066.おつかいただいまー

「アリッサ様!」


 そろそろアリッサたちが戻ってくるかなー、というくらいの時刻になって、何でかヴァレッタが息せき切ってやってきた。コーレリアが「失礼します!」と飛び込んできたのに続いてやってきたヴァレッタは、俺を見て目を丸くした。


「……あ、あら、ナルハ様?」

「はい、わたしですよ」

「ヴァレッタ様? いかがなさいました?」


 お茶飲んで何とか落ち着いたランディアが、ぽかんとした顔で尋ねる。まあ、俺も何しに来たんだって聞きたい。それも、アリッサの名前を呼んでさ。


「ランディア様も、こちらにおられましたか。ちょうどよかったです」

「その……ナルハ様とポルカ嬢が、『お土産』を引きずってお戻りになられたのでお知らせを、と思いまして……え、でも」


 落ち着いてるコーレリアとは対照的にあわあわした感じのヴァレッタが、おかしなことを言う……ああいや、そういうことなら理解した。


「お土産、ですの?」

「すぐ参ります」


 言葉の意味がわかっていないランディアを急かして、俺は表に出ることにした。あーもー、何やってんだアリッサめ。




「ナルハ様! ただいま戻りました!」

「戻りましたー」


 寮の玄関には、しばき倒されて顔がぼっこぼこの男二人を引きずった、俺っぽい女の子とポルカが並んで立っていた。ああうん、そりゃヴァレッタ間違えるよなあ。


「おかえりなさい、アリッサ。ウィッグ取りなさい、ヴァレッタ様が勘違いされたじゃないですか」

「あー、これは申し訳ありません」

「えええ?」


 俺っぽい方、まあつまりアリッサなんだけど。ウィッグを取って眼鏡を掛けると、ヴァレッタとコーレリアはえーと驚いた顔をして、それから納得した。


「アリッサ様とナルハ様、似ておられるのですね」

「ええ。わたしとアリッサは親戚でもありますし、同い年ですから。髪の色が違いますし、普段はアリッサが眼鏡を掛けているので気づかれませんけどね」


 そういうこと。アリッサのやつ、おつかいで寮を出るときに俺に化けて出たらしい。ポルカが呆れ顔してるから、目の前で化けられたんだろうな。で、そのまま外に出て、結果がフルボッコにされた不審者二名。


「ですので、ナルハ様のお姿を借りてちょっと引っ掛けてみたんです。まあ、怪しいやつが出てくる出てくる」

「まさか釣れるとは思いませんでしたよう」


 シャナキュラスカロンドスーロード、怪しい使用人どもを釣ろうとしたらあっさり引っかかってくれたわけか。でも、出てくる出てくるって二人だけじゃないってことかな?


「わたしが顔を知らなかったので、スーロードかカロンド関係ですかねー。五人とっ捕まえて近衛隊に引き渡してきたところなんですがー」

「すぐそこで二人出てこられたので、面倒ですから蹴り倒して持ってきました」

「通報する間もありませんでしたー」

「……そうですか……」

「ポルカ、巻き込まれなくてよかったですわ……」


 うんランディア、お前さんはそこだけ心配してればいいよ。つーかアリッサ、いくら何でも無茶だってば。

 「既に通報はしてございますので、ご安心を」というヴァレッタに頭を下げて礼をして、それから俺はアリッサに向き直った。


「……アリッサ」

「はい」

「あなたがお強いのはよーく分かっております。ですが、ポルカ様を巻き込むかもしれない事態には今後なさらないように。ね?」

「う……も、もうしわけございません」


 まださ、俺ならいいんだよ。親戚だし。ポルカは一応別口なんだから、それを巻き込んだらランディアにも迷惑がかかるじゃねえか。ほんと、ちゃんと撃退できたからいいけどさ。


「謝るのは、わたしにではなく」

「はい! ポルカ様、もうしわけございませんでした!」

「いいですよう。面白いもの見せていただきましたしー」


 それからポルカ、どこまでも脳天気というかすっとぼけた態度はマジなのかポーズなのか、どっちだ。いやもう、本当に何もなくてよかったよ。

 ヴァレッタ、コーレリア、ほんと変な方向に面倒な状況に巻き込んでごめん。

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