持って帰ってはいけない

 エッセイに書いたことがあったかな?

 覚えていないから、書いてしまおう。


 夏なので、ちょっと怖いお話。

 ううん、あんまり、そんなり怖くないかも〜……。


 もう数年前に亡くなってしまいましたが、父方の祖母(祖父の二人目の奥さんで私とは血縁関係はありませんでした)は、霊感体質で視える人でした。



 夏休みに高知県に帰省した私達家族は親戚の家族と共に、川に水遊びに行きました。

 高知県ではわりと有名な川の上流です。(川の名前は観光名所なので伏せます)


 山の自然の中で、川遊びやバーベキューをしたり楽しく過ごしていました。

 夏だけどとても涼しくて、川の水は澄んでいて川底の砂利や気持ち良さげに泳ぐ魚達が見えていました。


 その日の川の水は深い所でも小学生の私の胸あたりでしたから、大人は安心していたのか川原でバーベキューをしながらおしゃべりしていました。


 子供達は、川の中に入って遊んでいます。


 そのうち、ぐいっと私はなにかに左足を引っ張られました。

 それが、誰かにいたずらされた訳ではなかったのです。

 だってそばにいた誰も水中に潜っていない、川の水面からみんなの頭が出て顔が見えています。


 またぐいっと次はもっと強く引っ張られて引きずりこまれるように頭の先まで水中に入ると、流石に怖くなって焦りました。

 私の足を引っ張る相手の姿は目を凝らしても見えません。足首を掴まれている感触はあるのに。

 必死で川底を蹴り、左足を何度も振って、両腕で水を掻き分け、川原に逃げました。


 あまりにも怖くて、でも大人に言い出せずにいました。


 その後、弟が溺れたんです。

 親戚の叔父さんが弟を助けて、難を逃れました。


 川底がヌメっていて滑ったんだろうと、大人の誰かが言ってましたが、弟は私より泳げるし、潜ったりして魚を獲ったりもしていました。

 川になにかいる気がして怖ろしくなって、もう川に入ることは止めました。

 弟は溺れた割にはケロッとしてましたけれど。


 帰ったら、父は祖母に叱られていました。朝、私達が出掛ける時に祖母(この時、祖母はちっちゃな食堂をやってました)は、仕出しの田舎寿司を作って病院に配達に行っていたのでいなかったのです。


 両親は、祖母にお盆の時期に海や川に行くなとこっぴどく怒られました。


 で、ここからです。

 祖母が私に言うんです。


「川から何か持って帰って来ちゅう?」

 えぇっ? とびっくりしました。

 だってキュロットスカートのポケットに、川原で拾ったすべすべの長細い石を入れていたんです。


 川原の石のことは誰にも言ってないし、誰にも見せていません。


「海や川で、絶対に石や落ちているその場所にある物を拾って持って帰って来てはいかんよ。今すぐ外に捨ててき」


 いや〜、怖かったですね。

 おばあちゃんが。(笑)

 子供の時は超能力〜? と思っていましたが、どちらかと言えば霊能力ですよね。


 祖母にはこの時何やら視えていたらしいのですが、大人は聞いていたのに、子供達には詳しくは教えてくれませんでした。


 祖母は宝くじで百万円ほど当てたこともあったりと、ちょっとした面白エピソードがいくつかあったようです。


 ちなみに川にいたのは河童じゃないかな〜って、小学生の私は思っていました。

 いくらお盆だからって、お化けや幽霊だとは思いたくなかったのです。



       (2020年8月9日記)


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