第20話 護衛 その1


「ねぇ、何か今日は市場に人が多くない?」


 日課のスキル上げを終えてエイラートに戻ってきた二人は夕暮れの街をブラブラと

歩いていた。


「冬が近いからだよ。皆買い出しに来ているんだ。この街は冬の間雪で数か月の間は閉ざされてしまう。大雪で外から商人も来れなくなる。だからみんな冬を越す食料や衣服をこの時期に買い揃えておくんだ」


 グレイを見上げて聞いてきたリズに説明をすると、


「そうなんだ。じゃあうちも買い置きしないと」


 エイラートは王都より北にあり、冬場には雪が積もる土地柄だ。雪自体はエイラートの街中にいる分には除雪もされるし大丈夫なのだが、問題は外からエイラートに通じている道が雪や氷で閉ざされて通行できなくなることが多いので、冬場は商人達がエイラートにやってこなくなる事だ。


 したがって秋になるとエイラートの住民は冬を越すために日持ちする食料品の買い置きに街に繰り出すので市場は毎日賑やかになっていく。


 商人も雪が降る前の最後の商売のチャンスなので大量の食材や衣類等を持ち込んできて、秋のエイラートは毎日、市が立つ程の活気をみせる。


 グレイとリズ も市場を廻って日持ちする食料品や衣料を買い込んではアイテムボックスに収納していく。

 

 そうして購入した品物は武器や防具が並んでいる地下室の空いているスペースに整理して並べていった。


「結構買ったね」


 力仕事で汗をかいたリズがタオルで首筋を拭き、そのタオルをグレイに渡す。

 そのタオルで顔を拭いたグレイ、


「あと1、2回買えばこの冬は大丈夫だろう」


「市場以外で用意するものはあるの?」


「そうだな。暖炉の薪を準備しないと」


 翌日は最後の買い出しに行くリズ と別行動で、グレイは森で倒木を切っては集めそれを自宅の庭で薪のサイズに切るとそのまま天日で乾燥させて大量の薪を作っていく。そうしてできた薪は家の庭に積み上げていった。


 そうして早々に冬越しの準備が整った頃、ギルドからグレイとリズ に護衛クエストの依頼が舞い込んで来た。


 ギルドに顔を出すと、ギルマスのリチャードが二人を見つけ、


「エイラートから南のネタニアに向けて今年最後の木材の出荷があるんだが。木工ギルドからの連絡で予想以上に数量が多くて馬車が10台になるって連絡が来た。こっちはいつも通りせいぜい4、5台だと思っていたから護衛する人数が不足しちまってな、新たに10名程集めるくらいならお前さん達2人で十分だろうと思ってさ」


「相変わらず人使いが荒いぜ」


 ギルドの中のマスター室でグレイとリズに説明するリチャード。


「そう言うな。出発は2日後の朝だ、頼んだぞ。報酬もバッチリ用意してるからな」


「リチャードさん、護衛は片道だけでいいの?」


 リズ がギルマスに質問すると、


「ああ。ネタニアでどれくらいの時間がかかるかが読めないから、帰りは向こうの冒険者を雇うらしい。ここからネタニアまで普通なら1週間だが今回は重い木材を積んで移動するから2週間近くは掛かるだろう。野営もあり得るがよろしく頼む」


 それを聞いたリズ はグレイを見て、


「またお店、休業だね」


「まぁ仕方ないさ」



 グレイとリズ は2週間近くになる外出の準備を整えて2日後の朝にギルド近くの城門の前に行くとそこにはすでに木工ギルドの馬車が10台ずらりと並んでいた。


「壮観だな」「だね」


 二人が馬車群を見ているとギルマスが後ろに10名ほどの冒険者を従えて近づいてきた。


「よう。時間通りだな。今回はランクBが中心の護衛団だ。リーダーはグレイとリズでやってくれ彼らには説明して納得してもらっている」


 そう言うとギルマスの背後にいた冒険者達がよろしくお願いしますと頭を下げてくる。


「わかった。この中で狩人ジョブはいるのかい?」


 グレイが聞くと2人が手をあげる。二人とも女性だ。


「よし。狩人二人は1台目の横を歩きながら交代で探索スキルで常に周囲を警戒してくれ。いいか、探索スキルは体力を消耗する。無理せずに交代でやるんだ。スキルを使わない時は御者の隣に座って休ませてもらえ」


 頷く二人。


「前衛系のジョブは?」


 これには男が4人手をあげる


「お前達は2人ずつに別れて3台目の馬車と4台目の馬車の横を歩いてくれ。

左右に分かれて馬車を挟む形で頼む」


「わかりました」


「後は後衛ジョブかな。精霊士は?」


男女一人ずつ、2人が手をあげると

 

「お前達は6台目の馬車の左右を歩いてくれ」


 そうして一人残った僧侶の女性には


「リズ と一緒に馬車の最後尾を歩いてくれるか?」


「わかりました」


「リズ 、後ろの馬車は任せるな」


「ええ。わかったわ。グレイはどうするの?」


「俺はあちこち移動していくつもりだ。決まった場所には立たない」


「遊軍ね」


「そう言うことになる」


 そして各自の役割を決めると集まっている冒険者達に、


「俺たちの仕事は積んである荷物と御者そして馬車と馬を守る事だ。

魔獣が出た場合の戦闘は俺がやるから馬車から離れないでくれ」


 そうして配置が決まるとギルマスに準備ができた事を伝え、大量の木材を積んだ

馬車がゆっくりとエイラートの城門を出て一路南のネタニアに向かって進み出した。

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