080.怪獣大決戦
「この辺りであれば、直接攻撃を受ける可能性は低いかと」
俺を姫抱っこしたまま王都の建物の屋根を駆け抜けてアリッサが立ち止まったのは、王都の西の外れ……街を囲む城壁の上だった。まあ、そんなに高くないんだけど……五階建てくらいかな、この高さだと。
本来ならこの辺りにも衛兵とか近衛隊とかがいるんだろうけれど、どうやら避難対応に動員されてるみたいでほとんど無人状態である。人目に触れたら怒られるだろうから、アリッサがここを選んだんだろうな。
それはそれとして、だ。
「すごいですわね」
「あれだけ動員できるんですね、スーロードは」
壁の向こうでは、怪獣大決戦中だった。
ぱっと見て十メートルくらいかな、そのくらいある伝書蛇……だから背中に翼の生えた蛇が五匹くらいいる。そのうち一匹の頭の上には、ドレス着たおばさんが仁王立ちしてるな。……もしかしてあれ、スーロード伯爵か。本人来てるのかなんでやねん。
おばさんはともかく、伝書蛇たちは口からビームを吐いていた。狙いは壁ではなく、自分たちの目の前の地面。どうやらそこに、兵士たちがいるらしい。
で、ある程度跳ね返してるんだよな、ビーム。まあ、攻撃魔術があるなら当然防御もあるわけなんで、それで防いでるんだと思う。
てか、伝書蛇てビーム、吐けるんだ。今更だけど。
「……ビーム」
「伝書蛇は、主の指示と魔力を受けて魔術攻撃を放つことができます。普通に使われているものでもそれなりに攻撃力はありますが、あのレベルになりますと……」
「え」
いやいやいやアリッサ、ちょっと待て。普通にって、手のひらとか肩乗りとかの可愛いサイズのあれもか?
「普通の伝書蛇でもあれ、できるんですの?」
「伝書蛇の務めは、託された手紙を届け先へ確実に届けることですからね。身を守るためにも必要なんですよ」
「な、なるほど」
そう言えばそうか。普通に働いてる伝書蛇ってサイズ的に、肉食の鳥とかにとっちゃいい獲物だもんなあ。取って食われたら、運んでる手紙が届かなくなる……あ。
「言われてみれば、手紙が届かないことはほとんどないらしいですしね」
「そういうことですわ。重要なものであれば、複数を別ルートで送りますけれど」
なるほどなあ、と感心しつつ視線を怪獣大決戦会場に戻す。
おー、兵士側からもビームが出て一匹の喉元にガツンとぶつかったぞ。……ロボットアニメのビームみたいに熱線とかじゃなくて、光った棒でどついてるって感じがするんだけど、気のせいかな?
「おっと」
「わあ」
不意に、アリッサがジャンプした。ふわりと浮かんだ次の瞬間、さっきまで俺たちがいた辺りに何やらの破片が飛んでくる。あー、もしかして大決戦の余波ってやつか。
「攻撃の余波は来ましたね……申し訳ありません」
「アリッサが悪いわけではありませんわ。これは全てあの」
離れたところに着地しつつ、アリッサが俺に向かって謝る。いやいや、これはお前が悪いんじゃないって。
一番悪いのはあの、伝書蛇の頭の上にふんぞり返っているおばさんのせいなんだから。
「スーロード卿が悪いんですもの」
「それは当然のことですが……ナルハ様になにかありましたら、わたくしは自分の首を掻っ切らねばなりません」
「わあごめんなさい、今後はこんなところに見に来たいなどと言わないようにしますわ!」
いやいやいやいやいやいや。
さすがにアリッサに自決されてはかなわねえ、つーか俺が無茶言わなきゃよかったんだよな。うーわーほんとごめんなさい。
今後は本当に、こんなわがまま言わないようにしますー!
「まあ、此度は既に来ておりますからね……ナルハ様」
うう、苦笑された。ほんとごめん、もうわがまま言わないから許してくれ……ところでアリッサ、声色が変わった気がするんだけど、何かあった?
「メイコール様とダニエル様、それに兄が前に出てまいりました」
「え」
二人の名前をあっさり出されて、つい首を伸ばした。ゲイルはごめん、アリッサだから名前で呼ばないんだよな。
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