第594話、総指揮官に選ばれたのは


 方針はさほど難しくない。


1、飛空艇で乗りつけ――

2、ジーガル島魔王軍拠点を空から攻撃。

3、あらかた防衛設備を破壊した後、乗せてきた兵員を降ろして、魔族兵を掃討。

4、制圧する。


 ジーガル島は、大海に浮かぶ島である。たどり着くためには、海を行くか、空から侵入するしかない。


 海には危険な大型魔獣が生息しており、現在の技術では外海を航行するのは、命がいくつあっても足りないと言われる。


 魔族のように大海を比較的安全に渡る術がない限り、ジーガル島に行くのは空からが望ましいとされた。


 現状の参加船舶は、銀の翼商会6隻、エンネア王国10隻、ニーウ帝国12隻、グレースランド王国2隻、レプブリカ国5隻、クイント王国5隻、リッチー島傭兵同盟16隻の56隻が予想された。


 一見すると、リッチー島傭兵同盟が最大の隻数を持っているのだが、16隻中3隻が輸送船、6隻は小型護衛艇、1隻は飛竜母艦であり、純粋な戦闘艦艇としてはトルドア船3隻と軽クルーザー3隻の計6隻となる。


 参加船の内容で見れば、ニーウ帝国とエンネア王国の2国が戦闘の主力となりそうで、レプブリカ国とクイント王国は、戦闘力は負けていないが数でやや不利。グレースランド王国は隻数が少なすぎた。


 銀の翼商会は、プラタナム号、サフィロ号の他戦闘力に秀でた船が2隻。残る2隻は軽クルーザーで、少々心許ない。


 そこで、今回のジーガル島攻略の人類連合空中艦隊は、6つのグループに分けられた。


 ソウヤたち銀の翼商会とリッチー島傭兵同盟の戦闘飛空艇をゴールドグループ。


 エンネア王国軍を、ブルーグループ。


 ニーウ帝国軍を、レッドグループ。


 クイント王国軍を、グリーングループ。


 レプブリカ国軍を、イエローグループ。


 グレースランド王国とリッチー島傭兵同盟の輸送船と護衛艇を、シルバーグループ、とした。


 各グループの指揮官は、それぞれの国、組織から代表を選び、従来の指揮権どおり、他国の指揮官が違う国のグループを指揮することはないようになっている。


 6つのグループの役割は、ブルー、レッドの二つが主力戦力となり、前衛、敵との交戦をメインに行う。敵飛空艇との戦闘、迎撃がなければ島の砲撃を担う。


 ゴールド、グリーン、イエローグループは遊撃ポジション。前衛のブルー、レッドの支援をしつつ、必要なら共に前進して攻撃に加わったり、後方のシルバーグループの護衛を担う。ほか、小規模な敵の迎撃や、作戦が円滑に進むように補助を担当する。


 シルバーグループは、輸送船の護衛、ならびに上陸部隊の援護が役割となる。


 会議において、それぞれの役割について話し合われた後、現地における最上級指揮官を誰が務めるかの話になった。


 グループごとの指揮官は、作戦に沿って艦隊を指揮するが、戦場にはその通りに進むことはほぼない。


 現地に到着しても、天候の影響で攻撃不可能だった場合、留まるのか、作戦を中止させて撤退するのか。


 道中、敵の有力艦隊と遭遇し、本格的戦闘になったら? 移動中のアクシデントで、艦隊がバラバラになってしまった場合は? 現地についたら、まさかの魔王軍拠点がなかった――など、ちょっとあり得なさそうな事態が発生した場合の対応。


 各グループの指揮官たちが話し合って、解決という方向が基本とはなるだろうが、会議をやっている場合ではない状況などもあるだろう。即決する必要がある時に備えておく必要があった。


 会議に参加した王たちは、おそらくエンネア王国かニーウ帝国のどちらかになるだろう、と考えた。


 出している戦力を見ても、この手の連合では強国がリーダーシップを発揮するものだ。参加可能な戦力そのものが、主導する向きさえある。


 果たしてどちらが、指揮権を取る?―― クイント王国のカルド三世、レプブリカ国のカリド王は、アルガンテ王、ブロン皇帝を見て思った。


 アルガンテ王は言った。


「私は、勇者ソウヤに、人類連合艦隊の指揮を任せたいと思う」

「!?」


 カルド三世、カリド王は、目を見開いた。グレースランド王は特に表情を変えず、ちら、とブロン皇帝へと視線を向けた。


 そのブロン皇帝は頷いた。


「ニーウ帝国も、勇者殿ならば、人類連合の艦隊を委ねてもよいと考える」


 ――マジで、こっちに回ってきた。


 ソウヤは表面上は平静を装う。本当にジンが予見した通りになってきた。


「よろしいのですか?」


 グレースランド王が聞けば、ブロン皇帝は答える。


「ソウヤ殿は、十年前の戦いでも人類の存亡を賭けて魔王軍と戦ってくれた。その男がここにいるのだ。我々の未来を委ねるに、これ以上の適任者はおらん」

「賛成です。我々は団結しなくてはならない。その旗印には勇者以上の者はいないでしょう」


 アルガンテ王が言えば、グレースランド王も首肯した。


「同意します」


 指名されたソウヤ以外の代表者3名が支持した。残るはクイント王国、レプブリカ国、リッチー島傭兵同盟だが。


「我々リッチー島傭兵同盟も、勇者ソウヤに指揮権を委ねます」


 ジンは事務的に告げたが、内心では、想像どおりの展開にニヤリとしているのだろう。


 これで4つの勢力が、ソウヤの総指揮官を推した。過半数を超え、さりとて自国から総指揮官を、と言える立場になく、かつ他に適任もいないクイント王国、レプブリカ国の王たちも同意を示した。


 かくて、ソウヤが、今回のジーガル島攻略作戦における現場総指揮官に選ばれた。


 ――責任重大だ……。


 失敗したら、人類連合の飛空艇戦力を一挙に喪失する可能性もある。各国に販売した飛空艇が戦力化するまでにしばし時間が掛かる。それを考えれば、失敗は許されない。


「各国の指導者方のご指名、謹んで拝命いたします」


 本音を言えば、いくら勇者でもこんなのはご免だった。だがソウヤは勇者である。それを人前で望まれている時、彼は勇者として振る舞わなくていけない。


「若輩ながら、総指揮官を精一杯務めさせていただきます。艦隊の指揮ではありますが、作戦進行における可否などは私からは大まかにしか出しません」


 ソウヤは、各王たちの脇に控える軍の指揮官や将軍らを見回した。


「細かな戦術や船の運用は、それぞれの国ごとの色や形もあるでしょうから、そちらはお任せしたほうがより力を発揮できるでしょう。そのためのグループ分けですが……。人類の生存と平和のために、共に戦いましょう」


 拍手が沸き起こった。自分でも拙いかなと思いつつも言い切ったソウヤだったが、周囲からの受けは悪くなかったようだった。

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