第397話、魔族アジト制圧


「まあまあ、あんたたち! どこから入ってきたの!?」


 ハイリザードマンの女魔術師カイダはヒステリックに叫んだ。


「お邪魔するよ!」


 ソウヤはそれ以上問答する気もなく、トカゲ魔術師に突っ込む。


「キーっ! ニンゲン風情が! ファイアボール!」


 渦巻く火球が、魔女の真ん前に生成される。ソウヤは斬鉄を振りかぶり――


「せいやっ!」


 火球を吹っ飛ばした。カイダは目を丸くする。


「ちょ、あんた、なんてことするのよ!? ……おおっ!?」

「降伏するなら命は助けてやるぞ、トカゲのお嬢さん?」


 ソウヤはカイダの魔術師ローブの襟をつかんで引き寄せた。――はい、確保。


「あんたの顔どっかで見たわぁ!」

「奇遇だな。オレもお前のツラをどこかで見た気がするぜ」


 グラ村で村人の魂を収集していた魔族の魔術師だ。


「そういえばお前、連れがいなかったか?」


 ダークエルフで、たしか、このトカゲ女を師匠とか呼んでいた。


「マーロのこと?」

「名前は知らん。どこにいる?」

「それならあんたの後ろ……」

「なーんで、バラしちゃうんですか、お師匠様ぁー!」


 後方上から、カイダと同じローブをまとうダークエルフ女がジャンピンクキックで迫っていた。


 ソウヤはとっさに身を引き――ダークエルフの蹴りが、トカゲ魔術師の師匠に命中した。


「ほげぇっー!」


 奇妙な声をあげて、カイダの体が吹っ飛び二転三転。師匠を蹴り飛ばしたマーロは、着地して、ふうと息をついた。


「計画通り。お師匠様を救出したわ!」

「ゲホッ! 何が計画通りだよ!? よくもあたしを蹴ったわね! ゲホッ、グォ!」

「これは酷い……誰がこんなことを」

「あんただろ! ぐぉぉ!」


 その場にうずくまってしまうカイダ。蹴りの威力は相当だったようだ。


「漫才は終わったか?」


 ソウヤは間髪を入れず、今度はマーロに肉薄する。ダークエルフ魔女は戦慄する。


「ひぃぇえええぇぇー! 防御障壁ィ!」

「むぅだぁっ!」


 渾身の突きが障壁に激突した。ガシン――ではなくバキッと割れる音。次の瞬間、防御の魔法が砕かれ、斬鉄の先端から衝撃波が放たれた。


「はうぁっ!」


 衝撃波を腹部に直撃され、マーロの体は飛んだ。うずくまるお師匠の横でようやく止まる。


『カイダ様! マーロ様!』


 魔族兵がバタバタとやってきた。


「電撃の矢! 放射!」


 ソフィアがライトニングの魔法を扇状に発射。先頭の魔族兵複数を倒した。


「新手は任せてもらおうか!」


 カーシュ、そしてリアハが魔法を逃れた魔族兵へと向かう。ソウヤは倒れているマーロとカイダのそばによった。


「メリンダ、そこで吊されている檻にいる人質を解放しろ」


 指示を出してソウヤは魔族二人にタッチ。時間経過無視のアイテムボックス内に放り込む。


 下手に縛ったりすることもなく、拘束後の手間が省けるのは楽だ。時間が止まっているので小細工や脱出は不可能である。


「とりあえず、目標は確保か」


 遠くで聞こえる魔族兵とおぼしき断末魔。ミストやカリュプスメンバーがうまく倒しているのだろう。


「意外とあっけないものでしたね」


 エルフの治癒魔術師のダルがやってきた。


「私の出番はなしですか」

「ドクターの出番がないことはいいことじゃないか」


 誰も怪我をしていない、ということだから。


「もっとも、あっちはどうなっているかわからないけどな。もしかしたら、あんたの出番かもしれない」

「確かに」


 そうダルが頷いた時、鳥カゴ型の牢の前にいたメリンダがこちらを向いた。


「先生! こっちの人質を診てくださいー!」

「出番はあったな」

「ですね」


 ダルはそちらへと駆けていった。


 さて――ソウヤはカエデに視線をやった。どこか呆然としているように見えるのは、あっという間に片付けてしまったせいだろうか。


「カエデ。シェイプシフターを使って周辺の捜索をはじめてくれ。あと、一体を居住区に向かわせて、どうなっているか見てくれ」


 もし人手が必要なら駆けつけなくてはいけないから。



  ・  ・  ・



 魔王軍の残党の拠点の制圧は完了した。


 攻略メンバーは想定どおりに敵を排除して作戦を成功させたのだ。


 負傷者すら出なかった。これは気分のいいことだとソウヤは思う。うちの古参メンバーは皆強い。


 ――と、ここで慢心すると、手痛いしっぺ返しがくるんだよな……。


 勇者時代にも、調子に乗り過ぎると痛い目にあうと経験済みである。


 拠点内の捜索が行われ、魔王軍について資料になるもの、武器や防具、お金になりそうなものなどを回収した。


「いやはや、実に見事でしたな」


 制圧完了により、新人を数人連れてイリクが合流した。


「作戦説明の際の手際のよさには感心していたのですが、それを滞りなく遂行するとはさすがは勇者様です」

「おだてても何もでませんよ」

「いえ、正直な気持ちです」


 イリクは真面目な顔で言った。


「ソウヤ殿は魔王軍を相手に今日のような戦いを何十回も繰り返していたんですな。言葉ひとつひとつが明確で、それでいて注意の仕方も上手い」


 ――この人はオレを褒め殺すつもりか……?


「この人の下で戦えるのは何と幸運なことか。おそらくあの場にいた皆が感じていたでしょう。迷いも揺るぎなく、この人は正しい判断が下せる、と。私は聞いていただけですが、あなたの力強い言葉に不安は消えていました」

「そうですか……。まあ、不安がなくなっていたならよかったかな」


 何だか小っ恥ずかしくなってくるソウヤだった。


 ――いつもやっている通りなんだけどな。

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