070.冬の準備

 季節は、しれっと巡る。

 俺たちのいる国は、四季というよりは乾季と雨季に別れてるほうが近い感じだ。ちょっと離れたところに砂漠の国とかもあるので、そっちに比べればマシというかね。

 で、雨季に入ってしばらくすると、年越しの週が近づいてくる。年末年始の七日間のことで……ま、要は年越しにかこつけてお祭り騒ぎみたいなことになるんだよな。

 雨が多い季節なので、年越しの週は授業はお休みなんだけど本家に帰る人はほとんどいない。うちみたいに別邸がある人はそっちで家族と過ごしたりするんだけど、グラントールの両親は色々忙しいようで会えるのは年明けになるよごめんね、と手紙が来てる。

 ……また、馬車が事故を起こしたりしたらどうしよう、なんて心配してるんだよね。そこら辺の心情も、手紙にガッツリ書いてある。ごめんな父上、母上、おかげで中身がこんなんなっちゃいました……ああでもダニエルラブは変わらないけどな! すっごく複雑だよ自分!


「毎年、これが楽しみでしてね」

「わたくしもですわ。ナルハ様」

「うふふ、わたくしもです。ナルハ様もランディア様も、それぞれお家でもやっていらしたのではなくて?」


 さて。

 年越しの週ってのは、盆とクリスマスと年末年始にハロウィンまで混ざってる、というのが前世の記憶に基づく俺の認識だ。ま、要はご先祖様をお祀りする習慣があるわけだが。

 ……マジで帰ってくるらしいぞ、ご先祖様。グラントール家だと、最後に姿を見せたのがナルハが生まれた年の年末年始だったそうなので、俺は見たことないんだけどな。

 で、ハロウィンが混じってるってのはお菓子を配る習慣があるからなんだが。トリックオアトリート、というわけではなくてクリスマスのプチギフトみたいな? ……別世界同士の習慣をすり合わせるのもどうかと思った。何しろお互いの世界同士は知らないわけだしな、俺や兄上みたいな例でもなければ。


「実家ではメイドが作ってくれていたのですけれど、シンプルなシナモンクッキーでした」

「我が家はシンプルなクッキーでしたけれど、ドライフルーツを上に乗せていましたわね」

「わたしのところは兄がああですから、毎年リクエストを聞いてくれてまして。去年はチョコクッキーでしたわ」


 で、学園から街の人たちに配るお菓子を包みまくってるわけだ。俺とヴァレッタ、ランディア組で。もちろんアリッサ、コーレリア、ポルカもせっせとクッキーを小袋に入れてリボンで結んで、を繰り返している。

 ……王都のこの一角に配りまくる分、数にして数千はあるかと思われる分量。学園の皆で手分けしてやってるんで、俺たちがやる分にはまあ数百とかだけどさ。いや十分多いよ!

 文句言ってる暇があったら一つでも多く包んでしまえ、という話なんでせっせと手を動かしてるわけなんだけど、これは何だかんだ言って年中行事、各ご家庭でもやってるもんなのでついつい、そういう話で盛り上がる。


「どちらかといえばー、失敗作出てほしいなって思いませんでしたかー?」

「ああ、ありますね。壊れたクッキーは食べても良い、と言われていましたし」

「わたくしはそれで、意図的に二、三個壊したらバレまして。兄にこっぴどく叱られました。物理的に」

「物理的」

「まあ、特訓ともいいますが」


 お付き組は何やら、物騒な話になってる気がする。なお叱られたのはアリッサなので、……ゲイルに特訓つけられたわけかよ! 何か敷地の一部がえぐれてそうな気がするのは気のせいかな!


「わたしはー、そこまでせこいことはしなかったですけどー」

「我が家は、自分たちで食べる分は別に置いといてくれましたねえ」


 ポルカは相変わらずマイペースで、コーレリアの家はしっかりしてたんだなと分かるよな。

 ともかく、目の前のクッキーの山を片付けないといけない。頑張れ俺の手、時間は有限だ。

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