082.おつかれには甘いもの
身柄を抑えられたスーロード伯爵の命令により、首輪のない伝書蛇は動きを止めた。首輪取れたやつはどこへなりと消えていったから、調査が必要になるだろうな。
で、大型伝書蛇が降参したところでアリッサは身を翻した。「もう、終わりましたから」ということだったけど、確かにそうだよなあ。他には人、いないみたいだし。人望なかったんだな、スーロードってさ。
「おかえりなさいませ。ナルハ様、アリッサ様」
屋根を伝って寮まで戻ってくると、部屋の窓が開いていてそこからヴァレッタが手招きしてた。アリッサは迷わず、そこに飛び込む……ってここ、ヴァレッタの部屋だ。助かった……のかな?
「た、ただいま戻りました……」
「良いものを拝見できました。ヴァレッタ様には、お力添えをいただきありがとうございます」
床におろしてもらって、頭を下げる。アリッサはひょうひょうとした顔で、しれっと御礼の言葉を述べていた。それに対してヴァレッタは「あら、何のことかしら」とすっとぼけて笑顔。そうだよな、見なかったことにしてるんだもんな。
と、コーレリアがワゴンを押してきた、お茶セットに……おう、チョコのプチケーキが乗ってる。どっちも四人分。
「お茶が入りました。ナルハ様、アリッサ様もどうぞ」
「あ、わたしたちもよろしいのですか?」
「お二方は、わたくしとお茶を飲んでいるということになっておりますの。どうぞ、いただいてくださいな」
「ありがとうございます、ヴァレッタ様、コーレリア様。アリッサ、いただきましょう」
「はい。ありがたく、いただきます」
なるほど、アリバイか。……ランディアたちや、他の皆も知ってると思うんだけど大丈夫かな?
「ああ、他の方々にもそういうことで話を合わせていただいております。バレたら、そのときはそのときですわね」
いやヴァレッタ、平然と笑うなよ。ちゃんと罰は受けるつもりだからさ、俺。
でまあ、お茶をいただくことになったんだけど要は軽い事情聴取だよね。つまり、ヴァレッタもあの話……というか、どちらかと言えばスーロード伯爵の顛末が気になったらしい。
「それで、首謀者はどうなりましたの? お戻りになったのですから、決着はついたのですよね?」
「はい。スーロード卿は、無事確保されたようですわ。少々奇妙なお道具を使っておられたので、これから尋問されることかと」
「奇妙?」
「伝書蛇を、首輪を使って操っておられたようです。メイコール様とダニエル様、わたくしの兄が外しましたので該当の伝書蛇は逃げ出しましたが」
「えげつないですね……」
だもんで、俺とアリッサでざっと説明。えげつない、はコーレリアの素直な感想だ。まあ眉間にシワ寄せまくって顔歪めてるもんな、よっぽどそういうのが嫌みたいだ。
ヴァレッタの方は平然として、お茶を一口。ふうとため息をついてから、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「昔はそう言った道具を利用して戦をなさっておられた勢力もあるそうですが、少なくとも我が国ではそれは禁止されているはずです。道具の流通も、作成もいけないこととなっていると伺ったことがありますわ」
「なるほど」
顔は平然としてるのに、ヴァレッタの声はいつもより少し低くてゆっくりとした感じで、つまり彼女も怒っているのがわかった。
この国の、特に上の方の身分を持つ者にとってはきっと、そこまで嫌がるようなものってことだ。俺は伯爵家の娘で、倫理観は前世に引きずられている部分があると思うんだけど……でも、少なくとも嫌なものだってことは一緒だけどな。そこまで怒るってことはまあ、ないけど。
「つまり、どこから調達されたのか、もしくはどなたが作成されたのか。それをお教えいただくまでは、スーロード伯爵は生きも死にもできないということですか」
「お話を伺うのに得意そうな方、王城にはおられるはずですからね。どこまで頑張ってくださることやら」
アリッサとコーレリア、言葉選んで話してるけどつまり、拷問してしゃべらせるぞ覚悟しとけってことじゃないのかそれ。
ああもう、深く考えるのやめだやめ。このプチケーキ、甘さ控えめで美味しいんだよなあと現実逃避することにする。
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