第628話、ツァコモス遺跡
リムが聞いた魂の悲鳴は、暗黒大陸で発生したものだという。場所が分かるというので、速度の出るプラタナム号とサフィロ号で、暗黒大陸に舞い戻った。
行けども広がっているのは、焼け野原。ファイアードラゴンと眷属たちが暴れ回った結果、暗黒大陸はさらに不毛な土地へと変わった。
やがて、真っ黒な木々がひしめく、巨大な大森林に到達した。
「この辺りは、ツァコモスというんだ」
情報畑の人間であるカマルは言った。
大陸の東北方面にある地で、闇の森と呼ばれる大森林地帯である。
ソウヤは唇の端を吊り上げた。
「この辺りには詳しいのかい?」
「魔族のいる大陸だからな。公式にはお前さんが死んだことになっている世で、魔王軍の残党が悪さしないように、調べてまわったからな」
カマルは当然という顔をした。
やがて、プラタナム号は森の奥、遺跡の上空に差し掛かる。
『生命体の反応を検知。遺跡に反応は50ほど』
「魔族かな?」
ソウヤが振り向けば、ジンは腕を組んだ。
「だろうね。我々が探している装置は、この辺りにあるだろうが、そう簡単にはいかなそうだな」
「あの……」
レーラが口を開いた。
「その装置、私たちに向けられるという可能性はありますか?」
「ないとは言い切れないが――」
「こっちの人数を考えれば、あんまり効率よくないんじゃねえかな?」
ソウヤは顔を上げた。
「プラタナム、着陸はできそうか?」
『はい、あまり上等とは言えませんが、無理矢理切り開いたようなスペースがあります』
モニターを表示するプラタナム。木々が左右に無造作に倒されている。飛空艇が6、7隻が着陸できそうだった。
ソウヤは着陸を命じて、遺跡の探索にかかる。目的は、魂収集装置の捜索。サフィロ号も降りて、エイタとリム、椿がやってきた。
「感じるわ……。魂が近くにある」
黒猫もどきのリムは、エイタの肩で目を細めた。非常に興奮しているようで、さすがにソウヤも引いた。
エイタが苦笑した。
「装置は、おそらく魂がたくさん感じ取れる場所だと思う。リムが導いてくれるさ」
「探す手間が減るのはいいことだ」
ソウヤは皮肉げに言うのだ。斬鉄を手に振り返れば、竜爪槍を持ったミストがニヤリとした。
遺跡へ向かうソウヤたち。岩山の上にあるその建物は、一見して城のように見えたが、よくよく見れば東南アジアにあるような寺院を連想させた。神殿だったのかもしれない。
長い長い石の階段。幅は広く、それを上がっていくのはひとつの禊のような気分になる。レーラなど一部が、足がつらくなるくらい長い階段を登った後、ようやく入り口についた。
夕焼け空。雲の隙間から見える空は赤い。
「行くぞ」
先導にガルとセイジが出た。入ってすぐの広間。人形のような岩飾りが、柱のように複数、並んで立っている。気味が悪かった。
ガルとセイジが左右に分かれて前へと進む中、ミストもその後について、敵が出てくればすぐに応戦する態勢になる。。
「気をつけて……。近くにいる」
警戒しつつ、ソウヤたちは、遺跡内に足を踏み入れた。
「なあ、爺さん。ここにザンダーがいると思うか?」
「いてくれれば、話が早いのだがね」
老魔術師は微笑した。
「我々が満更知らない相手でもないからね」
「魂収集装置をくれと言ったら、渡してくれるかな?」
「さあ、彼らの目的である『主』とやらを復活させたら、くれるかもしれない」
「魔王並に厄介な奴ならごめんだぞ」
ソウヤがそう言った瞬間、さっと肌が冷たいものを感じ取った。ガルやミストが身構え、ソウヤもまた気づく。――来る!
『アイ・ヤーァァ!』
甲高い奇声をあげて、灰色ローブを身につけた魔族たちが一斉に飛び出して、襲いかかってきた。
手には包丁を大型化したような片刃の剣や、斧の刃のついたナックルダスターのような武器を指にはめ、向かってくる。
しかし、ミストもセイジもガルも慣れたもので、武器を向けてきた者をあっさり返り討ちにする。
「こいつら魔術師じゃないのか?」
『ヤアァァー!』
刃を振り下ろしたローブ姿の魔族を斬鉄でホームランにするソウヤ。ジンは右手を向けて、魔族を魔力で宙へと飛ばす。
「どうかな。魔法ではなく、武器を抜いているということは、宗教関係の武装信者かも」
「なるほど、ねっ!」
迂闊に飛び込んできたローブ魔族を、一撃で叩き潰す。
「話し合いどころじゃねぇな」
問答無用で攻撃されたのでは、反撃していくしかない。――と!
雷鳴が轟き、ガルが吹っ飛ぶのが見えた。敵の魔術師!
靑いローブをまとった、オーク魔術師が、両手から青い電撃を迸らせ、仲間たちに向けて放ってきた。
セイジは剣で、電撃を弾きつつ、素早く後退して近くの岩飾りの裏に引っ込んだ。その間に、青ローブ・オークの側面に回り込んだミストが、飛びかかろうとして、電撃のフルバワーを浴びせられて吹っ飛んだ。
奇声をあげて、電撃をばらまくオーク魔術師。しかし――
「爺さん、反射くれ」
ソウヤが言えば、直後、斬鉄が青く光った。飛来する電撃を、ソウヤは斬鉄で叩くと反射魔法が作用して、電撃は跳ね返った。
『フォオォォォォー!!』
オーク魔術師が自分の電撃を浴びて、宙を飛んだ。
「さすがだ、ソウヤ」
「あんたもな、爺さん」
ニヤリとしつつ、ソウヤは進む。すると奥から、ゾロゾロと灰色ローブ魔族が駆けてきた。
「面倒くせぇ!」
ソウヤは斬鉄を思い切り振りかぶり、斜め前にあった石飾りに斬鉄の側面をぶつける。豪腕から繰り出される圧倒的パワーが石飾りを粉砕し、散弾よろしく魔族たちに突き刺さった。
やがて場は制圧された。敵は排除。電撃を食らったミストも、ピンピンしていて、ガルはレーラから治療を受けた。人間とドラゴンの再生力の違いである。
「ザンダーはいなかったな」
「奥にいるかもな」
ソウヤたちは、さらに遺跡へと踏み込んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
お知らせ:「魔王を討伐した豪腕勇者、商人に転職す-アイテムボックスで行商はじめました-」の連載ですが、隔日投稿から毎日投稿に変更いたします。最終話はできているので、ペースアップになりますが、ラストスパートということで10月17日まで、どうぞよろしくお願いいたします。次話は明日になります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます