第453話、こんなことになっていた
「ねえ、ソウヤ、ちょっと聞いてくれる?」
唐突にミストに絡まれた。
「どうしたんだいきなり?」
まさにいきなりだった。彼女はソウヤの背中から抱きついてきたのだ。
アイテムボックスハウス環境内で、幹部連中を集めようと思っていた矢先である。
「ソフィアがね、セイジとヤろうとしているのよ」
「やろうって……何を?」
何となく男と女の関係を想像してしまったソウヤ。あの二人は付き合っているが……まさか。
「わかるでしょ?」
「いわゆる、肉体的な?」
「そう」
ミストも直接的接触中。ソウヤは首をひねる。
「まあ、二人とも若いんだし……。セイジが十六だっけか」
いささか若過ぎな気がしないでもない。
「で、ヤろうとしている、ということはまだシテないと」
「この前、王都でデートに出かけたのよ」
ミストは言った。買い物だと聞いている。
「で、関係の進展を狙ったみたいなんだけど、うまくいかなかったみたい」
「そうなのか」
野次馬根性はないので、ソウヤは淡泊な反応になる。
「そうなのよ。あれ以来、二人は顔を合わせると気まずくなっているみたいでね」
「……あれ、うまくいかなかったって、関係にヒビが入るほどやばかったのか?」
エッチなことしましょ、でうまくいかなった程度に思ったが、もっと深刻なように聞こえる。
「あの二人、あれでそっちのことはウブなのよね。ソフィアは、殿方はそういうのが好きだからって聞いて、頑張って勉強してセイジを誘うつもりだった」
「ふむふむ……」
相手にもっと好かれようとしたようだ。強気でプライドの高いところがあるソフィアにしては、かなり歩み寄りな姿勢を見せていると感じた。
「でも、セイジがね。性的なものを感じたら、途端に逃げ腰になったようなのよ」
逃げ腰とは――ソウヤは眉をひそめる。
――色仕掛けなどに弱そうだもんなぁ、アイツは。
だらしない、という意味ではなく、普通に免疫がなくてテンパるタイプという意味で、である。
「妙に真面目だからな……」
「そうなのよ。『ボクらにはまだ早い』とか、『結婚前にそういうことするのはよくない』とか云々」
ミストは渋い顔になった。
「セイジらしいじゃないか」
ソウヤは微笑した。結婚するまでしません、なんて古風ではあるが、イリクが聞いたら一安心するのではないかと思った。
しかし、ミストは納得していないようだった。
「ヤりたい時に、ヤればいいのに」
「ドラゴンさんは直球だな」
それはそれとして――
「ソフィアとセイジが、いまもギクシャクしていると?」
「そう。それで周りが絡み出したからね」
嫌な予感しかしなかった。ソウヤは眉間にシワを寄せた。
「あまり聞きたくないが……何があったんだ?」
「まず、セイジが周りに相談したの」
男連中に、女性との付き合い方を聞いたそうだ。わかる話である。
「最初はカーシュだったわ」
聖騎士様は、女性とのデートやプレゼントの選び方、エスコートの仕方などをレクチャーしたらしい。
「でも、それは参考にはなったみたいだけど、セイジが本当に聞きたかった部分ではなかった」
「お肌の触れ合いだもんな。……カーシュは何て答えたんだ?」
「『そちらの方面は、私の口からは言えない』と断ったそうよ」
肩をすくめるミスト。
――カーシュはきっとドーテーなのだろう。
高潔なる騎士様の中でも、とにかく真面目な男である。
「次はカマルだった――まあ、正確には相談中に通りかかった、というところだけれど」
「カマルか……」
猛烈に嫌な予感がした。あの男は諜報畑の人間であり、しかもあのルックスだから経験豊富だ。
「話を聞いたカマルは、よしわかったと言うと、夜の店に行くぞって誘ったらしいわ」
「――『お前を男にしてやる』だろ?」
勇者時代、この手の相談を受けたカマルは、騎士アンドルフや魔獣使いのコレルを夜の町の連れ出していた。
「で、セイジは?」
「当然、断ったわ。ソフィアがいるのに、別の女性を抱くのはちょっと、って」
「あいつも真面目だからな」
「むしろ、ライヤーやジンのほうが夜の町には乗り気だったみたいね」
「……」
閉口するソウヤである。ライヤーはわからなくもないが、老魔術師があれでノリノリだったというのが想像つかなかった。
――皆、男だったんだなぁ……。
「それで、セイジはどうした? 他に誰か相談したか?」
「オダシューとガルに」
ここでいつも訓練を一緒にやっているカリュプスメンバーが出た。オダシューの解決策は、カマルと同じく夜の町で経験を積ませることだったらしい。
「ガルは?」
「トゥリパに頼んで、そっちの知識を教えるつもりだったみたい」
カリュプス組の女性メンバーにヘルプを頼んだという。ソウヤは一瞬正気を疑った。
「トゥリパに話したのか?」
「彼女、そういうことならと協力を申し出たみたい。実際、服は脱いでも、直接するつもりはなかったみたいだから、あくまで勉強の一環として」
――どういうことなんだ……?
ソウヤは困惑した。ミストはお構いなしに話を続けた。
「で、夜にセイジの部屋で秘密のレッスンをしようとしたんだけど……。折り悪く、そこへソフィアがやってきたのよ」
「うわー……」
――修羅場じゃねえか。
絶対、勘違いされるやつだと思った。
「なんで、そのタイミングでソフィアがきた?」
「気まずい関係を解消したくて、謝りに行ったみたいよ。そしたら下着姿のセイジとトゥリパと遭遇よ」
「……」
ソウヤは頭を抱えた。ミストは言った。
「この話にはまだ続きがあって――」
「まだあるのか?」
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