泥棒スキルのせいで勇者パーティーを追放されたので、異世界からチート武器を盗んで最強になることにしました
多比良栄一
第一章 ベクトール追放
第1話 泥棒スキルでパーティー追放
■追放------------------------------------------------------
「ベクトール。キサマは今をもって、この『バイアス・パーティー』をやめてもらう」
信じられないけど、ぼくは謁見の間の控室でこう言われた。
一瞬、夢、かとも思ったけど、悪夢にしてはエッジがききすぎだ。
だから、たぶん、そう…… これは現実だ——
「ちょ、ちょ、勇者バイアス。ど、どーいうことです。今から王への謁見ですよね。ぼくらが、騎士に任命されるハレの日ですよ!」
「だーーーからじゃないのさぁ、ベクトールちゃん」
そう言ってきたのは、魔法使いラグランジュだ。
ハレの場だっていうのに、ボディラインを強調した、あいかわらずのド派手な服装。彼女のいでたちは、いつだって生つばものだ。
こんなときでなければ、ガン見してしている。
「この謁見が終わったら、あたしらは王立騎士団の幹部さぁ。ゆくゆくは貴族の身分も保証されてる。ーーってぇのに、ベクトールちゃんのような、クソスキルの人間がいると知れたら、あたしらどうなると思う?」
貴族は『クソ』って言わないよ、ラグランジュ——
「残念だが、そういうこった。ベク。わるく思うなよ」
ちっとも残念そうに思えない口調で、ウィンクしてきたのは、モーセン。腕利きの戦士。
そしてぼくの親友。
「モーセン。きみからもバイアスに言ってくれよ。自慢じゃないけど、きみにぼくは一番貢献してきたと思う」
「だって、ぼくが取り寄せアポーツした食事を、きみがいちばん食べてたし、ほら、いつか、ダンジョンで剣が折れたとき、最高にイケてる鎌形刀剣ファルシオンを、取り寄せアポーツして助けたじゃないか」
「盗んだ……だろ?」
「え?」
「ベク、おめぇ取り寄せアポーツなんて、ごたいそうに名のってっけど、実際にゃあ、どっかにあるモンを、ただ盗んできてるんだよな」
その口調は冷たく、きびしい。
あぁ、わかってたさ。
いま目の前にいるのは、つい一分前まで、親友だったヤツだ——
パーティーのさいごのひとり、長老の魔導士プロトンのほうへ、ぼくは目をやった。
「ベクトール。わしゃはもう300年も生きてきたが、王立軍の騎士に取り立ててもらえる機会なぞ、一度もありゃせんだった。ぬしには悪いと思うが、わしの長年の夢じゃ、かなえさせてくれ」
おいおい、あんた口元がにやついて、笑みこぼれまくりだぞ。
なにが『悪いと思うが』だよ——
「勇者バイアス!。ぼくを追放するというのは、全員の話し合いの結果なんですね」
「いや、ベクトール、話し合いなんてものはない。なぜなら、きみをパーティーに加えるときから、みんなそのつもりだったのだから……」
さ、さいしょ……から?
じ、じゃあ、あの冒険の日々のさなかに、みんなと語り合った夢は……?
「だ、だって、魔王の幹部をたおして名をあげて、いつかみんなで王立軍にはいろうって……」
「
「まぁ、助かったこたぁ、助かったねぇ。下着の着替えがないときとかはとくにね。まぁ、あんまカワイイのなかったけどさぁ」
「ラグランジュ、ひとに下着泥棒させといて、さらに文句ですか!」
「オレは食いモンについては、ずいぶん助けられたな。まぁ、どれもどこのどいつかわからんヤツの食いかけだったから、気持ちわるかったけどな」
「モーセン。飢え死にするかどうかの状況で、そこ、文句言うとこなの?」
「そうじゃぞ。わしゃ、ベクトールを手放すのは残念でならんのだ……」
「プロトン……」
「なにせどんな種族のエロ本だろうと取り寄せてくれるのだからな。とくに獣人族は激レアじゃったから……」
「それだけ? それだけなの? ぼくってあんたのマニアックな趣味のためだけの存在なのかい?」
「ベクトール。このパーティーのリーダーとして、勇者バイアス、一応、礼をいっておくぞ。キサマのおかげで冒険のさなかに、金に困ることはほとんどなかった。どんな街でも食事はとれたし、宿舎にもとまれた。たしか累計だと5000万ボゾンほど手配してもらったな」
「5000万!! ベクトールちゃん、もう泥棒とかいう軽犯罪レベルじゃないわね」
「こりゃ重罪だな、ベク。禁固10年? いや、もっとくらうな」
「使ったのは、あんたらでしょうがぁぁ……」
ぼくは怒りを爆発させた。
バイアスがぼくの腹をいきなり殴りつけた。
息がつまる。
ぼくはその場にひざまづいた。
「ベクトール、静かにしてくれないか。となりは謁見の間だぞ」
「バイアス、だって!……」
今度は顔を思いっきり殴りつけてきた。
ぼくのからだがうしろにはねとぶ。
「静かにしろと言わなかったか? ベクトール」
バイアスはぼくのからだを見おろして、こぶしをぐっと握りしめた。
また殴られる——
ぼくはおもわず手で自分の顔をかばった。
「さっさとでていけ。ベクトール。おまえはこのバイアス・パーティーには不要だ」
バイアスがぼくを見おろしたまま、押し殺した声で言った。
「で、でも…… ここを出ていったら、ぼくにはなにも残らない……です」
「はん。ベク、パシリがえらそうなこと言うじゃねぇか!」
「パ、パシリって…… モーセン」
「モーセン様だよ、ベクトール。あともうすこししたら、オレたちゃ騎士なんだからな」
「あら、モーセン。あたしは盗っ人風情に、名前を呼ばれるのもいやだけどねぇ。たとえ『様』をつけられてもさ」
ラグランジュの口元が残酷にゆがんでいる。
もう声をかけることすら、許さないということなのだろう。
「これからぼく…… どうすれば……」
「そんなことは知らんな。ただ……」
勇者バイアスはぼくの上にかがみこんで、耳元で言った。
「よけいなことをしゃべったら、きさまを殺す。王立騎士団をさしむけてな」
勇者らしからぬ、すごみのきいた声——
「わかっ……たよ。や、約束する…… ぼくは……だまって、でていく……から」
ぼくはそう言いながら立ちあがろうとした。
足がガクガクとふるえて、うまくたてなかった。何年も寝食を共にしたパーティーの仲間に脅されて、ぼくは心底震えあがっていた。
その弱みを、彼らに知られたくなかった——
「でも……」
ぼくはこころのなかに残っている、ありったけの勇気をふりしぼった。
「でも、いつかもっといいパーティーを組んで、ぼくはあんたらがうらやむような活躍をしてみせるよ」
涙があふれでた。
このパーティーほど、すてきなパーティーはない。
この仲間こそ、永遠の友。
そう思っていたのに、こんなひどい仕打ちをうけたことが、悔しくてしかたがなかった。
「おいおい、ベクトールよ。まだ学んでおらんのかな。おぬしがあたらしい連中とパーティーを組んでも、結果はおなじじゃよ……」
魔導士プロトンが指をチッチと横にふりながら言った。
「バカか、ベク。おまえは、どんなクズ・パーティーにはいっても、一生パシリなんだよ。ハズレどころかクソスキルの『泥棒スキル』なんだからな」
「ベクトールちゃん、クソスキルの持主って、ほんとうにクソなのねぇ。あんたが勇者を名乗れる日なんか来やしないのに、まぁーだ、信じてるンだから」
仲間たちになじられて、ぼくの涙はとまらなかった。
そしてなにも言い返せない自分が情けなくて、ことばがでなかった。
勇者バイアスがぼくに顔をちかづけて、ぞっとするような目つきで脅した。
「キサマの取り寄せアポーツは、ただの犯罪だ。しかも、見てきたものを盗んでくるんだからタチがわるい」
「救ったはずの村や町から、盗みを働いていたんだ。死んで詫びてほしいわね。ベクトールちゃん」
こうしてぼくは壁一枚へだてた先に待っていたはずの、栄光を目のまえにして勇者パーティーに追放された……
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