二人の少女シリーズ

金魚屋萌萌(紫音 萌)

寝室

登場人物

・私 女。学生。水泳部。AまたはAA。

   日焼けの影響で褐色肌。茶髪。

・幼なじみ 女。学生。帰宅部。C以上。

  (読みながら好きな容姿を入れてください)



「あーれー、どっかいくの?」


 ベッドの端に腰掛け、私服に着替えた私が外に出る支度をしていると、まだ寝ていた幼なじみが声を掛けてきた。声質から寝ぼけているのが伝わってくる。


 昨日、幼なじみは私の部屋に泊まっていた。


「まだ寝てていいよ。プールで自主練するだけだし。昼ぐらいには戻るから好きにしてて」


「えー。もっと寝ようよー。私君がいないと眠れないー」


 そう言いつつ幼なじみは背中に抱きついてくる。


「一晩中抱きついてたのにまだ足りないん?」


 幼なじみは寝るとき何かに抱きつかないと眠れないらしく、自宅には抱き枕がある。しかし私の部屋には抱き枕がなく、代わりに私が抱き枕にされていた。


「たりないー」


 駄々をこねながら私の背中に顔を埋める。寝ぼけてるのもあるが、幼なじみは結構甘えるのが好きだ。外や学校だと恥じらいをもつくせに、私と二人きりになって、スイッチが入るとやたらと甘えてくる。今回の泊まりみたいに。


「はらをもむな、はらを。くすぐったい」


「じゃあむねをもむ」


 幼なじみはそう言って上半身に両手をスライドさせていく。


「どっちもないんだからもみごたえないぞ」


「そうでもなくない?」


「たぶんそれ胸の筋肉。おっぱい的な胸は我にはない」


「そう? ……確かにちょっと固いかも?」


 わたしはそのまましばらくされるがままにしていた。私も幼なじみも無言になる。衣擦れと時計の音が響く。


 プールに行くつもりだったが別に急いではいなかった。二時間泳げればそれでいい。今は梅雨明けだからいつ行っても混まないだろう。あ、そもそも朝ご飯を食べていなかった。しばらくしたら居間にいる母親からご飯ができたと呼びかけられるはずだ。幼なじみが泊まっていることは伝えてあるため少し豪華になっているかもしれない。


壁に掛かっている時計を眺めながらそんなことを考えていた。


「ね、いやがらないの……?」


 幼なじみが無言の時を壊すように問いかけてきた。


「ないものをもまれてもべつに」


「くすぐったくないの?」


「いんや、むしろちょっと気持ち良い」


「えっ……」


 自分が筋肉痛なのを思い出した。昨日部活で腕立てを結構やった結果だ。ちょうど幼なじみの手の動きが筋肉をほぐすマッサージのようで心地よかった。


 ふと部屋の隅にある姿見に目をやると、自分と幼なじみの姿が写っているのが見える。私はぼんやりしていたのもあって無表情だったが、幼なじみの様子は違った。顎を私の左肩に乗せ、照れくさそうに顔を私と反対の方へ背けていた。心なしか少し赤くなっているようだった。両手は相変わらず動かしている。


 最初はなぜそんな表情なのか分からなかったが、少し考えて理由が分かった。胸を揉まれて気持ちいいと答えるなら普通はそっちの反応だと思うだろう。私はそっちのつもりは全くなかった。


「……同性だよ? 私女だよ?」


 その困っている言葉からやはり勘違いしていると確信する。困っているならやめればいいんだろうけど、もみだした手前やめられないっぽかった。その様子が面白く、私はもう少しからかってやろうと思った。


「あ、こっちのほうがもっと気持ちいいかな」


 そう言いつつ私は幼なじみの両手を持ち、胸の上部、鎖骨の少し下にずらす。


「……そうなの?」


 そう言う幼なじみの声は少し震えていて、照れているのが伝わってきた。


「そうそう。あと、優しいのが好きだからゆっくりもんでね」


 私は笑いそうになるのをこらえつつ伝える。上部の方がより筋肉痛で、優しくマッサージしてほしいのは本当だった。


 幼なじみは私のお願い通りにゆっくりと手を動かした。指がちょうど筋肉痛になっている部分をとらえ、程良い刺激になる。


「うまいじゃん」


「そ、そうかな……」


「どっかでやったことあるの?」


「そっ、そんなことない! 君と自分のしかもんだことない!」


「ほんと?」


「ほんとだって! 信じて!」


「そっかー」


 私は声こそいつもの調子を保っていたが、姿見に映った表情はにやつきが止まらなかった。幼なじみは更に照れているようで顔を私の肩甲骨のあたりに埋めてしまい表情はわからなかった。でも、このままからかい続けるのもかわいそうなのでネタばらしをする事にする。


「ありがと、もういいよ。筋肉結構ほぐれたから」


「え、筋肉?」


「そ、筋肉痛。昨日結構腕立てしたから胸が痛くなってたの。マッサージ上手いんだね」


「あ、なあんだそうだったの……」


「筋肉がほぐれて気持ちよかったよ」


「気持ちよいってそういうことね」


「え? それ以外なにかあるの?」私はとぼけた様子でたずねる。


「ちょっとえっちな方かとおもうじゃん……」


「そっか、君はそういうやつなんだな」


「ち、ちがうって! てか筋肉痛の方がレアじゃない?」


「あはは、確かに。ま、途中から勘違いしてんのしってたけど」


「もう!」幼なじみは怒って私の背中をぽかぽかと叩く。


「いたいいたい、ごめんて。抱き枕にされた分のお返しってことで」


「じゃあもう少し抱きつかせろー」


 幼なじみは私に抱きつきながら後ろに倒れる。つられて私も倒れ込む。彼女の上半身に私の上半身が丸ごと乗っかる形になる。


「わ、これ君重くない?」


 背中に幼なじみを感じながら私は聞く。さすがに自分より胸はあるな、とそんな感想を抱いた。


「いやー腹も胸も無いから軽い軽い」


「ならいいけど」


 そう言いつつ、私は足をベッドの端にあげ、負担を減らす。


「はーいい休日だー」


 私の下敷きになりながら幼なじみは呟く。


「まだ始まったばかりだよ。そういやプールから帰ってきたらどする? ショッピングでもいく?」


「いいねーショッピング。君の服選んであげるよ」


「え、自分で選ぶからいいよ」


「だめ。君自分で選ぶとめっちゃ適当なの選ぶじゃん」


「着れればいいじゃん?」


「ほら。たまに私服のセンスひどい時あるんだから。今日は私にまかせて」


「じゃ、そこまで言うならおねがいするよ」


「任せて! とびっきりのかわいい奴えらんであげるね」


「それ私に似合うかなぁ?」


「いけるいける。スタイルいいから何でも似合うよ」


 そんな話をしていると「ご飯よ」とドアの外から母親の声が掛かる。


「お。食べに行こうぜ」そう言いつつ私は起き上がる。


「おこしてー」幼なじみは私に向かって手を伸ばす。


「あいよ」


 手を握って幼なじみをベッドから引っ張り起こす。その時勢い余って幼なじみを引き寄せすぎてしまい、二人で抱き合う格好になってしまった。


「っとごめん」


「じゃ、最後にもうちょっとだけ」


 幼なじみはそう言いつつ私の腰に手を回し、鎖骨の部分に顔を埋める。


「十秒百円になりまーす」私は言う。


「やすい」


「いやたかいって」


「てか、すこし汗くさいね」


「うっさい。誰かが抱き枕にしたせいなんだが? 体温高い誰かがね」


「ごめんて。てか寝苦しくなかった?」


「いやそれはべつに。私はどういう状況でも眠れるし。腹減ってきたし、そろそろいこ」


 私は幼なじみを自分の身体から引きはがし、手をつないでドアに向かった。


「そうだ、私もプールに着いてっていい? どーせ暇だし」


 幼なじみは少し物足りなそうな表情をしながら言う。


「あーいいよ。ついでに泳ぎ教えようか?」


「いいね。そろそろ授業で水泳はじまるし。師匠、お世話になります」


「誰が師匠だ。じゃ、ご飯食べた後家から水着とってきなよ」


「ほーい」


 そして私たちは寝室をでて居間に向かった。

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