なにも、ないんだ
どうしたことだろう
あなたは言う、困った顔で。
花火もお祭りも何もない
全部中止だね、
わたしが答える。
それすら、川のほとりで離れて
話す。
あれから、
あなたの車にものっていない。
鴨川のベンチにも
並んで座らない。
あなたは離れた場所で
わたしを見ている。
手すら、触れない。
触らない。
今は便利な時代だ。
そうそう、スマホやパソコンで顔を見られるね。
薄い画像の向こうに
顔がある。
お、いつでも会えるよ。
便利な言葉……
やっと会えたね。いつの間に。
わたしの
隣に座っている。
髪をくしゃくしゃにされた。
いいの?
だめじゃないのかな。
いいや、お前さんと一緒の時くらい
こうしているさ。
内緒だよ。
いいの? いいさ。
乗るか、隣に。
もう誰のせいでも、ない。
今更なによ。
ずっと我慢していたなんて
ずるい。
笑い皺が目じりに浮かぶ
わたしは
思わず手を伸ばしなぞってみた
ないんだって。何がよ。
初めから何も
ないじゃない。
確かなことなど、どこにも
ないわ。
そのまま風を切り裂いて
車は進む
あてのない
ドライブの始まり。
重ねた手は離さない。
これが本当の最期になる
あなたとわたしのさいごの瞬間
片目を閉じて心のシャッターを切る
忘れないように。
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