第42話、ダンジョンにいたモンスターとは


 ダンジョンで孤立している冒険者に救援物資を運ぶ。

 ソウヤの提案に、冒険者ギルドフロアに集まる冒険者たちがざわめいた。


「正気か!? ドラゴンがいるんだぞ?」

「やられるのがオチだ」


 否定的な声が上がる。種族最強の呼び声高いドラゴン種には、生半可な戦力では立ち向かえない――というのが、この世界では半ば常識とされている。……もちろん、勇者や魔王は例外だが。


 エイブルの町冒険者ギルドのギルドマスター、ガルモーニは真面目な顔で言った。


「ありがたい申し出だが、さすがに相手が悪い」

「オレら、ちょっとばかしドラゴンを躱す術があるんですが……孤立した冒険者と、連絡つけたいでしょ?」

「……」


 ガルモーニは押し黙る。どうしたものか、おそらく考えているのだろうが、表情からはいまいち反応が読めなかった。

 周りの冒険者たちも、ギルド長の言葉を待つ。やがて、彼は口を開いた。


「いいだろう。やれるというならやってもらおう」


 予想外だったのか、冒険者たちが驚く。


「ギルド長!?」

「いいんですか!?」

「どの道、王都からの応援が来るまで大して動けんのだ。中の冒険者たちも心配だ。それとソウヤ、許可する代わりに、俺も同行する!」

「ギルド長!?」


 驚きはさらに大きくなった。


「危険です!」

「ギルド長に何かあったら、この町の冒険者ギルドは――」

「それはそうだが、今後の対策のためにも、俺の目でドラゴンの姿や特徴を確認しておきたい」


 周囲の反対を退け、ガルモーニはソウヤを見た。


「ソウヤ、俺はAランクの冒険者でもある。少なくとも、足手まといにはならん。同行させてもらう」

「……わかりました」


 偉い人がそばにいると、やりづらいだろうな、とソウヤは心の中で呟く。銀の翼商会が噂になっているので、その確認と場合によっては監視かもしれない。


 それとも、逆にある程度こちらの情報をオープンにして、ギルド長に知ってもらったほうが今後のためにもいいかもしれない。もちろん、信用できる人物か見定める必要はあるが、味方になってもらえれば、今後何かと話を通しやすくなるかも。


「よろしくお願いします」


 ……この件が済んだら、うちで商品を使ったらその分、ギルドにきっちり請求してやろう――ソウヤは思った。



  ・  ・  ・



 冒険者ギルドの裏手で、補給物資を受け取ることになった。食料や保存食、ポーション類など。


 持っていける分を、という話だったので、アイテムボックスに全部放り込む。


「なんだ、お前たちもアイテムボックスを持っていたのか」


 ガルモーニは、自身もポーチに物資を入れていた。


「ギルド長もお持ちのようですね」

「Aランクの冒険者だと言ったろう? だが、お前たちのアイテムボックスのほうが容量はありそうだ」


 物資を収納して、いざダンジョンへ。俺たち白銀の翼のほか、ギルドマスターのガルモーニ、そして小柄な少女冒険者がひとり加わった。


「彼女はカエデ。シノビという東方の国出身の軽戦士だ」


 ギルド長の紹介。カエデはニコリと笑みを浮かべた。十代後半、黒髪ポニーテール。小柄であまりおうとつのない体つき。武器は剣――おそらく刀を一本。


 ――ニンジャだ、ニンジャ! いやくノ一かな?


 日本人であるソウヤは、ちょっと感動。異世界で忍者に会うとは。


「彼女は斥候と、いざという時のための連絡係だ」

「うってつけですね」


 ちなみに冒険者ランクはBだという。かなりの実力者である。 


 五人はダンジョンの入り口に向かう。そこには十数人ほどの冒険者が待機していた。非常時に備えているらしい。ガルモーニがこれから中に入ると、冒険者たちに告げ、少々問答があったが、結果的には通ることことができた。


 浮遊バイクで目的地まで行ける……ならよかったのだが、あいにくと通行しづらい場所もあるので、徒歩にて移動。途中まで冒険者たちが見張っていて、そのおかげかモンスターとのエンカウントはなかった。


 しばらく進むと、通路の奥からドラゴンと思われる声が聞こえてきた。何とも重々しく、そして耳障りな声だ。


「汚い声」


 ミストがそう評した。


「でも変ね、ドラゴンにしては」


 そうこうしているうちに、通路の壁に背を預けて向こうを見ている冒険者たちに合流する。


「ギルド長!」

「ハーガン、その先か? ドラゴンは?」

「ドラゴン? いやいや、そんなもんとは違いますぜ」


 ハーガンと呼ばれた弓使いの冒険者が、奥を指さした。ガルモーニがそっと覗き込み、ソウヤも中の様子を確認する。


 赤い鱗で覆われた巨大なモンスターが通路の奥の空洞の中にいた。二本の足に、蛇頭のドラゴン――


「おい、あれはヒュドラか?」


 無数の頭を持ったドラゴンの亜種、その名もヒュドラ。翼はなく、手もなく、足もない場合もあるが、今回のヒュドラは足がある。長い尻尾と、長い首がさながら蛇のようだ。


「ヒュドラなんて聞いてないぞ」


 ガルモーニが唸った。


「A級どころかS級のモンスターじゃないか! こりゃ王都の援軍だけで足りるか……」


 冒険者たちが深刻な顔で話し合う中、ソウヤはそっと下がり、ミストに小声で聞いた。


「なあ、あのヒュドラと交信はできるか?」

「……うーん、たぶんムリ」


 ミストは顔をしかめている。美少女の姿をしていても、その正体は霧竜。ドラゴンやその亜種とやりとりができると思ったソウヤだったが。


「話が通じないというか、何言ってるかさっぱりなのよね。……こいつ、召喚獣かもしれないわ」

「召喚獣?」


 魔法で召喚したモンスターだということか? 交信できないのは、ヒュドラが一般的なドラゴンの言葉と違うから、とかではなく? よくわからないが、そういうものなのだろう。


「とりあえず、話し合いは無理でいいんだな?」

「ええ」

「あれが召喚獣だとして、ヒュドラを召喚するって並大抵のことじゃないと思うんだ」


 召喚する魔法というのは、生物を呼ぶわけで、多大な魔力を必要とする。しかもあのドラゴンのように巨大な生き物となると――


「魔族の仕業かな」

「あいつらなら、やるかもね」


 ミストが同意した。そして小首をかしげた。


「で、どうするソウヤ? ワタシらであいつをやっちゃう?」

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