第424話、要するに無線機である


 ジンが魔力式通信機なる魔道具を作り出した。


 アクセサリーのブローチのような小物がひとつ。これで通信ができると言う。スマホよりも遥かに小さいが……。


「これで通信ができるのか?」

「同じ通信機同士でな」


 ジンは答えた。電話を使うなら相手も電話がないといけない、という当たり前のこと。


「もっとも、魔力念話を極めた者なら通信機がなくても、その通信機を持っている者と交信はできるがね」

「極めた者ってことは、念話が使えれば誰でもこの通信機と交信できるわけじゃないのか」

「通信機の周波数に自身の念話を合わせる必要があるからね」

「周波数」

「なんだ、シュウハスウって?」


 ライヤーが首をひねった。


「この場合は電波の振動ってことでいいのか?」


 ソウヤの確認に、老魔術師は首肯した。


「そうだ。つまりは魔力を電波に変換して飛ばしているだけで、やっていることは無線と同じだ」

「なるほど」


 この世界で無線を再現したらこうなった、ということだ。それをこのサイズでやり遂げてしまうところが凄いところではあるのだが。


「なるほど、わからん」


 ろくな説明がなくソウヤが納得してしまったせいか、ライヤーには理解ができなかった。


「これを持っている者同士なら離れていてもおしゃべりできるってことさえわかればいいさ」

「そういう魔道具だ」

「そういう魔道具か。わかった」


 ライヤーは納得した。世の中、どうしてそうなるかわからない魔道具や魔法武器なんて掃いて捨てるほど存在する。そんな場合でも、使い方さえわかれば問題ないとされる。


 ソウヤは、通信機を指先でつまんだ。


「それで爺さん、こいつは量産できるのかい?」

「ある程度は。材料とそれを作る魔術師や魔道具技師がいたほうがいいがね」

「銀の翼商会メンバー全員に持たせられる分は?」

「全員が必要かは疑問だが――」


 たとえば料理担当とか、裏方業務とか、はてはミストなどのドラゴンたちとか。


「前線に出るメンバーには行き渡るようにしたいね」


 これがあれば、たとえば地上にいたソウヤがゴールデンウィング号のライヤーと直接やりとりができるわけだ。他にも偵察に出ているメンバーと交信したり、やれることは多い。


「見た目はとてもシンプルな形なんだが、使い方は?」

「裏面を押すと起動。表を押している間が通話状態」

「離すと通話が切れる、と?」


 ソウヤは通信機の裏表を確認する。裏面を一度押すことでスイッチが入る、と。


「それで同じ通信機からの声が聞こえるようになる」


 ジンは説明しながら、もうひとつ通信機を取り出した。


「いま手本を見せる。――あーあー、こちらウィザード。フィーア、聞こえるか?」


 通話スイッチから手を離して、ややして一瞬雑音のような音が聞こえた。


『こちら、フィーア。よく聞こえています、ウィザード』

「フィーアの声だ!」


 ライヤーがここにはいない機械人形の返信に大声をあげた。


「ライヤー、ここは食堂だ。皆がびっくりするから静かに」

「あ、ああ、すまねぇ」


 思わず腰を浮かしていた彼は席についた。


「ずるいぞ、おれより先にフィーアに渡すなんて」

「ちゃんと通話できるか助手が欲しかったのでね」


 ジンは悪びれなかった。ライヤーはうめく。


「あいつ、おれと操舵を変わってたんだ。あの時には、もうこの通信機持っていたのかよ」

「そんな悔しがるようなことか?」


 ソウヤは呆れてしまう。


「ところで爺さん、これって通信相手って選べるのかい?」

「いや、これは持っていて、かつ電源が入っていれば全員に聞こえるタイプだよ」


 ジンは言った。


「だから自分の名前と、知らせたい相手の名前を言わないといけない。あくまで、これは業務連絡用で、プライベートトークをするものではないんだ」

「……理解した」


 まさに前回のデュロス砦の事件の時にあったら便利だったやつである。戦闘や作業中の確認や報告に活用する魔道具だ。


「短距離での連絡用と解釈してくれ」

「いや、充分だよ爺さん。オレたちが使う分にはな」


 ソウヤは通信機をテーブルに置いた。


「小さいから携帯性に便利そうだ……。ちょっとなくしそうで怖いが」

「だからブローチ型にしている。服などに留められるようにな」

「ひょっとして、その形にしたのも一見アクセサリーに見えて通信機とわからないようにするためだったり?」


 ソウヤが聞けば、ジンは鷹揚に頷いた。


「他にも腕輪型も検討している。こう手首あたりに巻いて」


 老魔術師が、腕時計をつけるような仕草をとった。腕時計型の通信機とは、またSFチックである。面白そう、とソウヤは思った。


「偽装という意味ではイヤリングやペンダント型というのもいいと思う」

「いいね、スパイみたいだ」


 思わず笑うソウヤ。ライヤーがテーブルの上の通信機をとった。


「こいつはもうもらっていいのかい?」

「ああ、君はゴールデンウィング号にいることが多いからな。アイテムボックスハウス内に知らせる用件も多いだろうからな」

「……アイテムボックスを電波って通過するのか?」


 ゴールデンウィング号にアイテムボックスハウスへの出入り口を設置しているが、中と外では空間が違うとソウヤは思っていたのだが――


「フィーアと交信できただろう?」


 ジンは先ほどやった通信を例にあげて指摘した。


「私もうまく説明はできないが、交信用の電波はやりとりができるようだ。君のアイテムボックスは、我ら人間の手には届かない神の世界の技術のようだからね。何故そうなるかはわからん」


 そこで老魔術師は苦笑した。


「私も最初はアイテムボックスの内外で通信ができると思っていなかったから、出入り口に伝令を置いて、通信の際に人力リレーをさせないといけないかなと思っていた」


 外での通信内容をアイテムボックス内に入って、そこで中の人間に通信を送る。伝令というか伝言ゲームのようだとソウヤは思った。


 伝令が肝心な部分を聞き違えて、きちんと伝わらないパターンもありそうである。もっとも、その心配はいらなかったことがわかったが。


「しかし、通信機か……」


 ソウヤはライヤーの後ろで、新しい魔道具に興味津々のイリクや魔術師らを見ながら思う。


「これ、商品化したら売れるんじゃないかな」

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