第570話、想定通りになってきた
ソウヤは、ニーウ帝国側、ブロン皇帝との会談希望を出しつつ、エンネア王国のアルガンテ王に転送ボックスで書状を送った。
ニーウ帝国は、魔王軍との戦いに向けて対応を開始した、と。
これに対して、アルガンテ王から返事がすぐにきた。
「――で、返事は何だって?」
ミストが問うた。ゴールデンウィング二世号の甲板である。眼下にはニーウ帝国帝都が広がっている。
「エンネア王国の周辺国も魔王軍の脅威に備える動きがあるってさ」
ソウヤたちが帝国での問題解決に奔走していた間に、アルガンテ王の呼びかけで、周辺国も関心を示している。
「で、オレたち銀の翼商会には、近いうちにポレリアに来てくれとある」
「ちょうどいいじゃない。ジーガル島攻略の話をするいい機会よ」
ミストがニヤリと笑った。ドラゴンは恨みを忘れない。こと魔王軍と魔族が関わると、戦闘狂の顔を覗かせる。ドラゴンがこういう思考の者ばかりでは、物騒という他ない。
そこへレーラがやってきた。
「よければお茶にしませんか?」
「そうしよう」
場所を船内会議室に移す。恒例となっているレーラがお茶を淹れて、ニーウ帝国産の焼き菓子をテーブルに置いた。中にフルーツジャムが入ったしっとりパンのような菓子である。――これはお茶と一緒に食べたい。
「次はエンネア王国ですか?」
レーラが問えば、ソウヤは頷いた。
「ああ。何でもレプブリカとクイントって国の代表が来て、銀の翼商会をご指名なんだと」
「そうなんですか?」
「何故?」
レーラ、ミストが首をかしげた。ソウヤは菓子を一口。
「――表向きは、アルガンテ王の呼び掛けに応えたって感じだけど、実のところは、この二国も、うちに飛空艇を売ってほしいんだろうな」
「あー」
「なるほどね」
ふたりは納得した。
飛空艇を対魔王軍用に販売しようと話した時、一部の国が戦力を増やすと、周辺国もその動きを注視するだろうと予想できた。
案の定、エンネア王国が飛空艇を倍増させたことで、レプブリカとクイント王国も、飛空艇を欲したのだろう。
いま、飛空艇を購入できる場所は、ソウヤたち銀の翼商会しかない。接点を持ちたいという思惑は容易に想像できた。
「お金を出せば買えるようになりましたからね」
レーラは頷いた。ミストは焼き菓子をパクリ。
「発掘は当たり外れがあるから、無駄になるかもだけど、確実に手に入るなら、そりゃそうなるわよね」
スカのある発掘コストを、確実に入手できる購入費に充てられるのだから無駄がなくなる。時間も節約できる。
「おっと」
ソウヤは、転送ボックスにきた新たな手紙をアイテムボックスから取り出す。ミストはお茶で唇を湿らせる。
「今度はどこから?」
「ニーウ帝国だよ。皇帝陛下がお会いしてくれるそうだ」
皇帝陛下との会談が、即日即行で段取られるのは、相当、銀の翼商会のことを優先してくれているようだった。
「皇帝陛下もお忙しいでしょうに」
王族であるレーラにもわかるようだ。魔王軍の工作員の問題の直後だから、皇帝も色々やることがあるはずなのだが。
ソウヤは立ち上がり、ティータイムは終了。
「美味しいお茶をありがとう。じゃあ、爺さんとヴェク城に行ってくるわ」
「ワタシが乗せていこうか?」
ミストが手を挙げた。ドラゴンなら、浮遊ボートで行くより断然早い。急がなければいけない理由はないが、忙しい皇帝のお時間を取らせるわけだから、さっさと済ませるのが気遣いというものだろう。
「じゃ、頼むわ」
ソウヤは、ジンと合流し、そこからミストドラゴンの背に乗って、帝都へと向かった。
・ ・ ・
ヴェク城の客間に通され、ソウヤたちはブロン皇帝と対面した。
「ドルーチを用意した。我が帝国の伝統的な菓子である」
「いただきます」
ジンが礼をすると、ソウヤは苦笑しつつ「い、いただきます」と答えた。……つい今しがた、同じものを腹に詰め込んだばかりだったのだ。
「して、話とは?」
「魔王軍に報復する件についてです」
老魔術師はそう切り出した。
魔王軍の大軍港があるジーガル島の攻略計画。放っておけば、敵の戦力を倍増させるかもしれない重要拠点の存在を明かし、これを叩きませんかと誘う。
ブロン皇帝の答えは――
「もちろん、我が帝国はジーガル島とやらの攻撃に参加するぞ。我々は振り上げた拳の落としどころを探していた!」
魔族工作員によって、帝国は乱された。現在のニーウ帝国民の魔族感情は、おそらく最悪の状況であろう。仕返しをしないと腹の虫が治まらないといったところか。
皇帝自身、子供を魔族によって殺されている。復讐心はひと一倍だろう。
深く説得する必要もなく、皇帝は参戦を表明した。
「あとは、他の国の動向ですね」
ソウヤはジンへと視線を向けた。
「ニーウ帝国が加勢してくれるなら、エンネア王国もおそらく動くでしょう。あとどれくらいの国が加わってくれるか、今はまだ不透明ですが」
「リッチー島傭兵同盟も、ジーガル島攻略に参加致します。失礼ながら、帝国はどの程度の飛空艇を出していただけますでしょうか?」
「軍に聞かねば正確な数はわからんが、余としては最大数。12隻動かせるならば全部出す!」
「よろしいのですか?」
ジンが眉を吊り上げれば、ブロン皇帝は頷いた。
「魔王軍の大陸侵攻軍とやらは、そちたちが討ち滅ぼしたからな。留守にしても問題はあるまい。銀の翼商会から船を購入次第、既存の船は作戦に投入しよう」
報復したくてたまらなかったブロン皇帝である。あとは、他の国々がどう動くか、だ。
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