第568話、帝国に船を売る
ニーウ帝国の正常化にはさほど時間は掛からないと思われた。
ブロン皇帝を救い、帝国を魔王軍の手から救ったことで、ソウヤと銀の翼商会、リッチー島傭兵同盟は英雄として大いに歓迎され、また報酬を得た。
銀の翼商会とリッチー島傭兵同盟の飛空艇の、ニーウ帝国領空内の飛行許可を獲得。これにより、帝国軍からいきなり攻撃されることはなくなった。もっとも、ここまで攻撃されなかったわけだが。
また帝国内の自由な商売の許可も得た上、皇帝の御用商人に加えられた。これは帝国の各都市のギルドに所属していなくても、皇帝直々の許可があるとして町中での商売を許されるのだという。
「もしそれを出して、渋い対応されたら言ってくれ。制裁する」
ブロン皇帝はニッコリとそう言った。その町のギルドが、御用達の証を軽視するのなら、皇帝の権威を蔑ろにした罪になるらしい。
――こういう国から、町で商売していいって許可、何気に初だな。
これまでは、ギルドのない辺境集落や街道、ダンジョンなどで行商をやってきた。基本、商業ギルドが存在する都市では、物を売らないでやってきた。
ただ最近では、個人的な付き合いから商売をしたり、エンネア王国の商業ギルドから招かれて、商売ができるようにはなっていた。
飛空艇を有する行商である銀の翼商会は、その行動範囲が広い。だから各地の商業ギルドに所属してしまうと、それだけで結構なギルド会費を払う羽目になってしまう。故に、あまり積極的に商業ギルドには加入してこなかった。
――そこで皇帝御用達はデカいな……。
様々な場所で商売の機会がある銀の翼商会のような行商にとっては、この御用商人の証は、垂涎の的だろう。
閑話休題。
そんな銀の翼商会が、まず最初にニーウ帝国に提供できるのは――
「飛空艇ですね。魔王軍は空からの侵攻するため、大規模な飛空艇艦隊を建造し、配備を進めています」
「魔王軍が、ニーウ帝国内に飛空艇関係の施設を作ったのも、ここを前線拠点とするためでしょう」
ジンが、ブロン皇帝に指摘した。
「銀の翼商会と我らリッチー島傭兵同盟は、魔王軍に対抗するため、希望する国に飛空艇を販売しております」
「うむ。ここ最近、貴殿らと行動して、飛空艇の有用さを痛感しておる」
ブロン皇帝は深く頷いた。
「これまでは発掘品を使っていて、船体の改装はできても独自に建造はできずにおった。船が手に入るなら、願ってもないことだ」
各国の飛空艇事情は、どこも似たり寄ったりだ。
皇帝が呼んだ軍事顧問によると、ニーウ帝国軍は12隻の飛空艇を保有しているという。
これを戦闘用に改装して使っているのだが、入れ替わり魔族の支配の影響で、保有する飛空艇は一カ所にまとめられ、さらに改装されているという。
「今にして思えば、我々から飛空艇を取り上げていたのだな」
そのおかげで、銀の翼商会とリッチー島傭兵同盟は、帝国の空を自由に飛び回れたわけであるが……。
魔王軍が、ニーウ帝国人から飛空艇を改装と称して取り上げたのは、魔王軍飛空艇が帝国内の一部を定期的に飛行していたからだろう。何も知らない帝国人と遭遇戦をやらかし、帝国中に魔王軍の噂が立つのを避けたのだ。
ともあれ、帝国は、12隻の飛空艇を再戦力化を図りつつ、リッチー島の飛空艇工房から、新たに船を購入することとなった。
リッチー島傭兵同盟が使っている最大の船であるトルドア型飛空艇をまず10隻。さらに追加で購入する意思があると、ブロン皇帝は言った。
「その辺りは、軍と財政を再検討した後だな。幸いなことに、船を受け入れるドックや発着場は揃っておる」
「まさに怪我の功名ですな」
ジンが首肯した。ニーウ帝国には、魔王軍の侵攻軍が、大陸侵攻に向けて民に作らせていた施設がある。
まだ完成していない部分もあるが、現状の規模なら何ら問題ないだろうということだった。
「では、銀の翼商会は、帝国用の飛空艇を輸送します」
ソウヤが言えば、ジンが後を引きとった。
「帝国の飛空艇が復帰できるまでは、リッチー島傭兵同盟が空の警護をしましょう」
「かたじけない。よろしく頼む」
ブロン皇帝は頷いた。
「魔王軍は脅威だ。我が帝国はもちろん、大陸各国が10年前のように協調し、立ち向かわねばなるまい。勇者殿、今一度、我らに力を貸してもらいたい」
「もちろんです、皇帝陛下。魔王軍と戦うのは私の使命です」
ソウヤは請け合った。勇者というのはそういうものだ。魔王軍から人々を守る。そのためにここにいるのだから。
・ ・ ・
皇帝との会談後、銀の翼商会の5隻の飛空艇のうち、ゴールデンウィング二世号を除く4隻が、帝都を離れた。
目指すはリッチー島。目的は、ニーウ帝国に販売する飛空艇を取りに行き、その後、再度帝国へ戻ってくるのである。
「こういうことに、商会長自ら行く必要はないんだぞ」
ゴールデンウィング二世号のブリッジで、ジンはそう告げた。行ってお遣いしてくるだけの簡単なお仕事である。
「そういう簡単な仕事は、部下に任せるものだ」
「……」
渋い顔をするソウヤである。本音を言えば、輸送の道中に魔王軍と遭遇しないか心配だった。
「だから護衛にエイタたちをつけているのだろう?」
やれやれ、とジンは肩をすくめた。
「ワンマン社長も悪くないが、規模が大きくなってきたなら、人を使うことも大事だよ。君は責任感が強いから、何でもひとりで抱え込んでしまおうとしてしまうきらいがある」
そういうものか、とソウヤは、小さく口元を緩めた。
「……王様から言われると説得力あるな」
「自分が有能だと自惚れだしたら要注意だよ。独裁的な、悪いワンマンになるからね」
ジンは笑った。
「それで、我らが商会長。次の行動についてだが――」
「うん?」
「魔王軍の大陸侵攻軍を叩いたことで、その本格攻勢までの時間は稼げるだろう」
「だろうな」
「そこで、もうひとつの懸念事項を解決するべきだと思う」
懸案事項?――首を傾げるソウヤに、老魔術師は告げた。
「ジーガル島。人類との戦いのために飛空艇を大増産している魔王軍の大軍港……これをそろそろ叩く準備を進めてもいいんじゃないかな」
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