052.体裁が悪い

 数日ほど、学園と近衛隊と王城の間を手紙が行ったり来たり、使者が行ったり来たり、さらにガレルとかが走り回ったりした。その結果、ランディアはお咎めなしとなった。ま、当然だな。


「よかったですわね、ランディア様」

「はい」


 とはいえ、本人は肩を落としてる。まあ、自分は平気でも家、というか母親が無事では済まなかったからなあ。

 シャナキュラス伯爵夫人は領地の端っこの小さな別荘に軟禁され、死ぬまでその周辺から動けないということになったんだってさ。


「……母はもう、自業自得ですから致し方ありませんね」

「よく別れませんよねえ、シャナキュラス伯爵」

「体裁が悪いですもの」


 おいポルカ、こういうときまで空気読まずにずばりと言うなよ。俺も思ったけど。あとここ、教室だからな。朝早くて他の生徒たち、あんまり来てないけど。

 しかし、空気読まないポルカのセリフに対する答えが周囲の目を気にして、ってことだよな。貴族めんどくさいな、自分もそうだけどさ。


「言い方はあれですが、辺境に追いやって飼い殺しにするのが父にできる最大限でしょうね」

「シャナキュラスの家で監視していただけるなら、それはそれでグラントールとしては安心できるのですが」

「きちんと見てくださっていれば、それでいいんですけれどねえ。ナルハ様に危害を加えようとしたお方ですので、あまり気は進まないのですが」


 だからアリッサ、お前までそういうこと言うかー。ほら、ランディアがもっとべっこり凹んでしまったじゃねえかあ。


「……本当に申し訳ありません……」

「ランディア様は悪くありませんわ。子は親を選べませんから」

「そうですわね……」


 一応慰めてはみたものの、これ慰めたことになってんのかね? でも、実際そうだしさ。

 それにこれは、ランディアだけじゃなくてうちのクラスにいるもうひとりの当事者にとっても同じことだから……って、あ、来たな。


「おはよー……何やってんだ?」

「おはようございます。ランディア様がお咎めなしということになりましたので、少しお話を」

「あ、そうなんだ。良かったなあ、ランディア様!」

「は、はあ」


 こっちはこっちで相変わらずの口調である。もっとも、いきなり貴族っぽい言葉になったらそれは俺たちが驚くんだろうけどさ。

 と、そうだ。大変だったのは、フィーデルもだよな。


「フィーデル様の方も、ご実家大変だったでしょうに」

「大変なのはこれからだよ。親父、とっとと隠居して兄貴に家継がせたいなんてお抜かしあそばされてるから」

「は?」


 その彼から聞いた言葉に一同……この場合は俺たちだけでなく、周囲で聞き耳立ててるクラスメートたちも含めて全員が口をぽかーん、と開けることになった。


「フィーデル様に、ではなく、ですか?」

「今までこの扱いだったのをいきなり後継者、とかできねえんだろ。方針切り替えなんて、体裁が悪いから」


 体裁が悪い。

 シャナキュラスだけでなく、カロンドもその言葉で方針を決める。ま、グラントールもいざとなったらそうなんだろう。貴族ってのは多かれ少なかれ、外側を飾り見栄を張って生きてる種族だ。

 と言ってもフィーデルの場合、立ち位置がアレなんで大変じゃねえかな、って思ったわけなんだけど。


「ま、今の別邸は正式に俺とおふくろのものにしてもらったからいいけどな。学園にも、卒業まではいていいって」

「それはよかったですわね。この三年間で、進む道をお考えになればよろしいってことですもの」

「ま、そういうこと」


 おー。

 カロンドの後継者を馬鹿嫡男に決めたんで、王都の別邸を庶子のフィーデルに譲り渡して後は知らねえ、とかカロンド本家はいいたいのかもしれないな。それはそれで、フィーデルが自分の好きに生きやすくなりそうで良かったよ。

 これはこれで怪我の功名? 何ていうんだっけかな、棚からぼたもち瓢箪から駒、そこらへんか。いずれにせよ、フィーデルにとってはいい方向に進んだってことだ。

 できれば、ランディアにとってもそうなってくれるといいな、と思う。

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