そこには誰もいない(実話)
これは、私の親友の、幼稚園に入る前からの付き合いである幼馴染みの子から聞いた実話です。
新婚ほやほやの親友は、自分の実家にわりと近めのアパートに新居を構えました。
アパートは築二年ぐらいでしたが、駅から遠いためか、自分達で調べた平均的な家賃相場の価格より安かったそうです。
内見では夫婦ともに気に入ったので即入居しました。
私の親友は授かり婚でした。
ずっと働いていた会社は、妊娠を機に退職していました。
朝、旦那さんを仕事に送り出して、それからは一人の時間です。
切迫早産の危険もあって、絶対安静にと医師に言われていたので、出産予定日までのんびり家で過ごすことにしていました。
借りたアパートの部屋は、リビングと洋室と寝室があり、彼女はリビングのソファでくつろぐのが好きで、一人の時はだいたいそこで過ごしていたそうです。
ある日、彼女から『誰もいないはずの洋室から声がする』って、私に電話がかかってきました。
明らかに何人かの子供がおしゃべりしているんですって。
ドタバタ走っている音もして、しばらくするとお母さんらしき人の声がして、静かになるそうです。
実は、親友夫婦の隣りは空き部屋で、一階もまだ誰も住んでいなかったんです。
彼女の話では、怖かったけど毎日のように声が聞こえるのが不気味で、声がしてる時にとうとう勇気を出して洋室のドアを開けたそうです。
……開けました、が、誰もいません。
当たり前ですが、旦那さんは仕事で家には彼女しかしないのです。
そして、耳元ではっきりと暗いトーンの女の人の声が「……したな?」と聞こえたそうです。
なにを「したな?」といったのか聞き取れなかったけど、彼女は怖くなって私に電話してきたんです。
それから彼女はなるべく家で一人でいたくないので、実家に帰っていました。
半年も住まずに、親友夫婦はそのアパートから引っ越しました。
彼女の今住んでいる家はまったくそんなことはなく、子供も無事に産まれて家族三人とっても楽しそうです。
「あのアパートはマジやばかったわ〜」
今では笑って話題にしていますが、実は旦那さんも一人で留守番中に声を聞いていたようです。
でもそこに住んでた時は「たぶん気のせいだよ」って彼女を怖がらせないようにしていたそう。
彼女曰く「あれからどうなったかは分からないけれど、新築なのに空きが多かったり、家賃が安すぎるのは気をつけた方が良いよね」と語る言葉は、かなり説得力がありました。
(2020年11月18日記)
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