第438話、目立たない部分


 ソウヤとバッサン男爵、ボルックは、浮遊バイクを追ってゴールデンウィング二世号まで戻った。


 飛空艇の右舷側に並べられた浮遊バイク。それらを見て、ボルックはソウヤを見た。


「あれ、どうやって船に運び入れるんですか?」


 実にもっともな問いだった。


 平地に着陸したゴールデンウィング号だが、船体下面の構造物の影響で、船体本体は地上より数メートルほど高い。


 一応、乗員の乗り降り用にタラップがある。この金属製の梯子は人は問題ないが、バイクは当然通行不可だった。


 ――まあ、オレがアイテムボックスにバイクを入れれば、それで解決なんだけどな。


 ソウヤは思ったが、ふと自分がいなかった場合はどうするのだろうかと考える。


 ここに飛空艇用の専用ドックがあれば、地面の高さと船体の高さをほぼ水平にすることができて、双方に橋をかけて大きな物資を運び入れることもできるだろう。


 あるいは船にクレーンを付けて、それで品物をつかむ、あるいはぶら下げて載せるという手もある。


 考えていると、飛空艇から降りていた魔術師たち――イリクをはじめとする王都魔術団の魔術師たちが浮遊バイクに歩み寄った。


 何をするのかと見守れば、魔術師たちは浮遊の魔法を使って、バイクを浮かせると船へと移動させる。


「なんと!?」


 ボルックとバッサン男爵は目を丸くした。


「なるほど、魔法か!」

「そういえば、銀の翼商会には六色の魔術師など優秀な魔術師がいらっしゃるんでしたね」

「……そうですね」


 ソウヤも、搬入手段については仲間たちと話していなかったから、そうきたか、と少し驚いている。


 ――大方、爺さんが言ったんだろうけどな。


 あの人は賢いから。


 ――しかし、よかったぁ。ドラゴンが直接運ぶとかじゃなくて。


 誇り高いドラゴンたちが、そんなことをしてくれるわけがないとは思うが、やろうと思えばできなくはないから、つい考えてしまう。


 もし実現していたら、周囲に与えるインパクトが大き過ぎる。


 ――そういえば、パワードスーツもどきのゴーレムはどうなんだ……?


 重量物を運ぶ作業などに打ってつけではあるのだが。この手の作業に活用されたところをソウヤは見ていない。


 何故だろう、と船を眺めて気づく。ちゃんとした飛び出し口がないのだ。以前、船から出たのは、ドラゴン形態の影竜に運ばれた時だった。


 物資用の搬入口とゴーレム用の発進口をきちんと作らないといけない。


 魔術師たちが浮遊魔法で浮遊バイクを甲板に次々と運んでいく。


 ――浮遊魔法を使えば、ゴーレムも降ろせるな。


 今の逆パターンをやればいいのだ。ソウヤは自然と口元を笑みの形に歪めた。


 ――何事も、思った通りには中々いかないもんだな!


 幸い、方法がなくて途方に暮れることがないのは、銀の翼商会スタッフの優秀さに助けられているからだ。


 やっておいたほうがいいことが、どんどん増えていく。


「ソウヤさん……?」


 ボルックが首を捻っている。ソウヤは手を振った。


「改善すべき点が出てくると、どうにかしてやろうって思うわけですよ」

「……?」


 答えになっていないが、ソウヤは不敵な笑みを浮かべる。楽しくなってきた。



  ・  ・  ・



 バイクをすべて積み込んだ後、ソウヤは船内に男爵とボルックを招いて、今後の相談をした。


「――バイク作りは始まったばかりだ」


 バッサン男爵は言った。


「先にも言ったが、町でバイクを買った者は問題ないが、町以外へ運ばねばならない時、今の町では充分な対応ができない」


 ソウヤとボルックは頷いた。


「今回のような規模の注文が入った場合、その輸送を銀の翼商会にお願いしたいと思っている」

「うちは輸送業も対応できますから、依頼とあれば参上しますよ」

「うむ、よろしく頼む」


 バッサン男爵は頭を下げた。ソウヤもお辞儀で応える。


 ボルックが口を開いた。


「規模の大きな輸送はお任せするとして、問題はやはり小規模な依頼でしょうか」

「うむ。この町に依頼主が来てくれればこちらも楽ではあるが、相手によっては届けないといけない場合もあるだろうな」


 バッサン男爵は唸る。


「つまり、貴族ですね」

「そうなるな。さすがにたった一、二台を運ぶために銀の翼商会にきてもらうわけにもいくまい」

「飛空艇の燃料代もかかるでしょうし」


 ボルックが気遣うようにソウヤを見た。


 ――ゴールデンウィング二世号については、魔力燃料は無限だから燃料代はかかってないんだけどね。


 ただこれは拾いものの魔道具で、存在が明らかになれば大枚はたいても欲しいと言ってくる者は多いだろうから、他言はしない。


 盗んだり、襲撃してでも奪おうとするだけの価値があるのだ。余計なことは言えない。


「――ということで、ソウヤ殿。我々としては銀の翼商会が使用していたトレーラーなる大型の移動手段について大変関心があるのだが」


 ――さっきもそんな話していたな。


 言い出しにくいから、回りくどい言い方をしたのか。とんだ茶番である。


「トレーラーと言っても、考え方は馬車と変わりませんよ。馬ではなく、浮遊バイクが牽引しているだけなので。トレーラーに浮遊できる処置が必要ですが」

「その辺りのノウハウについても、ご教授いただけるとありがたいのだか」


 バッサン男爵は言った。


「浮遊バイクとそれに関係する技術を提供してもらっているソウヤ殿と銀の翼商会には感謝してもしきれない。だからこちらで試作する前に、お伺いを立てておくのが筋というものだろう」


 黙って真似して、こちらとの関係を悪化するようなことは避けたいということだろう。仕組みはともかく、見ているのだから作ろうと思えばできたはずだ。


「浮遊バイクに関しては、我が町と銀の翼商会で契約を交わしてはいる。だがトレーラーや乗り物に関してはその範囲外だ。そちらとしても儲けになるネタを放置しておくのももったいないと思うのだ」

「この際言ってしまうと、銀の翼商会さんがトレーラーや大型浮遊乗り物を売るのはかまわないですが、それ以外のところに真似されて作られるのは面白くないわけですよ」


 ボルックは正直だった。


「先ほどソウヤさんも、浮遊バイクが牽引しているだけで馬車と変わらないとおっしゃいましたが、それはつまり比較的模倣が簡単ということでもあります」


 ――いわゆる特許のお話か。


 ソウヤは察した。自分たちにも関わりがあることだから、ここらで話し合っておきたいのだろう。

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