第11話

さて、状況を整理しよう。こんな世の中になったとはいえ、俺は不法侵入者である。

さらに言うと家の塀を崩し壁を斬り扉も5つ程外したし、家中我が物顔で歩き回っては女の人の部屋で下着をしげしげと眺めた上に布団で寝て、ラノベが好きな人の部屋ではベットの下からエロ本を引っ張り出して居間の机に配置した上、五輪書の人の部屋に貼られた『継続は力なり』と書かれた和紙に落書きして『継続はかなりメンドイ』にし、挙句の果てにトイレに外側から鍵をかける始末。


刀も……あっやべ、布団クンカクンカ、じゃなくて疲労を回復するのに夢中で部屋に置いてきたぞ。


(完全に攻撃されても文句言えないな……)


他人の家ではっちゃけ過ぎた。

防御も反撃もするけど、大義は向こうにありだ。


それはいいとして。


目の前の3人……同年代くらいの美女2人に少年1人。


「「「「コスプレ……?」」」」


道着姿だったり防具をつけていたりするんだが。


「「「「いや、そっちが!」」」」


言ってから気づく。まず、今の俺はコスプレイヤーでなければ厨二病だ。軍服を着ている。

それから、本物の武器が沢山あったところを見ると、道着や防具があるのも納得だ。


(……ただ、さすがに具足はないだろ……)


1人は大河ドラマで見るような日本鎧をつけていた。見たところ年齢は俺と同じか少し下……やっぱり厨二病かな?


「で?攻撃してきたということは……敵か?」


ぶんぶんと首を振って3人が答える。


「モンスターが降りてきたと思って攻撃してしまいました。申し訳ない」


「こちらから敵対する気は無いです」


「ならばこちらにも敵対する理由はない。ここで会ったのは偶然だが、生き残りは助けてやろうと思っていた。当然……対価はいただくがな」


手を離すと、恐る恐る武器を引っ込められる。


信用していいか分からないけど多分戦っても勝てないだろうな……とでも思っているんだろう。


「生き残りは君達3人だけか?」


「いえ、奥にあと8人居ます」


「11人か」


家をそのままダンジョンにするとして、俺の家から斜めに700m程離れているからダンジョン拡張で100万は見ておいた方が良いだろう。

それから、風呂、トイレ、冷蔵庫、水道、ガス、電気等の各設備を迷宮仕様にするリフォームに……元からあるやつのアップデートなら1000万はいかないだろう。500くらいか?

家の修理費は、破壊の度合いによるが見てきた感じせいぜい100万、200万程度。

で、月々の食費、水道代、ガス代、電気代、医療費等で100万、彼等がちゃんとDPを入れてくれるまでに2ヶ月とすると……うーん。


人を受け入れるのって結構かかるんだな。

10人程度なら大丈夫だが、今後更に増えるとすると……



「やっぱり仕事が必要だな……」


それも、出来れば配下のモンスターでは出来ないようなものが望ましい。

さすがにDP払って人を雇って、無料で働く眷属でもできる仕事をさせるというのは……それではただの慈善事業だ。



(でも、大抵の事は自分か眷属で出来るんだよな……)


人手は無限にある。スケルトンを大量に召喚すれば、農民も楽士も薬師も狩人も詩人も確保できる。

知能の高い高位のモンスターを大量に召喚できるようになれば、教師役以外の人間は要らなくなる。その教師役だって、最初の生徒を卒業させれば用済みだ。


「とりあえず、残りの8人にも会わせてくれるか?」


「は、はい。こっちです……」


いいのかよ連れてって、しょうがないでしょ戦っても勝ち目ないし……聴力も強化されているから内緒話が筒抜けだ。


案内された扉の向こうは、意外にも普通の家だった。地下は物置だと勝手に思っていたのだが。


「へぇー、上と違って洋風なんだね」


思わずそう漏らすと、3人がピク、と反応した。

自分の家を漁られていい気はしないだろうから、やはりちゃんと謝っておこう。


「あー、死んだか逃げたかでもう居ないもんだと思ってあがって寛いでいた……すまなかった」


「あ、いえ、大丈夫です?」


1連の行動を振り返った結果、塀や壁の破壊はモンスターのせいにして、布団で寝たのと下着を眺めたのはバレようがないので落書きとエロ本移動だけ謝ることにした。


「そうか?勝手に落書きとかしたんだが」


「何にですか?」


「部屋に貼ってた和紙。継続は……」


「「「力なり」」」


「そう、それ」


「あれはおじいちゃんが毎朝書いてるやつなので大丈夫ですよ」


すごいな爺さん。道理で上手いわけだ。素人だからよく分からないけど、崩した感じがなんかよかった。


「あと部屋にあったえろ雑誌とラノベのエロいカバーを居間の目につくところに置いてきてしまった」


「全然問題なくなかった!?」


「大丈夫、思春期男子なんてそんなもんよ」


「だとしてもですよ!」


「そうだな、確かに今どき紙媒体に頼るとは……って感じはしたけど」


「そうじゃない!」


自己紹介もしていないが、男子高のノリで少し距離が縮められたようで。

3人とも、露骨な警戒は解いてくれた。

完全に信用されたわけじゃないだろうけど、こっちの方が話しやすいからありがたい。


「皆、大丈夫だっ…………その子は?」


おじさん、おばさん、おじいさん、おばあさんがそれぞれ2人ずつ。

扉を開けた俺たちを見て、首を傾げた。


「えっと、モンスターじゃなくてこの人だったみたいなの」


「……つまり、その子はあの庭を通ってここまで来た、という事じゃな?」


3人とも何故か聞いてこなかったからその質問はちょうどいい。


「上にいたモンスターは全部殺した。再発生していなければ上はもう安全だ」


「何!?本当か?」


目を見開いて立ち上がるおじさんを制して、おじいさんが「まずは自己紹介でもしようかの」、と口を開いた。


「儂は御影泰介、職業はソードマスターじゃ」


「泰介の妻、美禰子です。職業は料理長、よろしくね」


「泰介と美禰子の息子で慎吾です。職業は剣豪」


「慎吾の妻、小夜です。錬金術士です」


「剣士、御影晶」


最上位騎士ハイエスト・ナイト、御影遥香……薙刀は結構自信あったんだけどね」


「槍聖、牧野正三じゃ」


「その妻で上忍、牧野綾子よ」


「暗殺者、牧野太郎です。よろしく」


「太郎の妻、花子です。職業は狙撃手、よろしくね」


「牧野凜子、上位槍士グレーターランサー



……おーっと?

なんでそんなに強そうなんですかねぇ……

料理長と錬金術士を除いて9人、いかにも昔から鍛えてましたけど何か?みたいな人が9人……


しかも大体が上級職っていうね。


(棍棒外交の予定が……いや、今のステータスがあればいけるか?)


「”魔王”黒木秋斗。侵略に来ました」


オブラートに包むことなく言い切った秋斗は、次から軍連れてこよう、と決意したのだった。


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