第358話、大会参加者に紛れ込んでいたモノ


 残った参加者は8名。そのうちの二人はセイジことティーガーマスケとソフィア。


 残る6人は――


「氷使いのキオン。リング全体を氷のフィールドに変えて氷魔法を使う」


 セイジの次の対戦相手である。


「ブラッゾ。ゴーレム使い。岩のゴーレムを使うが、その岩を身につけて鎧とすることもできる」

「……あの魔術師らしからぬでかい奴な」


 ソウヤは苦笑する。ジンは続けた。


「ティス。魔法格闘士。セイジと同じく、魔術師ではなく、魔法を操るが本職は格闘家だ」

「ちっこい子だー」


 フォルスがケタケタと笑った。


 小柄の少女だが、魔法エフェクトがかかった格闘をする――というのが、これまで観戦したソウヤの感想。魔術師らしからぬ戦いぶりだが、体術の高さはかなりのものだった。


「このブラッゾとティス、どちらかがセイジの次の相手だな」

「キオンに勝てたらな」


 ジンは事務的に言った。


「で、ソフィアが次に相手をするのが、闇魔術師ヴィオレット」

「フードで顔を隠している魔術師だな。……闇魔術師?」

「あまり使い手がいない闇属性の魔術を使う。ここまでの戦いは、相手の魔法をことごとく消して、追い詰めていた」

「魔法を消す?」

「そう。攻撃魔法が全部消されてしまえば、魔術師には手も足も出ない」

「セイジか、ティスって奴の出番だな」


 魔法がなくても殴れる、というのはこういう時に役に立つ。


「となると、ソフィアには少々相性が悪いか?」


 魔法全フリである。ソフィアの場合、魔法は秀でているが、それ以外の面では残念ながら素人に毛が生えた程度である。


「手はなくはないが、ソフィアがどう切り抜けるかは見物だね」


 老魔術師は弟子の成長を楽しむ師匠の顔になる。一方で、セイジは押し黙っている。


「セイジ。心配なのはわかるが、君も人の心配をしている余裕はないぞ」

「はい、ジンさん」


 考え込んでいたセイジは頷いた。


「残る二人だが、ひとりはフマーサ。ミスター・インヴィジブルの異名があるらしい。彼の魔法は基本見えない」

「見えない、ですか?」


 要領を得ないセイジに、ジンは言った。


「攻撃魔法が見えないんだ。だからこれまでの対戦相手は回避できずにやられた」

「透明の攻撃か。そりゃ厄介だな」

「うむ。だが厄介さで言えば、その対戦相手のザンダーという魔術師は、もっと危険だ」


 眉をひそめるジン。ソウヤは首をかしげた。


「そんなヤバい奴なのか?」

「ああ、大会参加の他の魔術師より二段も三段も上の実力を持っている」

「そんなに!?」


 とはいえ、ソウヤの記憶の中に、そこまで恐ろしい魔術師がいたか思い出せない。セイジも相手が想像できなかったようだ。


「どんな魔術師なんです? そのザンダーって人は」

「雷属性使いと思われているようだが………まだ全力は出していないだろう。おそらく彼は、人間ではなく、魔族だろうな」

「魔族だって!?」


 ソウヤは驚いた。人間に敵対している種族が、この大会に参加しているというのか。


「何で魔族がここに? まさか、魔王軍の……」

「可能性はある。ただ、魔族というだけで『敵』と判断するのも早計ではあるが」


 ジンは慎重だった。


「単に腕試ししたいとかいう理由で参加しているかもしれない。魔族が参加できない、というルールはないからね」

「そりゃ、こんな大会に参加するとは思っていないからだろ」


 ソウヤは腕を組んだ。


「魔族だってわかってれば、大会運営だって参加させなかったと思うぜ」

「だろうね」


 老魔術師は認めた。


「自分で言っておいて何だが、ザンダーが腕試しなどを目的に参加しているとは、本音をいえば思えない。ソウヤの危惧する通り、何かしらの企みがあるかもしれない」


 警戒は必要だ、とジンは言った。


 ソウヤは唸る。


「もし、ザンダーが魔王軍として行動していたとして、ここにいる目的は何だ?」

「偵察、要人の暗殺ないし誘拐。破壊工作――」

「偵察はともかく、他は大会に参加する意味はあるのか?」

「会場の出入りがしやすい、というメリットはある。参加者であるなら、職質されることもあまりないだろうし」

「なるほど……」

「ただ、むしろ参加して目立つことで、『囮』をしている可能性はある」


 表でザンダーが活躍し、注目を集めている間に、裏で仲間が工作なり潜入なりをする。


「いや、理由としては弱いな。囮なら、魔族であることを活かした何かをしないと意味がない」

「……通報すべきじゃないか?」


 ソウヤは立ち上がった。


「魔族が何か企んで、それが実行されたら大変なことになるぞ」


 ここには国王がいて、多数の王都の住民がいる。何かマズイことが起きて、それを狼煙に魔王軍の残党が一斉に蜂起、なんてこともあるかもしれない。


「ザンダーが魔王軍の手先かはわからない」

「なら、確かめようじゃないか」


 ソウヤは口角を上げた。


「悪い魔族でないというなら、それでいいんだ。だがそうでなかったら……」

「そうしよう」


 ジンも立った。セイジも続こうとしたが――


「君は、大会に集中しなさい。なに、こちらはすぐに解決する」

「任せておけよ、セイジ。大会、頑張れよ!」


 ソウヤとジンは、そう言い残して会場を移動した。


「わからないが面白そう」


 アクアドラゴンとクラウドドラゴンも続いた。


 残ったのはセイジと、影竜親子。


「まあ、面倒なことはアイツらに任せておけばよかろう」


 影竜はサンドイッチを平らげた。フォルスとヴィテスも顔を見合わせると、食事に戻った。

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