第166話、隊商の危機


 バッサンの町では、商業ギルドと冒険者ギルドは隣接している。


 普通の冒険者ギルドでは、魔獣の素材などを買い取る部門があるのだが、同じ建物内に商業ギルドが存在するバッサンギルドでは、それがない。


 冒険者が素材を処分してお金にする場合は、商業ギルドが直接買い取るシステムになっているのだ。


 そもそも冒険者ギルドが冒険者から買い取った素材などをどうしているかと言えば、近場の商業ギルドへ持って行くことがほとんどなので、バッサンの町でも結局のところ行き着く先は同じだったりする。


 ただし商業ギルド側は冒険者と直接取引している分、他の町の商業ギルドより安価で素材を手に入れていたりする。冒険者の儲けは変わらないが、あいだに一枚冒険者ギルドが絡まない分、安く仕入れることができるのだ。


 ただ、商業ギルド側が不当に安く買いたたくようなことがないよう、冒険者ギルド側が睨みをきかして冒険者たちが損をしないようにはしている。


 閑話休題。


 商業ギルドに遺跡関係の話を済ませて帰ろうとしたソウヤたちだったが、そこでフロアの喧噪と遭遇する。


 ギルドスタッフが慌てた様子で行き交い、商人や冒険者たちもざわついている。


「……何があったんだ?」

「尋常じゃねえな」


 ソウヤの呟きに、ライヤーも眉をひそめる。


 そこへするっと音もなくガルがやってきた。


「先ほど、負傷した冒険者が駆け込んできた。どうも隊商が盗賊に襲われたようだ」

「盗賊か」

「なるほど」


 合点がいった。


 バッサンの町では、街道に盗賊が出没しやすいらしく、商人たちは隊商を組み、冒険者を護衛に雇い移動すると聞いた。


 つまり、その隊商が多数の盗賊に襲われたのだろう。冒険者の護衛がついている中、これだけの騒ぎになっているところからして、相応の戦力だったに違いない。


「ちょっと話を聞いてくる」


 ソウヤは、話題の中心へ足を向ける。街道の盗賊は一度遭遇し、軽く蹴散らしているが、もうちょっとダメージを与えるなり潰すなりを考えていた。


「――あれには王国への献上品もあっただろう?」

「護衛の冒険者たちは?」

「かなりやられたらしい。相手は『月下げっか』だ――」


 商業ギルドのサブマスターであるボルックが戦闘をくぐり抜けた冒険者らと話している。ソウヤは声をかけた。


「盗賊が出たって?」

「あ、ソウヤさん」


 ボルックは深刻な顔を向ける。


「まずいことになりました。エリシダへ移動途中の隊商が月下の盗賊団に襲われてしまったようです」

「ゲッカ……? 有名な連中なんですか?」


 地元の情報が不十分なので問えば、ボルックは頷いた。


「ここらの盗賊をまとめつつある、目下、最大勢力を誇る盗賊団ですね。冒険者ギルドから腕利きを寄越してもらったのですが、今回は駄目だったようで……」

「生存者は?」

「正確な情報はまだ」


 ボルックは顔をしかめた。


「連中は女と子供は奴隷にするために捕虜にします。捕まっているなら、まだ生きている可能性はありますが……」

「では救助に行かなくては」


 ソウヤは当然のごとく口にした。しかしボルックは沈痛な表情を浮かべる。


「そうなのですが……今から向かっても、盗賊団はアジトへ逃げているでしょう。クラブ山にそのアジトがあるらしいのですが、行った者はほぼ帰ってこない土地です」


 隊商についていた護衛の様子では、冒険者ギルドでの救出隊の編成も難しいかもしれない。


「ボルック!」

「エルク!」


 冒険者ギルドのギルマスがやってきた。


「大変なことになったな。すまん、護衛の連中は隊商を守りきれなかった」


 謝るエルクに、ボルックは問うた。


「損害は?」

「戻った奴らの話では半分以上がやられたらしい。何人か離脱したようだが、町にたどり着いていないから何とも言えない」

「場所はどのあたりです?」


 ソウヤは口を挟んだ。


「これから救助に行きます」

「ソウヤさんが!? Aランク冒険者の方が来てくれるのはありがたいが……」


 エリックは驚く。


「今からでは――」

「うちは足の速いバイクがある。追撃すれば追いつけるかもしれない」

「そうか! 浮遊バイク!」


 エルクは目を見開いたが、すぐに眉間にしわを寄せた。


「しかし、敵は月下の盗賊団。その数は百とも二百とも言われています」

「……それはヒュドラより強いんですか?」


 ソウヤの言葉に、ギルマスたちは沈黙した。呆気にとられた、というのが正しいか。


「ヒュドラよりは個々の戦闘力は比べるまでもなく下でしょう」


 エルクが困った表情になる。


「しかし数は多いです。多勢に無勢では……」

「まともに全部当たればそうでしょうが――」


 ソウヤは何でもない調子で言った。


「大丈夫、引き際は弁えてますよ」

「……お願いできますか?」


 ボルックが、おずおずと言った。


「せめて隊商の者たちがどうなったか、それだけでも確認していただけないでしょうか」

「わかりました」


 ソウヤは請け負った。そして冒険者ギルドのギルドマスターを見やる。


「エルクさん、盗賊退治のクエスト、ありましたよね?」

「は、はい。出してはありますが、受ける者はほとんどいないですが」

「追撃と救出の中で、盗賊団と交戦する可能性は高い。もしその過程で条件を達成することがあれば、その分の報酬はいただけますか?」


 善意過ぎると抵抗があるだろうから、仕事として貰うものは貰うよのスタイルでいく。


「もちろんです。緊急クエストとして成果相応の報酬をお約束します!」

「商業ギルドからも、人員の救出や物資の奪回などに応じて、追加の報酬をご用意いたします。しかし、ご無理はなされないように――」

「了解しました。銀の翼――いや、白銀の翼が、この依頼、引き受けました」


 さて、盗賊退治と行こう。

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