第180話、かつての戦友たち
バッサンの町に滞在している間、かつての仲間であるカマルがやってきた。
「この町の近辺に出没する盗賊退治をしたと聞いた」
イケメン諜報員は旅人の装いだったが、相変わらず表情は彫像じみてあまり変化がない。
「ご苦労だったな」
「別にあんたに頼まれたわけじゃないだろ」
ソウヤは商業ギルドで浮遊バイクの試作品を眺めていた。カマルも隣でその様子を見つめる。
「バッサンで浮遊バイクの販売か」
「一般販売に向けてな。オレばかり乗ってると取り上げようって奴が出てくるかもしれん」
「バイクが量産化される……。この国の移動、そして流通に革新をもたらすだろうな」
もちろん『売れれば』であるが。世の中には現状で満足している人間もいるのだ。新しい物が必ずしも受け入れられるかは、別問題である。
「せいぜい、バッサンの町を儲けさせてやってくれ」
暗に『買え』と促すソウヤ。カマルは肩をすくめた。
「私も移動用にバイクが欲しいと思っていた」
「そいつは結構」
ソウヤは皮肉っぽく言う。
「王族や貴族たちに教えてやってくれ。そうすれば早くバイクが広まる」
「お前は、私を何だと思っているんだ?」
カマルがわずかに眉をひそめた。
「何って情報畑の人間だろう? 手に入れた情報を上司に報告するっていう。情報を流すお仕事じゃないか」
「宣伝しろ、というのは初めてだ」
「オレは、商人だからな」
利用できるものは利用するのだ。
「それでソウヤ。お姫様から頼まれていた依頼の件だが――」
「クレイマンの遺跡か?」
「何か進展はあったか?」
遺跡が多いことで有名なバッサンの町である。そこをソウヤが訪れたのは、お姫様依頼のことがあったから――と、カマルは推測したようだ。……間違ってはいない。
「天空人の遺跡と古代文明の遺跡をひとつずつ見つけた。ま、クレイマンの遺跡じゃなかったけどな」
古代文明の専門家を雇った、とソウヤが言えば、カマルは目を細めた。
「お前、見つかるかわからない依頼なのに律儀なんだな」
「一応、王族からの依頼だ。なくて当たり前、だが見つけたら銀の翼商会に箔がつくってもんだろ?」
とはいえソウヤとしては、このクレイマンの遺跡もチャンスがあるなら見つけたいと思っている。
「天空人の遺跡を見つけたって言ったよな」
「ああ」
「あれの財宝の中に、生命の水っていう回復の薬があったんだ」
ソウヤの言葉に、カマルは目を見開いた。
「カーシュが復活した」
「カーシュが……」
諜報員にしてかつての戦友は瞑目した。
「そうか。無事に治ったか」
「それで、十年のブランクがあるからな。聖騎士でもあるから、王国に復帰するなら後ろ盾が欲しい」
ソウヤは、カロス大臣に話を持っていけないか相談する。カマルは頷いた。
「魔王討伐の英雄の帰還だ。大臣も力になってくれるだろう」
「よかった。あとで、カーシュに会って話し合ってくれ」
本人にも色々条件やらあるだろう。ソウヤは話を戻す。
「まあ、そういうわけで、天空人のお宝には瀕死からでも回復させる魔法の薬があるかもしれない。そうとなりゃ、クレイマンの遺跡も充分捜索の候補に上がる」
「お前らしい」
カマルは微笑した。
「回復と言ったが、ソウヤ。後、何人いるんだ?」
「五人だな」
聖女と他四名。
「ただ、あんたも知ってるだろうが、聖女――レーラは石化が解けないことにはどうにもならない」
「グレースランド王国の聖女は、いまだ帰らず、だな」
カマルは、かつての旅の仲間にいた聖女を思い、沈痛な表情を浮かべる。
「もう、彼女は助けられないのではないか?」
「石化からの回復。……確かに奇跡でも起きなきゃ難しいかもしれない」
ソウヤは認めた。
「だが天空人の遺産なら、もしかしたら……」
「クレイマンの遺跡になら、その奇跡があるかもしれない」
うむ、とカマルは頷き、そして声を落とした。
「こちらでも、治癒効果のある秘薬を探している。かつての仲間を救いたいと思っているのは、お前だけじゃない」
王国の諜報員は言った。
「お前、ランドールを治療したな?」
「治癒の聖石を使った。ダンジョンで見つけた」
魔王討伐の仲間である。十年の時間の経過、その現実を受け入れるため、ひとりで旅をしているはずだ。
「まさか、何かあったのか?」
「いや、特に何かなければ無事だろうよ」
「……意味深な言い方だな」
「あいつも仲間の回復のための秘薬を探しているからな」
「そうなのか!?」
ソウヤは驚いた。特にアイテムボックス内に何人残っているか教えていなかった。だから、復活した彼がまさか秘薬や聖石のようなアイテム探しをしているとは思わなかった。
「戦友を救いたいという気持ちは皆同じだということだ。ソウヤ、お前ひとりに押しつけるつもりはないぞ」
カマルは睨んできた。
「もっとも、そう簡単に見つかれば苦労はしないがな」
「探してくれているって聞いただけでオレは嬉しいよ」
救われた気分だった。共に魔王を討つ旅をした仲間たちの意志に、ソウヤは心が弾んだ。
「話は変わるがソウヤ。お前、これからの予定は?」
カマルの質問にソウヤは眉をひそめる。
「何だ? これから一杯やりにいくってか?」
「そういうことではない。お前と連絡を取るのに、行動させられる私の身にもなれと言っている」
この世界には電話やメールなどという技術はない。魔術師が魔力を使った念話を飛ばすというのは聞いたことがあるが、誰でも使えるわけではない。
「じゃ、あんたにはこれを渡しておくか」
「何だ?」
「転送ボックスだ。オレのアイテムボックスの共有化領域は知ってるな?」
勇者時代の仲間であるカマルなら当然知っている。
「それを利用して遠方にいても手紙や小物をやりとりする魔法の箱だ」
これがあればわざわざソウヤのもとを訪れなくても、カマルはやりとりできる。迅速な連絡手段として、この世界では魔力念話と同等か、それ以上のものとなるだろう。
「お前、こんな便利なものがあるなら!」
カマルは声を張り上げた。
「もっと早く出せ!」
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