拡張パックへ手を出していくのだろう。合掌。
「ま、折角だしな。前作も面白かったし、ダウンロードしておこうか。
ついでに、友人にも布教しておいて、と」
そんなこんなでちょいちょいと必要な手続きを進めて、早速とそのゲームをダウンロードした。
「んー……十一時、か」
パソコンに表示されている時計を見て、少し唸る。
明日も仕事であるため、あまり夜更かしは出来ない。さりとて、寝るには若干早い。具体的には、あと一時間くらいなら余裕は、ある。
どこからともなく、某投稿サイトにて連載中作品の続きをさっさと書けと言う言葉が幻聴と聞こえはしたものの、
「前作との違いとかも、ちょっと気になるし。まあ、触りだけ遊んでみるか。ヘルプを読むだけでも勉強になるし」
そんな風に考えて、俺は新しくデスクトップへ追加されたばかりのアイコンをダブルクリックした。
それが大いなる過ちだと、知っていたはずなのに。
うん、わかっていたハズなんだ。前作でも散々同じ失敗を繰り返したのだから。
だけど、仕方がない。何故なら俺は人間だからだ。
人間とは歴史を繰り返し、失敗を重ねる生き物。だから、仕方がないのだ。
――――四時間後。
「……あと一ターンだけ…………あと一ターンだけ…………」
陶器を作りだす事から始めた文明も、とうとうマスケット銃に手を出すまでに進歩していた。一方で新たな都市を築ける空き地も少なくなっている。侍は怖いが、そろそろ一戦交えることも考えに入れなければ…………って!?
「いや、だから明日仕事なんだって! いい加減に寝ろよ、俺!」
セルフツッコミと共に、パソコンから体を引き剥がす。
よし、おれは しょうきに もどった!
「いや、しかし相変わらず恐ろしい。数年ぶりにプレイしたけど、時間の溶かし具合が相変わらず半端ないな」
座椅子から立ち上がり、ふうと冷や汗を拭う。とりあえず、歯磨きして、シャワーを浴びて寝なければ。ああ、開戦前に攻城系ユニットを生産する必要があるな。いや、弓系で代用するか?
なんて考えながら洗面所へ向かおうとして、
「って、ん? んんん…………?」
ようやく気付く。身の回りに起きている異変に。
この状況をどのように表現すればよいだろうか。しがない趣味作家の一人に過ぎない俺の筆力には余るのだが、端的に言うならば、辺り一面が淡い虹色の霧に覆われていた。上も下も含めて。
白を基調としながら、陽炎のようなパステルカラーが現われて、赤から緑へ、青から黄色へと移ろいながら消えていく。そんな不思議空間。
「いつの間にか俺の部屋にも戦場の霧が? 斥候を放たなきゃ」
すっかりと正気に戻った俺は、現状を冷静に分析して打つべき手を考える。いや、というか、本当になんだこれ。夢か?
まだ寝てないのに夢をみるとは何とも器用なものだが…………うん、自覚したら猛烈に眠くなってきた。もう、いろいろいいや。ねよう。
「ええと…………ふとんは…………」
ふらふら、ふらふら、ときおくをたよりに、あるいて、
「ふきゃあっ!?」
なにかにけつまづいた。あれ、ふとん、だしっぱだったっけ? まあ、いいや。ここに、まくらがあるのだから。
「え? え? あの? ちょっと!? もしもし!? ええっ!?」
「おや…………すみ…………」
そのまま、枕を抱きかかえてるようにして、俺は意識を手放した。
何か、妙な声が聞こえた気がしたけど、睡魔に支配されていたせいで、気にも留めなかった。
――――更に再び四時間後。
「本当に、すみませんでした」
俺は土下座していた。
「あ、いえ、大丈夫ですから。そんなに気にしてませんから」
土下座の相手は、ロリっ気溢れる一人の幼女。顔を地面に擦りつけているために見える訳ではないが、手をワタワタと振り回して慌てている雰囲気だけは伝わってくる。
「いえ、いくら意識が朦朧としていたとはいえ、まさか抱き枕代わりにしてしまうなんて。
あの、通報だけは勘弁して下さい。なんでもしますから」
「通報なんてしませんから。というか警察なんて、ここにはいませんから。だから、まずは顔を上げて下さい。ね?
それに、わたしも煮詰まってしまっていましたから。だから、良い気分転換になったというか、なんというか」
「本当に、すみませんでした」
改めて謝ってから、お言葉に甘えて顔を上げさせて頂く。なお、正座は崩さない。
顔を上げて、改めて目の前にいる
人間の年齢で言うならば九歳くらいの女の子だろうか。薄く華奢な体付きに、整っていながらも愛嬌も混ざった顔立ち。淡い緑色のシンプルなワンピースから覗く白い肌は子供らしいきめ細やかさで、赤い右目に青の左目。
金糸のようなサラリとした長い髪は、座り込んでいることもあって床に大きく広がっている。そんな彼女の頭には、ちょこんと黒い猫耳カチューシャが乗せられている。
なんというか、これでもかと属性をてんこ盛りしたような少女の姿なのだが、それらが霞むくらいに目を引くものがある、
それは、背中から生えている巨大な十二対の輝く翼。
広げれば、一翼だけで彼女の身長の二人分くらいはあるだろうか。
「あの、とりあえず、わたしの事は理解していただけたでしょうか」
こてん、と可愛らしく顔を傾げる少女に、
「ええ、流石に。飲み込まざるを得ないです、かみさま」
先程説明を受けた内容を反芻しながら頷く。
「それは良かったです!」
と、にっこり笑って少女は、かみさまは
そう、この少女は、実は神様なのだという。それも、世界を創造出来るほどの力を持った。
何を馬鹿なと言われそうなことだが、あんな後光に満ちあふれた翼を自由に出したり消したりされてしまっては、信じるより他はない。
「ふう。あの翼、出してると重いんですよね」
「あの、かみさま」
「はい、なんでしょうか?」
「さっきの説明の時に聞きそびれていたんですけど、そもそもここって何処なんですか?
もしかして俺、何かで死んじゃいました?」
きょろりと周囲を見渡せば、寝こける前に見た風景そのまま。淡い虹色の謎空間である。どうやら夢ではなかったらしい。
だが、この状況。いつの間にか迷い込んだ謎空間と女神様のセットと聞けば、WEB小説を読むことのある者ならば一つの可能性を想像してしまうのではないだろうか。
「そういえば自己紹介ばかりで、状況についてはお話ししていませんでしたね。
ここは、時空間の狭間。わたし達神々の間では世界のゆりかごと呼ばれている場所です」
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